国内製薬企業の2022年度決算は、売上高が前年比で2桁の増加となった一方、営業利益は微増にとどまりました。ここ数年は、薬価制度改革の影響もあって国内市場が低迷しているものの、海外では大手の主力製品が売り上げを伸ばしています。こうした状況の中、主要28社の業績を5年前と比較してみると、全体では売上高は1.5倍、営業利益も1.4倍に拡大しました。ただ、中堅を中心に12社が5年前の利益水準を下回っており、優劣が鮮明になってきています。
28社で売上高49%増加も 7社は5年前下回る
集計対象としたのは、東京証券取引所に上場している主な製薬企業28社。いわゆる「4大臣合意」(16年12月に官房長官、厚労相、財務相、経済財政相が決定した「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」と題する文書)に基づいて18年度の薬価制度改革は、かつてないほど製薬企業の経営環境を悪化させ、国内市場の成長にブレーキをかけました。他方、大手は主力製品を軸にグローバル展開を進め、海外売上高比率を高めています。そうした中で起こった新型コロナウイルス感染症の流行は、患者の受診控えという形で市場に影響を与えた一方、診断薬を含む関連製品が1つの市場を形成しました。
この間の28社の売上高の変化を見てみると、17年度の9兆8484億円から22年度は14兆6169億円へと48.7%増加しました。年平均成長率は8.2%で、これを見る限り好調な推移ととらえられます。ただ、これは武田薬品工業によるシャイアー買収(19年1月)の影響が大きく、28社の売上高増加額の半分は武田によるもの。全体の4分の1にあたる7社は5年前の実績を下回っており、1桁台の伸びにとどまった企業も3社あります。
中外2.4倍、小野1.7倍
増加率が最も高いのは中外製薬です。買収や合併を伴わないオーガニックな成長で売上高は約2.4倍の1兆2600億円に拡大し、1兆円企業の仲間入りを果たしました。22年度は新型コロナ治療薬「ロナプリーブ」(2037億円)の貢献が大きかったとはいえ、ここ数年は強みのがん領域に加えてスペシャリティ領域で製品の開発・上市が活発化。血友病治療薬「ヘムライブラ」など自社創製品のロシュ向け輸出で海外売上高も大きく増加しています。
小野薬品工業は、抗がん剤「オプジーボ」の拡大によって70.8%の売り上げ増となりました。SGLT2阻害薬「フォシーガ」も高成長に寄与しています。中堅では、日本新薬が「ビルテプソ」「ウプトラビ」といったアンメットニーズの高い領域の製品で売り上げやロイヤリティ収入を伸ばし、42.1%の増加。JCRファーマはライソゾーム病治療薬を中心に66.8%伸びています。
大手のうち、アステラス製薬は国内売上高が縮小し、米国を中心に海外の割合が8割を超えました。ここ数年は、売り上げ全体の44%を占める抗がん剤「イクスタンジ」に頼っている状況ですが、今年5月には更年期障害に伴う血管運動神経症状(顔のほてりなど)の治療薬「べオーザ」(一般名・フェゾリネタント)が米国で承認。イクスタンジ特許切れ後の収益を支える柱として、25年度に3000億円規模の売り上げを期待しています。
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第一三共は、「エンハーツ」をはじめとする抗体薬物複合体(ADC)の開発・販売が加速し、一時金やマイルストンを含む関連収益は2600億円を突破(このうちエンハーツの製品売り上げは2075億円)。21年度に続いて2年連続で2桁増収となり、5年前から33.1%の増加となりました。4月に就任した奥澤宏幸社長は、自社開発のグローバル製品で「大きな飛躍が期待できる」時期に入ったとしており、25年度には中期経営計画の目標(1兆6000億円)を上回る売上高2兆円を視界にとらえています。
中堅、利益確保に苦慮
各社の成長をけん引するのががん領域であることは、ここ数年の状況から明らかです。22年度の各社のがん領域の売上高を集計したところ、アステラスの7647億円を筆頭に、武田薬品4387億円、中外製薬3052億円と続きました。小野薬品は製品売上高としては1652億円ですが、これとは別に抗PD-1抗体関連で1348億円のロイヤリティ収入を得ています。
この領域で成長著しい第一三共は23年度、エンハーツの製品売り上げで3200億円を計画しており、中外を追い抜く勢いです。第一三共は、5年前にはがん領域の売り上げ実績がほとんどありませんでした。
大手の業績が堅調に推移する一方、中堅以下ではマイナス成長が目立ちます。国内事業の比率が高いため薬価改定の影響を受けやすく、継続的に新製品を投入することができなければ収益の維持が困難であることを表しています。科研製薬は長期収載品となった関節機能改善剤「アルツ」が今も主力品として収益を支えており、鳥居薬品は抗HIV薬を米ギリアド・サイエンシズに返還したことで打撃を受けました。
営業利益 28社中12社が5年前下回る
営業利益は28社の合計で39.5%増加しました。売上高と同様に、武田薬品によるシャイアー買収が影響しており、個別に見ると28社のうち12社が5年前の実績を下回っています。22年度は住友ファーマ、参天製薬、キッセイ薬品工業が赤字となっており、さらには中堅企業の多くが利益確保に苦慮している様子がうかがえます。
営業利益の増加率も中外製薬がトップ。22年度は17年度の5.4倍にあたる5333億円を確保し、金額でも国内製薬トップとなりました。小野薬品も5年間で2.3倍に増えています。
一方、アステラスやエーザイは5年前の水準に達していません。大手や準大手では減損損失計上の影響もあります。中堅では、ゼリア新薬工業が海外展開を軌道に乗せ、あすか製薬ホールディングスは最近投入した新薬や婦人科系の後発医薬品が好調。ともにこの5年で営業利益を80%以上伸ばしました。
営業利益率は中外製薬(42.3%)、塩野義製薬(34.9%)、小野薬品(31.7%)が上位。協和キリン(21.8%)と日本新薬(20.8%)が20%を超えています。