2021~25年度の「経営計画2021」を走らせるアステラス製薬。中間年となる23年度業績が発表され、計画で掲げる3つの「成果目標」の達成は難しい状況が明らかになりました。残り2年で抗がん剤「イクスタンジ」の特許切れを乗り切る体制をどこまで構築できるかが焦点となります。
INDEX
24年3月期は大幅減益
アステラスの24年3月期の売上収益は前期比5.6%増の1兆6036億7200万円でした。営業利益はフルベースで80.8%減の255億1800万円、コアベースでも35.6%減の1846億4100万円と大幅減益。米アイベリック・バイオ買収の影響が主な要因で、遺伝子治療薬の開発計画見直しなどに伴う減損損失がフルベースの利益を圧迫しました。
アステラスは進行中の中計で3つの「成果目標」を掲げています。▽売上収益=イクスタンジと重点戦略製品の売り上げを25年度に1.2兆円以上▽パイプライン価値=フォーカスエリア・プロジェクトからの売り上げを30年度に5000億円以上▽コア営業利益率=25年度に30%以上――です。
最大の主力品であるイクスタンジの23年度の売上収益は7505億円(前期比14%増)で、ピーク時予想として設定した「7000億円以上」を上回る実績を上げました。同薬は27年の米国を皮切りに各国で特許切れを迎えますが、中計期間中は最主力品であることに変わりはありません。引き続き同薬の価値最大化に取り組みますが、最大市場の米国では来年1月、インフレ抑制法(IRA)に基づいて公的医療保険「メディケアパートD」の再設計が行われる予定。25年3月期は5000万~7000万ドルのマイナス影響が見込まれ、グローバル売上収益は1%増と前期から横ばいにとどまりそうです。
パドセブやアイザーヴェイが成長
重点戦略製品では、抗がん剤の抗体薬物複合体(ADC)「パドセブ」が前期比2倍近い854億円を売り上げ、今期も1512億円を予想。「局所進行性・転移性尿路上皮がん1次治療」の適応追加申請が3月に中国で受理されるなど、継続的な成長に向けて重要なマイルストンを達成しています。ピーク時の売り上げ予想は従来、「3000~4000億円」としていましたが、好調な開発・販売の進捗を踏まえて「4000~5000億円」に引き上げました。
アイベリック・バイオの買収で手に入れた加齢黄斑変性治療薬「アイザーヴェイ」は、想定を上回るスピードで成⾧しています。23年8月に発売した米国での市場シェアは24年1~3月期で25%に達し、売上収益は今期464億円まで伸びる予想。岡村直樹社長CEO(最高経営責任者)は、25年度目標の1000億円に対して「期待通りの進捗」と胸を張ります。25年度からは売り上げが関連費用(販管費や原価)を大きく上回ると見込んでおり、本格的な利益貢献を期待しています。
今年3月に日本で承認を取得した胃がん治療薬「ビロイ」(一般名・ゾルベツキシマブ)は6月にも発売する予定。米国や中国でも7~9月期の承認を見込んでおり、今期予想には世界で数十億円の売り上げを織り込んでいます。
「べオーザ」ピーク時予想を引き下げ
対照的に、立ち上がりが不調で計画の足を引っ張るのが、閉経に伴う血管運動神経症状治療薬「ベオーザ」です。発売当初は24年3月期に500億円以上を見込んでいたものの、着地は73億円にとどまりました。将来的な市場浸透を見据えピーク時売上予想も大幅に下方修正。従来の「3000~5000億円」を「1500~2500億円」に引き下げています。
市場浸透のポイントとなる民間保険のカバレッジは3月末で50%まで拡大しましたが、医師のネガティブな認識を改善するには至っておらす、これが障壁となって処方が伸びていないのが現状です。24年度は283億円の売り上げを見込み、保険カバレッジも80%以上を目指すものの、当初の見込みからは大きく立ち遅れた印象です。
重点戦略製品では、腎性貧血治療薬のHIF-PH阻害薬「エベレンゾ」は低空飛行が続いており、23年3月期に約160億円の減損損失を計上。遺伝子治療薬の「AT132」(開発コード)は米FDA(食品医薬品局)から臨床試験の差し止めを受けています。いずれもピーク時売り上げ予想を従来の「500~1000億円」から「500億円未満」に引き下げました。
フォーカスエリア、PoCに至らず
2つ目の成果目標に関連するフォーカスエリア・アプローチ(バイオロジー×モダリティ×疾患の組み合わせで優先的に資源配分する研究開発分野を絞り込む手法)では、「標的タンパク質分解誘導」がプライマリーフォーカス(重点研究開発領域)に加わり、KRAS G123Dを標的とする「ASP3082/ASP4396」の開発が進展。一方、PPRAδ調整薬「ASP0367」は開発を中止し、同薬を含む「ミトコンドリア」のプライマリーフォーカスは解消しました。
当初の計画では25年度末までにプライマリーフォーカスから複数のプロジェクトが後期開発に進む想定でしたが、現状ではPoCを取得したプロジェクトはまだありません。最新の見通しでは、25年度末までに少なくとも4品目でPoCの見極めができると見込んでいます。
3つ目の目標であるコア営業利益率も、新製品への投資を相殺するだけの費用削減が不十分だったり、想定よりも早い後発品の参入があったりしたことにより、進捗が遅れています。24年3月期の実績は11.5%、25年3月期の予想は15.2%で、目標とは大きな乖離があります。
「目標達成は難しい」
アステラスは目標に対する進捗を踏まえ、▽アイベリック買収▽研究開発の組織・オペレーションの見直し▽優先プロジェクトへの重点的なリソース配分▽厳格な費用コントロール――といった対応を行ってきました。
しかし、岡村氏は4月25日の決算説明会で「経営計画で示した3つの成果目標の進捗状況を見ると、25年度の達成は難しいと考えている」との認識を表明。「経営計画の本来のテーマは、イクスタンジの独占販売期間満了を克服できるような体制を構築するということであり、残りの期間でその体制をしっかり整えていくことが極めて重要だ」と話しました。
25年度の最新見通しでは、重点戦略品の売上収益を約5000億円、コア営業利益率を20%台前半に設定。重点戦略品の成長で「イクスタンジが稼ぎ出しているオペレーティング・プロフィットを置き換えられるような状態」(岡村氏)を目指します。
経営計画では、3つの成果目標を達成することで時価総額7兆円を目指す方針も掲げていましたが、5月8日終値の時点では約2兆8000億円にとどまっています。
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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