
2025年3月期を中心に東証プライム上場の国内主要製薬企業39社(製薬が本業でない企業が手がける医薬品事業を含む)の直近の決算を集計しました。国内製薬トップは今年も武田薬品工業で、売上収益は約4.6兆円。2位は大塚ホールディングス(HD)で、3位はアステラス製薬。円安の恩恵もあり多くの企業が海外売上高を伸ばし、39社全体の売上高は前期比10.7%増、営業利益は60.8%増となりました。
INDEX
アステラス1.91兆円、第一三共1.88兆円
国内首位の武田薬品工業の売上収益は、前期比7.5%増の4兆5816億円。炎症性腸疾患治療薬「エンタイビオ」(9141億円、14.1%増)などの主力品が円安も追い風に2桁増となり、米国のADHD治療薬「ビバンセ」、日本の高血圧症治療薬「アジルバ」の特許切れによる減収を補いました。
2位は2兆3299億円の大塚HD。抗精神病薬「レキサルティ」(2674億円、25.8%増)や抗がん剤「ロンサーフ」(1044億円、30.3%増)の売り上げ拡大で15.4%の増収となりました。3位のアステラス製薬は1兆9123億円(19.2%増)。前立腺がん治療薬「イクスタンジ」は売上収益全体の48%にあたる9123億円(21.6%増)を売り上げました。
4位の第一三共は、抗がん剤「エンハーツ」(マイルストン含めた収益6514億円、45.0%増)が牽引して1兆8863億円(17.8%増)。5位の中外製薬(1兆1171億円、5.3%増)、6位のエーザイ(7894億円、6.4%増)までは前年と同じ順位でした。エーザイのアルツハイマー病治療薬「レケンビ」は前年の10倍超となる443億円を売り上げています。
7位には4956億円(12.1%増)の協和キリンが浮上。FGF23関連疾患治療薬「クリースビータ」が好調です。同社と入れ替わる形で8位に下がったのは小野薬品工業。昨年6月に買収した米デサイフェラの製品が加わったものの、がん免疫療法薬「オプジーボ」の薬価引き下げやロイヤリティ収入減で3.1%の減収となりました。
11位の住友ファーマは、北米で販売する「基幹3製品」が計1617億円(83.3%増)まで成長。全体では26.8%の増収となりました。
中外、営業利益は5000億円突破
営業利益のトップは、5420億円(23.4%増)の中外製薬。新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」の政府納入がなくなったことでポートフォリオに占める自社創製品の比率が上がり、原価率が改善しました。営業利益率は前期比6.8ポイント増の46.3%で、こちらも業界トップです。
2位は武田薬品で、効率化プログラムによる経費削減効果もあって60.0%増の3426億円を確保。利益率は2.5ポイント増の7.5%でした。3位の第一三共(3319億円、56.9%増)と4位の大塚HD(3236億円、131.8%増)までが営業利益3000億円超。両社とも自社創製品の好調な販売と原価率改善で大幅な増益となりました。利益率はそれぞれ17.6%、13.9%でした。
売り上げ上位陣のうち、営業利益率が中外に次いで高かったのは35.7%の塩野義製薬。抗HIV薬のロイヤリティ収入が好調で、営業利益は1566億円となりました。住友ファーマは北米の基幹3製品の販売拡大に加え、北米のグループ会社の再編や研究開発費の削減によって3期ぶりの営業黒字を確保。営業利益率はエーザイを上回る7.2%でした。
一方、前期比62.6%の大幅な減益となったのは小野薬品。買収関連費用がかさんだほか、SGLT2阻害薬「フォシーガ」のマイルストン支出などで597億円となりました。田辺三菱製薬(三菱ケミカルグループの医薬品事業、25.1%減)と協和キリン(1.4%減益)も減益。アステラスは減損損失の計上で大幅減益となった前年から60.8%の増益となったものの、24年度も減損損失があり営業利益は410億円(営業利益率2.1%)にとどまりました。
関連記事:ランキング上位企業の決算の詳しい解説 |
増収33社・増益28社
集計対象とした全39社のランキングを見てみると、売上高1000億円を超えたのは22社。前年のライセンス収入計上の反動で5.3%の減収となった帝人(ヘルスケアセグメント)が順位を1つ落として20位となり、海外が好調だった久光製薬に抜かれました。後発医薬品メーカーでは東和薬品が売上高2596億円でトップでした。
