久光製薬
モーラス落ち込み業績低迷、OTC強化で業績回復なるか
2019/8/6 AnswersNews編集部 前田雄樹・亀田真由
「貼付剤による治療文化を世界へ」を企業使命に掲げる久光製薬。2015年度までの好業績を支えた消炎鎮痛薬「モーラステープ」が医療費抑制策などを背景に売り上げを落とし、業績不振にあえいでいます。好調な一般用医薬品「サロンパス」などに注力し挽回を図る方針で、米国とアジアでの拡大を仕掛けます。
「モーラス群」大幅減、厳しい医療用医薬品
久光製薬を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しています。2000年度からの連続増収は15年度でストップ。18年度は売上高1434億円(前年度比3.4%減)、営業利益223億円(17.3%減)となりました。要因は、成長を支えてきた消炎鎮痛薬「モーラステープ」の落ち込みです。
モーラステープはピーク時に777億円を売り上げましたが、後発医薬品の普及や薬価の引き下げで18年度には421億円(15.3%減)まで減少。「1処方につき原則70枚まで」とする湿布薬の処方制限が導入された16年4月以降は市場も低迷しています。19年度の売上高予想は381憶円(9.5%減)で、業績の足を引っ張ります。
新商品群の疼痛薬「ノルスパンテープ」や過活動膀胱治療薬「ネオキシテープ」も、競合との差別化がうまくいかず、思うように売り上げが伸びていません。ノルスパンテープは、19年3月、製造販売元のムンディファーマに販売を移管。18年4月に発売した抗アレルギー剤「アレサガテープ」も、ピーク時の売上高予想は26億円で、モーラスの減少を補うような大型新薬はありません。
苦戦が続く米ノーベン社
09年に買収した米子会社ノーベン・ファーマシューティカルズを中心に展開する海外医療用医薬品事業も苦戦しており、18年度の売上高は156億円(14.1%減)にとどまりました。
成長ドライバーと期待し13年に発売した非ホルモン経口製剤「Brisdelle」の販売が振るわず、抗うつ経口製剤「Pexeva」とともにアイルランド・セベラに売却。営業部門も16年に閉鎖し、貼付剤に集中する体制に切り替えました。19年度は、卵胞ホルモン・エストラジオールの貼付剤「Minivelle」が25億円(59.0%減)と大幅減収の予想で、ノーベン全体は32.2%の減収を見込みます。
好調なOTCで「売上高比率50%」事業の軸足の転換へ
医療用医薬品とは対象的に、一般用医薬品(OTC)事業は好調です。発売85周年を迎える消炎鎮痛薬「サロンパス」シリーズは、世界100カ国以上で販売。国内・海外とも拡大しており、18年度は日本で113億円(5.3%増)、海外で218億円(16.6%増)を売り上げました。
サロンパスは、16年度から3年連続でOTC消炎鎮痛貼付剤の世界トップシェアブランドに認定。企業としても2年連続で同カテゴリの販売シェアトップに認定されました。18年度のOTC全体の売上高は541億円で、15年度と比べると34%の増収となりました。
17年度からの中期経営計画では、「収益水準の安定化を目指しOTC事業により一層注力する」とし、最終年度の21年度にOTCの売上高比率を50%まで引き上げる目標を掲げました。
米国・アジアでの販売強化で業績回復へ
OTC事業のさらなる拡大を牽引するサロンパス群は、米国・アジアを中心に販売を強化し、21年度に450億円の売り上げを目標にしています。
アジアでは、17年8月に中国・蘇州市、18年2月に香港で新会社を設立。日本を訪れる中国人観光客に絶大な人気を誇るサロンパスを自社展開します。内服薬が一般的な米国のOTC鎮痛消炎貼付剤市場では、SNSなどマルチチャネルで浸透を図っています。
OTCに軸足を移す中、医療用医薬品でも既存役との差別化を意識した貼付剤を開発中です。19年度は国内で皮膚刺激を大幅に低減した経皮吸収型パーキンソン病治療剤「HP-3000」の発売を控えるほか、米国で経皮吸収型注意欠如・多動症(ADHD)治療剤「ATS」を申請予定。アジア市場ではモーラス群の販売も開始しました。
医療用の新薬開発に経営資源を集中させる企業が多い中、OTCに業績回復を託す久光。海外での販売強化は、果たして実を結ぶのでしょうか。
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