国内製薬企業の2019年3月期決算が出そろいました。AnswersNewsが19年3月期を中心に東証1部上場の主要製薬企業42社(製薬が本業でない企業が手がける医薬品事業を含む)の直近の決算を集計したところ、売上高は全体で前期比4.7%増、営業利益は0.2%増となりました。
大手を中心に海外事業が好調だった企業や新製品が伸びた企業が増収となった一方、国内中心の中堅以下は薬価改定や後発医薬品の影響で苦戦。明暗がくっきりと分かれる決算となりました。
INDEX
【売上高ランキング】大手は主力品が好調 小野、明治など2ケタ増収
売上高ランキングでは、武田薬品工業が2兆972億円(前年比18.5%増)でトップ。今年1月に買収したシャイアーの業績が加わったことで、日本の製薬会社として初めて売上高2兆円を突破しました。買収の影響を除くと1.0%の増収。潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」など主力品が好調で、同剤の売上高は33.7%増の2692億円に達しました。
2位は1兆3063億円(0.5%増)を売り上げたアステラス製薬。主力の前立腺がん治療薬「イクスタンジ」が3331億円(13.2%増)に拡大したものの、国内で苦戦し、売上高は前年からほぼ横ばいでした。3位の大塚ホールディングス(HD)は、抗精神病薬「レキサルティ」「エビリファイメンテナ」や国内の新製品群が順調に成長し、4.2%の増収となりました。
前年度から売り上げを大きく伸びたのは、11位の小野薬品工業(10.2%増)や14位の明治HD(17.9%増)、21位の日本新薬(13.1%増)など。小野は免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」関連のロイヤリティ収入が増え、明治HDはKMバイオロジクスの子会社化で大幅な増収となりました。日本新薬は肺動脈性高血圧症治療薬「ウプトラビ」が好調で、9年連続の増収。順位も3つ上げました。
一方、上位陣で減収となったのは、第一三共(3.2%減)や大日本住友製薬(1.6%減)、田辺三菱製薬(2.1%減)、協和発酵キリン(1.9%減)など。薬価改定や主力品の特許切れが響きました。売上高1000億円以上の企業で前年から売り上げを落としたのは25社中7社(28.0%)だった一方、1000億円以下の企業では17社中12社(70.6%)が減収。企業規模による業績の格差が浮き彫りになりました。
営業利益はアステラスがトップを奪還
営業利益では、14.4%増の2439億円を計上したアステラスが武田から首位を奪還しました。2位の武田はシャイアー統合の関連費用がかさみ、15.2%減の2050億円。買収の影響を除けば、70.3%増の4118億円でした。大日本住友(34.4%減)や田辺三菱(34.9%減)も大幅な減益。売上高同様、中堅以下の企業は軒並み2桁の減益となりました。
売上高上位の企業で営業利益率が高いのは、塩野義製薬(38.1%)や小野(21.5%)、中外製薬(21.4%)など。逆に、大塚HDや第一三共、武田は10%を下回りました。
【研究開発費ランキング】トップ武田は3683億円 大塚HDなど大幅増
研究開発費ランキングでも武田が3683億円(前年比13.2%増)でトップ。2位の大塚HDは昨年から23.1%増加し、2000億円を突破しました。
前年から研究開発費が大きく増えたのは、大日本住友(17.8%増)や日本新薬(26.3%増)、明治HD(23.9%増)、ペプチドリーム(153.7%増)など。売上高に対する比率では、エーザイ(22.5%)や大日本住友(22.3%)、第一三共(21.9%)、田辺三菱(20.4%)が20%を超えました。
19年度は、武田が買収により4910億円と大幅増を計画。武田以外も多くの企業で増加する見込みとなっており、費用は膨らむ傾向にあります。
【海外売上高ランキング】ロイヤリティ伸びる塩野義・小野、エーザイなど6社が売上高比50%超
海外売上高は、1兆5262億円でトップとなった武田をはじめ、多くの企業が前年を上回りました。
武田は潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」が伸び、エーザイは抗がん剤「レンビマ」が拡大。中外は関節リウマチ治療薬「アクテムラ」や抗がん剤「アレセンサ」のスイス・ロシュ向けの輸出が好調です。
小野は免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」に関連するロイヤリティ収入が713億円(53.3%増)まで伸長。塩野義も抗HIV薬のロイヤリティ収入が1244億円(20.3%増)に達しました。
日本新薬は「ウプトラビ」のロイヤリティ収入やマイルストン収入が貢献し、海外売上高は前年の1.5倍に。後発医薬品企業では、沢井製薬が米国で新製品を相次いで投入し、402億円(20.7%増)を計上しました。
売上高に対する比率も、72.8%の武田がトップ。前立腺がん治療薬「イクスタンジ」が好調なアステラス(69.6%)や、大日本住友(63.5%)、塩野義(57.7%)、エーザイ(53.8%)、大塚HD(50.0%)が売上高の半分以上を海外で稼ぎました。ほとんどの企業で売上高比率は上昇しており、各社とも海外シフトが進んでいます。
【国内医療用医薬品売上高ランキング】第一三共が首位守る 新薬は好調も薬価改定と後発品の影響を免れず
国内医療用医薬品の売上高は、5233億円で昨年に続き第一三共がトップを維持。2位は武田で、大塚HDが順位を1つ上げて3位に入りました。
第一三共は、主力のPPI「ネキシウム」が薬価改定で特例拡大再算定を受けたことなどにより、3.1%の減収。武田はARB「アジルバ」や酸関連疾患治療薬「タケキャブ」などが伸び、大塚HDも抗アレルギー薬「ビラノア」などの貢献で増収となりました。
明治HDは、KMバイオロジクスのワクチンや血漿分画製剤を取り込んだことで28.6%増。沢井も17年以降に発売した新製品が好調で、前年13位から10位にランクアップしました。
減収となったアステラスや田辺三菱、協和発酵キリンなどは、薬価改定や後発品の浸透が響きました。新たに高血圧症治療薬「アイミクス」に後発品が参入した大日本住友は、9.8%減と大幅な減収となりました。
【次期売上高予想】武田は売上高3兆円突破も赤字転落 日医工2000億円超え見込む
シャイアー買収が通期で影響する武田は、売上高3兆3000億円(57.4%増)を見込む一方、統合関連費用がかさみ営業損益は1930億円の赤字となる見通し。第一三共は4年ぶり、エーザイは9年ぶりの営業利益1000億円超えを目指します。
各社とも海外事業が堅調に推移する見通しですが、国内では10月に消費増税に伴う薬価改定があり、売上高は武田を除く全体で0.04%増とほぼ横ばいの見込みです。
順位の変動を見てみると、アステラスが3位に後退し、大塚HDが2位に浮上する見通し。日医工はエルメッド(旧エルメッドエーザイ)の完全子会社化で後発品企業として初の売上高2000億円突破を予想しています。米ギリアド・サイエンシズとの抗HIV薬のライセンス契約を解消した鳥居は大幅な減収となり、順位を大きく落とす見込みです。
(亀田真由)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・アステラス製薬
・協和キリン
・武田薬品工業
・キョーリン製薬ホールディングス(杏林製薬/キョーリンリメディオ)
・久光製薬
・参天製薬
・エーザイ
・小野薬品工業
・中外製薬
・大日本住友製薬
・第一三共
・大塚ホールディングス(大塚製薬/大鵬薬品工業)
・田辺三菱製薬
・大正製薬ホールディングス
・塩野義製薬
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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