2024年3月期を中心に東証プライム上場の主要製薬企業39社(製薬が本業でない企業が手がける医薬品事業を含む)の直近の決算を集計したところ、武田薬品工業が売上収益約4.3兆円で今年も首位となりました。2位は初めて売上収益が2兆円を突破した大塚ホールディングス(HD)。アステラス製薬は3位をキープしましたが、4位・第一三共が僅差に迫っています。大手を中心に海外で主力製品の販売が伸び、39社全体の売上高は前期比4.6%増となりました。
INDEX
第一三共、アステラスに肉薄…小野と協和キリンが順位上げる
国内製薬トップとなった武田薬品工業の売上収益は4兆2638億円。炎症性腸疾患治療薬「エンタイビオ」(8009億円、前期比14.0%増)など主力品群が好調で、円安も追い風に前期比5.9%の増収となりました。米国でADHD治療薬「ビバンセ」、日本で高血圧症治療薬「アジルバ」が特許切れを迎えたものの、エンタイビオや免疫グロブリン製剤の販売拡大でカバーしました。
売上高2位は2兆186億円(16.1%増)の大塚HDで、3位は1兆6037億円(5.6%増)のアステラス。大塚はグローバル4製品(エビリファイメンテナ、レキサルティ、サムスカ/ジンアーク、ロンサーフ)が17.4%増の計7269億円を売り上げ、2桁増収に貢献。アステラスは前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の売り上げが13.5%増の7505億円に達しました。
4位の第一三共は1兆6017億円(25.3%増)で、アステラスに20億円差まで迫りました。抗がん剤「エンハーツ」がマイルストンなども含めて73.9%増の4492億円を稼ぎ出し、抗凝固薬「リクシアナ」も2877億円(17.9%増)に拡大。売り上げの伸び率は集計対象とした39社の中で最も大きく、好調ぶりがうかがえます。
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5位は1兆1114億円(11.8%減)の中外製薬。新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」の政府納入売り上げの減少などが響き、上位5社で唯一の減収となりました。上位5社の顔ぶれは昨年と同じです。
6位は7418億円(0.4%減)のエーザイ。7位の小野薬品工業は、抗がん剤「オプジーボ」やSGLT2阻害薬「フォシーガ」などが伸びて売上収益5000億円を突破し、前年の9位から2つ順位を上げました。8位はFGF関連疾患治療薬「クリースビータ」がグローバルで拡大した協和キリンで、22年以来のトップ10入りとなりました。
一方、9位の三菱ケミカルグループ(医薬品事業=田辺三菱製薬)と11位の住友ファーマは昨年から順位を下げました。三菱ケミカルGは、多発性硬化症治療薬「ジレニア」の数年分のロイヤリティを前期に一括計上した反動で2桁の減収。住友ファーマは抗精神病薬「ラツーダ」の特許切れが響き、43.4%の大幅減収となりました。
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営業利益トップは中外、利益率39.5%
営業利益は4392億円の中外製薬がトップ。前の期に特許訴訟の和解に伴う一時金を計上した反動で17.7%減となったものの、首位をキープしました。営業利益率は39.5%で、前年から2.8ポイント低下しましたが、こちらも国内トップです。
2位は2141億円(前期比56.4%減)の武田薬品で、3位は2116億円(75.5%増)の第一三共でした。武田は再生医療等製品「アロフィセル」や抗がん剤「イクスキビティ」などに関する減損損失1306億円を計上したことで大幅な減益。第一三共はノバルティスから特許侵害訴訟の和解金を受け取ったことで利益が拡大しました。
このほか営業利益が1000億円を超えたのは、小野薬品(1599億円)と塩野義(1533億円)、大塚HD(1396億円)。塩野義と小野はロイヤリティ収入が好調で、営業利益率も30%を超えています。
アステラスは、米アイベリック・バイオ買収や、開発中の遺伝子治療薬などで減損損失を計上した影響で80.8%の減益。営業利益率は1.6%まで低下しました。住友ファーマも基幹3製品の1つである子宮筋腫・子宮内膜症治療薬「マイフェンブリー」などで減損損失を計上し、3549億円の営業赤字。最終利益も3150億円の赤字となりました。
