国内製薬企業の2021年3月期決算が出そろいました。AnswersNewsが21年3月期を中心に東証1部上場の主要製薬企業43社(製薬が本業でない企業が手がける医薬品事業を含む)の直近の決算を集計したところ、売上高は全体で前期比0.4%減、営業利益は7.9%増となりました。
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[売上高ランキング]中外、エーザイ抜き5位に
売上高でトップとなったのは、3兆1978億1200万円の武田薬品工業。前期比2.8%の減収となったものの、2期連続の3兆円超えで断トツの首位を維持しました。2位は1兆4228億2600万円(1.9%増)の大塚ホールディングス(HD)、3位は1兆2495億2800万円(3.9%減)のアステラス製薬で、トップ3は前年と同じ顔ぶれでした。
武田は、主力の潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」(4293億円、23.6%増)を中心に新薬が伸長したものの、血友病市場の競争激化や後発医薬品の浸透が響きました。大塚はグローバル4製品の▽抗精神病薬「エビリファイメンテナ」▽同「レキサルティ」▽利尿薬「サムスカ/ジンアーク」▽抗がん剤「ロンサーフ」――が計4297億円(14.5%増)と好調。アステラスは、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」(4584億円、14.6%増)が好調を維持しましたが、過活動膀胱治療薬「ベシケア」が欧州で独占販売期間を終えたことや、日本で喘息治療薬「シムビコート」など複数製品の販売契約を終了したことが影響しました。
好業績が続く中外製薬は、14.7%増の7869億4600万円でエーザイを抜き、前年6位から5位にランクアップ。7位の大日本住友製薬は、糖尿病領域の拡大によって2005年の合併以来初の5000億円突破を達成しました。昨年11位の小野薬品工業は、5.8%増の3092億8400万円で10位に浮上。主力の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」は、988億円(13.2%増)を売り上げました。
このほか、売り上げが大きく拡大したのは、17位の東和薬品(40.3%増)や18位の旭化成(15.8%増)、38位のJCRファーマ(21.4%増)など。東和薬品は19年末のスペイン企業(現・TowaHD)買収が、旭化成(医療・医薬事業)は20年3月の米ベロキシス買収が、それぞれ業績拡大に寄与しました。後発医薬品企業では、日医工が1.0%の減収となったものの、サワイグループHD(旧沢井製薬。今年4月に持株会社化)を抑えて首位をキープしました。
一方、大幅な減収となったのは、22位の久光製薬(18.8%減)や26位の科研製薬(16.0%減)、42位のわかもと製薬(18.5%減)など。久光は、新型コロナウイルスによる受診抑制やインバウンド需要の減少が響き、昨年から4ランクダウン。わかもとも新型コロナが影響し、売上高は100億円を割りました。塩野義製薬(10.9%減)は、コロナ禍で感染症治療薬の売り上げが大幅に減り、11位に後退しました。
営業利益率 小野など3割超え
営業利益でも、武田が5093億円(407.2%増)で首位。前年度はシャイアー買収に伴う無形資産の償却費が利益を圧迫しましたが、20年度はOTC子会社を含むノンコア資産の譲渡益を計上したことにより、営業利益率は15.9%まで上昇しました。2位は3012億円(43.0%増)の中外で、3位は1986億円(12.5%増)の大塚HDでした。
前期トップのアステラスは、抗TIGIT抗体の開発中止や遺伝子治療薬「AT132」の開発計画の見直しで890億円の減損損失を計上し、44.2%の減益。田辺三菱も、パーキンソン病治療薬の開発の遅れに伴う減損損失を計上したことで、585億円の大幅な赤字(前期は61億円の赤字)となりました。参天(61.5%減)やサワイグループHD(29.5%減)も、開発の遅延や販売不振による減損損失を計上。日医工は、自主回収費用の計上などで営業利益が1億700万円まで落ち込み、最終損益は41億7900万円の赤字に転落しました。
営業利益率では、59.9%のペプチドリームがトップ。塩野義(39.5%)や中外(38.3%)、小野薬品工業(31.8%)も3割を超えました。
[研究開発費ランキング]トップは武田、がん注力の第一三共が2位浮上
研究開発費でも、4558億円(7.4%減)を投じた武田がトップ。がん領域で投資を強化する第一三共は、15.1%増の2274億円で前年4位から2つ順位を上げました。前年から研究開発費を大きく増やしたのは、富士製薬工業や東和薬品など。富士製薬は一部の開発品を自社単独開発に切り替えたことなどが影響し、前期の約1.5倍に増加。東和薬品は買収で23.3%膨らみました。
売上高に対する比率では、大日本住友(25.7%)や第一三共(23.6%)、エーザイ(23.3%)など35社中6社が2割を超えました。研究開発費率が前年から5ポイント以上変化したのはJCRファーマ(6.4ポイント減)と日本たばこ産業(5.6ポイント減)、鳥居薬品(5.5ポイント減)の3社で、半数以上の企業は前年から2ポイント以内の変化にとどまっています。
[海外売上高ランキング]中外や日本新薬などが大幅増
海外売上高も、武田が2兆6381億円でトップを独走。2位のアステラス製薬は1.6%増の9704億円でした。全体の売上高と比べると、各社とも海外事業はおおむね好調。中外(51.9%増)や日本新薬(43.2%増)、旭化成(40.7%増)、大正製薬HD(33.2%増)などが売り上げを拡大しました。
中外は抗IL-6 受容体抗体「アクテムラ」や血友病治療薬「ヘムライブラ」などのスイス・ロシュ向け輸出の売り上げが拡大。旭化成や大正製薬HDは、海外企業の買収が寄与しました。
武田(82.5%)、アステラス(77.7%)、大日本住友製薬(63.4%)、エーザイ(59.2%)、塩野義(56.9%)、大塚HD(53.6%)の6社は、売上高の半分以上を海外で稼いでいます。
[今期売上高予想]サワイグループHD、日医工から後発品首位奪取…上位陣は増収予想
武田は3兆3700億円で5.4%の増収を予想。上位陣は軒並み売り上げを拡大する見通しで、数年以内に1兆円突破を目指す第一三共は、2.9%増の9900億円を予想しています。中外は増収幅こそ小さくなるものの、1.7%増の8000億円を予想。一方、塩野義は抗うつ薬「サインバルタ」への後発品参入などで3期連続の減収減益を見込んでいます。
アステラスや参天など、21年3月期に減損損失を計上した企業も、多くは増益に転じる見通しです。大日本住友は、米国での新製品発売で販売活動費用が増えることなどから減益を予想。キッセイ薬品工業は、薬価改定による減収と販管費の増加で26億円の赤字を見込んでいます。
後発品企業は3社とも増収予想。サワイグループHDが日医工を抑えて2期ぶりにトップとなる見通しです。
(亀田真由)
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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