増収となったのは39社中33社。12位以下で2桁以上の増収となったのは、24位の科研製薬(30.5%増)や33位のペプチドリーム(62.6%増)、38位のネクセラファーマ(125.9%増)など12社です。科研製薬は海外大手への導出が重なって2ランクアップ。ペプチドリームも放射性医薬品領域で創薬研究提携を拡大し、大幅な増収増益で5つ順位を上げました。
21位の杏林製薬も自社創製品の導出に伴う一時金収入で101.6%の増益。17位のツムラ(100.5%増益)や29位の扶桑薬品工業(110.3%増益)は不採算品再算定によるプラスの影響もあって大幅な増益となりました。全体では28社が増益となっています。
関連記事:国内製薬・25年3月期、中堅の好業績目立つ…科研と杏林が導出で利益倍増、ツムラなど不採算品再算定恩恵
研究開発費 住友ファーマが半減
研究開発費トップは今年も武田薬品で、前年から横ばいの7302億円でした。2位の第一三共は前年比18.8%増で4000億円を突破。3位は3277億円(11.4%増)のアステラス製薬で、前年3位の大塚HDを上回りました。
決算発表資料で研究開発費を開示した33社のうち、1000億円を超えたのは9社。新たに1000億円台となったのは協和キリンで、英オーチャード買収や抗OX40受容体抗体の開発費用増加で43.6%増加となりました。小野薬品も買収や提携で33.6%増の1499億円。売上高に占める割合は30.8%で、上位10社ではトップです。
このほか、科研製薬(49.3%増)やあすか製薬HD(48.7%増)が積極的な提携や導入で投資を増額しました。一方、住友ファーマはがん領域と細胞治療への集中で、前年の1126億円から55.7%減となる499億円まで費用を圧縮。売上高比では23.2ポイント減の12.5%に下がりました。
海外売上高 武田薬品は売上高比9割
海外売上高は武田薬品の4兆1631億円(9.2%増)がトップ。消化器領域とがん領域を中心に販売を伸ばし、売上高に占める海外売上高の比率は90.9%まで上昇しました。2位は1兆6453億円のアステラス製薬で、米国で新製品が好調だったこともあり23.4%の増収。3位は1兆6302億円(21.0%増)の大塚HDでした。
4位の第一三共はエンハーツの拡大で30.0%増の1兆3025億円。5位の中外は血友病治療薬「ヘムライブラ」のロシュ向け輸出が大きく拡大しました。円安の影響もあり、地域別売上高を開示した全25社の海外売上高は約12兆円と、前年から17.8%増加。ロイヤリティ収入が減少した小野薬品を除く24社で海外売上高が増加しました。
売上高に占める割合では、武田薬品のほか、アステラス(86.0%)、住友ファーマ(76.8%)、協和キリン(71.5%)、エーザイ(71.0%)、大塚HD(70.0%)が7割超え。全25社のうち13社が売り上げの半分以上を海外で稼ぎ出しました。
今期 第一三共が2兆円突破か…塩野義も買収で5000億円へ
今期は第一三共が売上収益2兆円を予想しており、国内3位に浮上する見通し。マイルストンを含むエンハーツの売り上げは7615億円(16.9%増)を見込みます。武田薬品は後発品の影響で1.1%減を計画するものの首位をキープ。エンタイビオの販売予想は9820億円と1兆円に迫る勢いです。大塚は約2.4兆円で売上収益2位を維持する見通しです。
今年10位の塩野義は、鳥居薬品を含むJT(日本たばこ産業)の医薬品事業買収で20.9%増の5300億円を予想。エーザイに次ぐ7位に浮上するとみられます。
住友ファーマはアジア事業の譲渡に加え、日米で後発品の影響を受けることから11.0%の減収予想。ただ、譲渡による利益の計上や事業構造改善費用の減少で営業利益は87.5%増を見込みます。今年9位の三菱ケミカルGは、田辺三菱製薬の米ベイン・キャピタルへの譲渡に伴い予想を非開示としました。
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
あわせて読みたい
関連キーワード
オススメの記事
人気記事

【無料】製薬業界専門転職サポート