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39社中30社が増収
全39社のランキングを見てみます。集計対象とした39社のうち、売上高が1000億円を超えたのは22社。歴史的な円安も売上高にはプラスとなり、30社が増収となりました。
2桁の増収となったのは、大塚HD、第一三共、小野薬品、協和キリンのほか、売上高33位のJCRファーマ(24.8%増)や34位の富士製薬工業(15.4%増)など11社。円安は営業利益にはマイナスに働き、半数近くが減益となりました。
後発医薬品企業では、東和薬品が2279億円でトップ。サワイグループHDは子会社売却に伴って米国事業を非継続事業としたことで1769億円(前年は2003億円)となり、順位を2つ落としています。
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研究開発費 武田7229億円
研究開発費が最も大きかったのは7299億円の武田薬品。円安の影響もあり、前年から15.3%増加しました。2位はADC(抗体薬物複合体)の開発に積極投資する第一三共(3643億円、8.2%増)で、3位は大塚HD(3078億円、11.8%増)。決算発表資料で研究開発費を開示した32社のうち9社が1000億円を超えました
前年からの増加率が最も大きかったのは、ライセンス費用の計上で2倍に増えた鳥居薬品(29位)。武田薬品や大塚HDを含む12社が2桁増となりました。一方、前年から減少したのは三菱ケミカルG(28.3%減)や杏林製薬(26.5%減)、科研製薬(20.6%減)など。三菱ケミカルGはカナダ子会社・メディカゴの事業撤退、杏林製薬は創薬子会社ActivXの解散が主な要因です。
売上高に対する比率はネクセラファーマ(78.9%)がトップ。イドルシアの日本・韓国事業の買収や為替の影響で昨年(47.9%)から上昇しました。2位は35.7%の住友ファーマ、3位は33.9%の日本たばこ産業。10社が売り上げの2割以上を研究開発に投じました。
海外売上高、第一三共が1兆円突破
海外売上高も3兆8124億円(8.4%増)で武田薬品がトップ。2位は1兆3477億円の大塚HDで、グローバル4製品の伸びを反映して24.4%増加しました。前年2位のアステラスは6.2%増の1兆3336億円となったものの、大塚HDと入れ替わる形で3位となりました。
4位の第一三共は、エンハーツの拡大で34.4%増となり1兆円を突破しました。特許切れが響く住友ファーマや前年にジレニアロイヤリティを計上した三菱ケミカルGなど数社を除き、ほとんどの企業が円安の影響で増収。決算発表資料で海外売上高を開示した24社のうち12社が2桁増となりました。
売上高に対する比率をみると、トップは武田の89.4%で、アステラスが83.2%で続きました。2社のほか、エーザイ(69.5%)や大塚(66.8%)、住友ファーマ(66.1%)など6社が売り上げの6割以上を海外で稼いでいます。第一三共は前年から4.2ポイント上昇し、60%を超えました。
今期 第一三共が3位浮上か
今期の業績予想を見てみると、第一三共がアステラスを抜いて売上高3位に浮上する見通し。エンハーツからの収益は30.3%増の5854億円を見込みます。
トップの武田は売上収益4兆3500億円(2.0%増)を予想。後発品の影響を主力品でカバーし、増収増益を見込みます。2位の大塚HDは2兆1400億円(6.0%増)を予想しています。
上位陣は多くが増収を計画していますが、中外はロナプリーブの売り上げ減で3.7%の減収を予想。小野薬品はオプジーボの薬価引き下げやロイヤリティ減少の影響で、2桁の減収減益となる見通しです。塩野義製薬はロイヤリティ収入の増加を見込み、小野薬品と三菱ケミカルGを抜いて8位に順位を上げそうです。
【チャートで見る】国内製薬2023年度業績
国内の主な東証プライム上場製薬企業(事業)の2023年度の業績を、▽売り上げ・利益▽研究開発費▽主力製品売上高▽海外売上高――の4つの切り口でチャートを使って解説しています。 |
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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