第一三共
将来担う「がん事業」立ち上げ目前も…収益は低迷、中計達成に暗雲
2018/10/29 AnswersNews編集部 前田雄樹・亀田真由
2017年度、最主力品のABR「オルメサルタン」のパテントクリフに直面した第一三共。国内を中心として抗凝固薬「エドキサバン」の拡大で売上高はキープしたものの、米国疼痛事業でつまづき、中期経営計画の達成に暗雲が漂っています。将来を担う「がん事業」の立ち上げが目前に迫る中、収益改善につながる次の一手が求められています。
17年度は実質減収減益
第一三共の17年度の業績は、売上高9602億円(前年度比0.5%増)、営業利益763億円(14.2%減)でした。ただし、為替の影響や特殊要因を除けば実質は減収減益。特に営業利益は期初に立てた1000億円の予想に遠く及びませんでした。
営業利益が未達となった最大の要因は、米国での疼痛事業の見直し。同事業の中核と位置づけていた麻薬性鎮痛薬「CL-108」の開発を中止し、導入元に権利を返還。これに伴い17年度決算で278億円の減損損失を計上しました。
主要製品では、16年度から17年度にかけて特許切れを迎えたオルメサルタンの減収が響きました。同薬のグローバル売上高はこの1年で3割減少。特に米国では67.8%減と大幅に落ち込みました。
日欧で抗凝固薬「エドキサバン」が急成長を遂げているものの、高コレステロール血症治療薬「ウェルコール」や抗血小板剤「プラスグレル」の不振で米国事業は大きく売り上げを落としました。
「がんに強いグローバル企業」に舵
「新薬と後発医薬品のハイブリッドビジネス」から「新薬集中」へ。第一三共はこの数年で経営方針をがらりと変えました。
その契機は、5000億円近い巨費を投じて買収したインドの後発品企業・ランバクシーの売却。後発品企業としては当時世界有数だった同社とのシナジーを狙ったものの、品質問題が相次いで発覚し、手放すこととなりました。代わりに打ち出したのが「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」という“2025年ビジョン”。その中核となるのが、20年度までの立ち上げを目指すがん事業です。
がん領域の柱となるのは、
▽抗体薬物複合体(ADC)
▽白血病
▽ブレークスルー・サイエンス(BTS、新規治療モダリティ)
の3つ。
中でも急性骨髄性白血病治療薬「キザルチニブ」と、BTSとして腱滑膜巨細胞腫を対象に開発中の「ペキシダルチニブ」は18年度中に承認申請の見通し。日本では「キザルチニブ」を10月に申請しました。いずれもピーク時には1000億円の売り上げを見込んでいます。
独自技術に自信を持つADCでは、臨床段階に3品目、前臨床段階に4品目を保有。このうちHER2を標的とした「DS-8201」は、乳がんを対象に臨床第3相(P3)試験を開始しました。これまでの試験では、大腸がんや胃がん、肺がんでも良好な結果が出ており、第一三共は大きな期待をかけています。
これらの品目を含む複数の新薬候補が、厚生労働省による「先駆け審査指定制度」や、米FDA(食品医薬品局)による「ブレークスルーセラピー」などの指定を受けています。第一三共は25年度にがん事業を3000億円規模に育てるとしており、社内リソースも前倒しで優先的に配分する方針です。
エドキサバン急成長 国内も好調
オルメサルタンのパテントクリフにあえぐ第一三共が、がん事業とともに期待をかけるのがエドキサバンです。
同薬は17年度、前年度比106.5%増の771億円を売り上げました。特に日本と欧州での伸びが顕著で、OD錠発売で競合に差を付けた日本市場では18年8月現在、売り上げベースでシェア2位を獲得。ブランド価値最大化に向けた取り組みに加え、DOAC(直接経口抗凝固薬)市場自体の拡大も追い風となり、18年度のグローバル売上高は1050億円を見込みます。中計で目標とする「20年度に1200億円」も射程内です。
国内医療用医薬品も好調です。オルメサルタンなどの長期収載品は売り上げを落としましたが、消化性潰瘍治療薬「ネキシウム」といった「イノベーティブ主力品」の6製品が堅調。16年度に引き続き、武田薬品工業を抑えて国内売上高でトップを維持しました。
国内事業は堅調ですが、18年度は薬価改定の影響を受けて国内医療用医薬品は7.8%の減収を見込みます。ネキシウムが特例拡大再算定の適用を受けて大幅な薬価引き下げを受けたことから、主力6製品の売り上げは2120億円と前年並にとどまる見通しです。
依然課題の収益力 中計達成は困難か
20年度に「売上高1兆1000億円、営業利益1650億円」を掲げる中計は、達成が厳しくなっています。
足を引っ張るのは米国の疼痛事業。麻薬性鎮痛薬「CL-108」の開発中止と、疼痛薬「ミロガバリン」のP3試験の失敗が重なり、米子会社・第一三共インクでは約280人の人員削減に踏み切りました。別の米子会社・ルイトポルドの注射剤は順調に売り上げを伸ばしているものの、頼みのエドキサバンも米国では空振りで、世界最大市場での苦戦は続きます。
また、重要課題である収益力も改善の兆しが見えません。リストラ効果のあった15年度を除き、ここ4年は毎年のように数百億円規模の減損損失を計上。17年度の営業利益率は7.9%で、主な上場製薬企業の平均(14.3%)との差は開いたままです。
18年度は薬価改定の影響もあり、売上高9100億円(5.2%減)、営業利益780億円(2.3%増)を見込みます。中計の中間目標として設定した営業利益1000億円は未達。米国疼痛事業でつまずいたこともあり、このままでは最終年度の目標を達成するのは困難と言わざるを得ません。
こうした現状を踏まえ、生産営業体制の効率化や保有株式の売却などの利益創出に向けたかねてからの取り組みに加え、同社は新たに「収益を支える施策」を検討しています。
7月末には、その一環として長期収載品41製品の譲渡を発表。さらなる打ち手も検討しており、アナリストはOTCなどの動きに関心を集寄せています。
17年度で克服するはずだったパテントクリフが尾を引く中、今後を占うがん事業の立ち上げが迫ってきた第一三共。まずは収益低迷のトンネルを抜け出せるのかどうか。動向に注目です。
【コラム】後発品事業にも注力 オーソライズド・ジェネリックとバイオシミラーで
世界市場からは手を引いたものの、国内では後発品事業にも力を入れています。
その中心はオーソライズド・ジェネリック(AG)です。これまでに自社品の「オルメテック」や他社品の「クレストール」などのAG10製品を発売。積極展開を公表した抗がん剤AGでは、ゲフィチニブ(先発品名・イレッサ)が承認取得済みで、ほか3製品も承認申請しています。
また、バイオシミラー(BS)市場への参入も秒読みです。第1弾となるのが、抗がん剤「ハーセプチン」(一般名・トラスツズマブ)のBS。9月末に胃がんと乳がんの適応で承認されました。2番手ではあるものの、先行する日本化薬のBSが申請を取り下げた乳がんも対象としており、追い上げを図ります。
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