大正製薬ホールディングス
初の早期退職実施 環境変化が問う医薬事業の今後
2018/9/27 AnswersNews編集部 前田雄樹・亀田真由
OTC(一般用医薬品)と医療用医薬品の2本柱で事業を展開する大正製薬ホールディングス(HD)。足元の業績は堅調ですが、主力のドリンク剤「リポビタン」は苦戦が続き、抗菌薬の販売減で医療用医薬品の売り上げ減少も深刻です。事業環境の変化をにらみ、富山化学工業の売却や創業以来初めてとなる早期退職の募集などで組織のスリム化を図る同社。難局の中、今後の戦略が改めて問われています。
厳しさ増す事業環境 医薬事業は減収続く
「薬価制度の抜本改革や、ヘルスケア領域への他業界からの参入もあり、製薬業界をめぐる環境変化は著しい」。大正製薬HDも自認する通り、製薬会社を取り巻く事業環境は厳しさを増しています。
17年度の同社の業績は堅調でした。連結売上高は前年度比0.1%増の2801億円で、営業利益と経常利益、純利益はそれぞれ10%以上増加。ただ、その中身を見てみると、医療用医薬品を展開する医薬事業の業績は悪化の一途をたどっており、経営陣は危機感を募らせています。
同社の医薬事業は14年度以降、減少が続いています。その最大の要因は、主力品として業績を支えてきた抗菌薬「ゾシン」「クラリス」の売り上げ減。度重なる薬価引き下げや後発医薬品のシェア拡大により、14年度と比べるとゾシンは63.6%減の98億円、クラリスは43.0%減の77億円と落ち込みました。
18年度は薬価改定に加え、薬剤耐性菌対策の抗菌薬適正使用も追い打ちをかけ、ゾシンは48億円(前年度比50.9%減)、クラリスは46億円(39.9%減)となる見通し。医薬事業全体でも14.1%減の825億円を見込みます。
リポビタン苦戦 リアップには後発品
不振が続く医薬事業とは対照的に、OTCを中心とするセルフメディケーション事業は好調です。17年度の売上高は1840億円(前年度比2.2%増)で、18年度も1.4%の増収を見込みます。
ただし、最大の主力品であるリポビタンシリーズは、高齢化やエナジー系ドリンクの登場により市場は縮小傾向にあります。17年度の売上高は547億円と、01年度の半分近くまで減少しました。99年に「日本初の発毛剤」として発売し、毛髪用剤市場で6割弱のシェアを握る「リアップシリーズ」も、18年8月にアンファーから後発品が発売されました。
感冒薬「パブロンシリーズ」の新製品や通信販売事業などが好調な業績を支えるものの、主力ブランドの存在感は徐々に失われつつあります。
富山化学を売却 初の早期退職も実施
大正製薬HDは18年度、連結売上高2690億円(4.0%減)、営業利益330億円(10.8%減)を予想。セルフメディケーション事業は引き続き伸びますが、医薬事業の落ち込みが大きく、それを補うには至りません。
こうした中、同社は18年7月、富士フイルムHDとの資本提携を解消し、8月にかけて創業以来初めてとなる早期退職を募集しました。同社はその狙いを「より機動的な経営判断ができる体制を構築するため」と説明。急速な環境変化に対応するには、組織のスリム化が欠かせないと判断したようです。
富士フイルムHDとの資本提携の解消では、34%を保有する医薬品メーカー・富山化学工業の全株式を富士フイルムHDに売却する一方、医薬品販売会社・大正富山医薬品の株式45%を富山化学から買い取り、完全子会社化。早期退職は、勤続10年以上かつ40歳以上の国内グループ会社の従業員を対象に上限を定めずに募集し、948人が応募しました。
大正製薬HDとしては今のところ、セルフメディケーション事業と医薬事業を2本柱とする方針に変わりはありません。主力のセルフメディケーション事業では、東南アジアを中心に海外展開を強化する構えで、事業地域の拡大やOTC以外の領域への展開をM&Aも視野に検討しています。
その一方で問われるのが医薬事業の位置付けです。大正製薬HDは「セルフメディケーション事業と医薬事業をバランスよく成長させる」としており、新薬のSGLT2阻害剤「ルセフィ」や消炎鎮痛剤「ロコア」の売り上げ最大化と導入による製品・パイプラインの拡充などに取り組む方針。ただ、これら新薬も今の減収傾向に歯止めをかけるほどのものではなく、パイプラインも「タウリン散98%『大正』」が適応拡大で申請中であるものの、開発品目が少なく苦しいのが実情です。
大正製薬HDは医薬事業の縮小にこそ言及していないものの、富山化学を手放したことで今後の戦略が問われるのは間違いありません。OTCへの依存度が年々高まる中、医薬事業をどうしていくのか。大正製薬の判断が注目されます。
【大正製薬ホールディングスに関する記事を読む】
・大正製薬ホールディングスの記事一覧
・大正製薬の記事一覧