国内製薬企業の2020年3月期決算が出そろいました。AnswersNewsが20年3月期を中心に東証1部上場の主要製薬企業42社(製薬が本業でない企業が手がける医薬品事業を含む)の直近の決算を集計したところ、売上高は全体で前期比12.9%増、営業利益は6.4%増となりました。
19年10月に消費増税に伴う薬価改定があったものの、好調な海外事業や新製品を背景に上位は軒並み増収。一方、売上高2000億円を下回る企業では、薬価改定や後発医薬品の影響で減収となったところも少なくありませんでした。
INDEX
[売上高ランキング]中外や協和キリンなど大幅増収、営業利益トップはアステラス
売上高では、武田薬品工業が3兆2912億円(前年比56.9%増)でトップ。19年1月のシャイアー買収が通年で寄与し、2位以下に倍以上の差をつけました。主力の潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」は売上高3472億円(29.0%増)と好調。消化器領域の売上高は前年比29.4%増の6979億円に達しました。
2位の大塚ホールディングス(HD)は1兆3962億円(8.1%増)で前年3位から1ランクアップ。グローバル4製品と位置付ける▽抗精神病薬「エビリファイメンテナ」▽同「レキサルティ」▽利尿薬「サムスカ/ジンアーク」▽抗がん剤「ロンサーフ」――が計3751億円(34.9%増)を売り上げました。3位に後退したアステラス製薬は、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」(4000億円、20.1%増)が好調を維持したものの、過活動膀胱治療薬「ベシケア」の特許切れや国内の売り上げ減少で0.4%の減収となりました。
前年から売り上げを大きく伸ばしたのは、6位の中外製薬(18.4%増)や10位の協和キリン(12.6%増)、15位の日医工(14.1%増)など。中外は血友病治療薬「ヘムライブラ」が伸び、協和キリンは抗FGF23抗体「クリースビータ」が拡大しました。日医工はエルメッドの買収が寄与し、沢井製薬(16位)から後発医薬品企業トップの座を奪還。このほか、OTC事業が好調だった大正製薬ホールディングス(12位)や婦人科領域を拡大中のあすか製薬(29位)も2ケタ増収でした。
一方、鳥居薬品は、米ギリアド・サイエンシズとの抗HIV薬のライセンス契約終了が響き、31.3%の減収で7ランクダウン。ロイヤリティ収入が落ち込んだ田辺三菱製薬(8位)や、抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」が大きく売り上げを減らした塩野義製薬(9位)も減収となりました。
営業利益率は塩野義がトップ
営業利益では、アステラスが2440億円(0.0%増)で2年連続のトップ。2位は69.4%増で2000億円を突破した中外でした。工場の売却益を計上した第一三共(65.8%増)や、提携先からのマイルストン収入があったエーザイ(45.7%増)なども大幅な増益。日本たばこ産業(JT)は、ギリアドとのライセンス解消に伴い一時金を受け取ったことで176.4%の増益となりました。
武田は、シャイアー買収に伴う無形資産の償却費がかさんで57.8%の減益。65.1%減となった日医工は、米子会社セージェントの減損損失や国内での自主回収費用の引当金を計上したことが響きました。田辺三菱は、カナダ子会社メディカゴがインフルエンザ向け植物由来VLP(ウイルス様粒子)ワクチンの米国申請を断念したことで、約240億円の減損損失を計上。営業利益は60億円の赤字に転落しました。
営業利益率では、特殊要因があったJTを除くと、37.4%の塩野義がトップ。中外(30.7%)や科研製薬(29.7%)、小野薬品工業(26.5%)も25%を超えました。
[研究開発費ランキング]武田、3割増で4900億円…売上高比は半数で低下
研究開発費ランキングでも、武田が4924億円(33.7%増)で首位。2位のアステラス製薬と3位の大塚HDも開発費を増やしました。ただ、全体で見ると約半数の企業で開発費は前年から減少しており、売上高に対する比率も19社で低下しています。
前年から研究開発費を大きく増やしたのは、ライソゾーム病治療薬の開発が大詰めを迎えているJCRファーマ(37.7%増)や、米子会社でバイオシミラー開発が進む日医工(21.6%増)など。売上高に対する比率では、大日本住友製薬(23.8%)や小野薬品工業(23.2%)をはじめ、上位10社の約半数で20%を超えました。
[海外売上高ランキング]中外・協和キリン・エーザイが大幅増収、武田は売上高比8割突破
海外売上高も武田が2兆6984億円でトップ。シャイアー買収で獲得した血友病A治療薬「アドベイト」や血漿分画製剤が増収に貢献し、売上高に対する比率は8割を超えました。
各社とも海外事業はおおむね好調で、中外(53.0%増)や協和キリン(35.9%増)、エーザイ(20.2%増)などが売り上げを大きく拡大。中外は関節リウマチ治療薬「アクテムラ」や抗がん剤「アレセンサ」が、協和キリンはクリースビータが好調で、エーザイは抗がん剤「レンビマ」が伸びています。
武田(82.0%)とアステラス(73.4%)、大日本住友製薬(63.8%)、エーザイ(59.8%)、塩野義(58.6%)、大塚HD(50.6%)の6社は、売上高の半分以上を海外で稼ぎました。
[次期売上高予想]中外が5位浮上へ 沢井は2000億円突破見込む
武田は3兆2500億円で1.3%減の減収を予測する一方、シャイアー統合による費用が減少するため営業利益は3550億円(253.6%増)となる見通し。エーザイは10年ぶりとなる売上高7000億円超えをうかがいますが、7.8%の増収を見込む中外に抜かれ、6位に後退することになりそうです。
工場の売却益で19年度に大幅増益となった第一三共や、買収関連費用が増加する大日本住友は、大幅な減益となる見込み。新薬発売に向けた費用や研究開発費の増加を見込むエーザイも2ケタの減益予想です。
後発品では、再び沢井と日医工でトップが入れ替わる見通し。米国で新薬が好調な沢井は、国内の後発品企業としては初となる売上高2000億円突破を目指します。
新型コロナウイルス感染症の影響が算定できないとして業績予想を公表していない企業や、業績予想に反映していない企業もあり、各社の業績予想は今後変動する可能性もあります。
(亀田真由)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・アステラス製薬
・協和キリン
・武田薬品工業
・キョーリン製薬ホールディングス(杏林製薬/キョーリンリメディオ)
・久光製薬
・参天製薬
・エーザイ
・小野薬品工業
・中外製薬
・大日本住友製薬
・第一三共
・大塚ホールディングス(大塚製薬/大鵬薬品工業)
・田辺三菱製薬
・大正製薬ホールディングス
・塩野義製薬
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