国内の主な東証プライム上場製薬企業(事業)の2023年度の業績を、▽売り上げ・利益▽研究開発費▽主力製品売上高▽海外売上高――の4つの切り口からチャートで解説します。
【チャートで見る】国内製薬2023年度業績 |
第一三共「エンハーツ」91%増
各社の決算発表資料をもとに、主力製品(売り上げ上位3製品)の売上高と、総売上高に占める割合をチャートにしました。
武田薬品工業は、炎症性腸疾患治療薬「エンタイビオ」が8000億円を突破。免疫グロブリンも前年度比23%増と好調だった一方、ADHD治療薬「ビバンセ」は米国での特許切れで売り上げを落としました。大塚ホールディングス(HD)は、抗精神病薬「レキサルティ」をはじめ上位3製品がいずれも前年度から20%を上回る成長。抗がん剤「ロンサーフ」を加えた「グローバル4製品」の売上高は7000億円を超えました。
アステラス製薬は、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」が前年度比14%増の7505億円を売り上げ、総売上高に占める割合も47%(前年度は44%)まで上昇しました。第一三共は抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」の製品売上高(提携先の英アストラゼネカからの共同販促収入を含む)が91%増の3959億円に到達。同社からのマイルストンなどを含めると、エンハーツからの収益は4492億円(74%増)に上ります。
「レンビマ」3000億円迫る、「クリースビータ」グローバルで拡大
中外製薬は、血友病A治療薬「ヘムライブラ」の海外向け販売が好調。一方、新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」は6割減となりました。エーザイは抗がん剤「レンビマ」が19%増の2976億円を売り上げ、不眠症治療薬「デエビゴ」も42%増と伸びました。
小野薬品工業はSGLT-2阻害薬「フォシーガ」が慢性心不全や慢性腎臓病への適応拡大を背景に35%増と高成長。協和キリンはグローバル展開する抗FGF23抗体「クリースビータ」が1500億円を突破しました。
「ラジカヴァ」好調の田辺三菱
田辺三菱製薬は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「ラジカヴァ」の海外販売が好調です。塩野義製薬は、新型コロナ治療薬「ゾコーバ」の政府購入の減少で感染症治療薬が減少。一方、抗HIV薬を中心とするロイヤリティ収入は15%増の2004億円に拡大しました。
住友ファーマは、前年度に北米で1985億円を売り上げた抗精神病薬「ラツーダ」が特許切れで67億円まで減少。前立腺がん治療薬「オルゴビクス」や過活動膀胱治療薬「ジェムテサ」は大きく伸びたものの、ラツーダの減収を補うことはできませんでした。参天製薬は眼科用VEGF阻害薬「アイリーア」が2%増。ドライアイ治療薬「ジクアス」も好調でした。
「ビルテプソ」「ウプトラビ」伸びる日本新薬
旭化成(医療・医薬事業)は、骨粗鬆症治療薬「テリボン」が前年度をわずかに下回った一方、米子会社ベロキシスが販売する免疫抑制剤「エンバーサスXR」が拡大。ツムラは主力の漢方製剤が堅調でした。
日本新薬は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬「ビルテプソ」と、肺高血圧症治療薬「ウプトラビ」がともに20%超の成長。ウプトラビは海外での売り上げに伴うロイヤリティも拡大しており、工業所有権等収益として403億円(31%増)を計上しました。帝人(ヘルスケア事業)は、痛風・高尿酸血症治療薬「フェブリク」が後発医薬品の影響で売り上げを落としています。
ゼリア新薬「ディフィクリア」欧州で拡大
久光製薬は一般用医薬品の消炎鎮痛薬「サロンパス」が伸びた一方、医療用の「モーラステープ」は2桁減。杏林製薬は、キッセイ薬品工業と共同販売する過活動膀胱治療薬「べオーバ」が好調でした。
持田製薬は、潰瘍性大腸炎治療薬「リアルダ」などに加え、長期収載品の「エパデール」も前年度を上回りました。ゼリア新薬工業は潰瘍性大腸炎治療薬「アサコール」やクロストリジウム・ディフィシル感染症「ディフィクリア」が欧州で販売を伸ばしています。
鳥居薬品、アレルゲン免疫療法薬が好調
キッセイ薬品工業は、杏林製薬と共同販売するベオーバが好調で、顕微鏡的多発血管炎・多発血管炎性肉芽腫症「タブネオス」も前年度の5倍を売り上げました。科研製薬は関節機能改善薬「アルツ」が前年度を上回りました。
あすか製薬HDは子宮筋腫・子宮内膜症治療薬「レルミナ」が好調。鳥居薬品は「シダキュア」「ミティキュア」のアレルゲン免疫療法薬がともに2桁増となりました。
JCRファーマは、成長ホルモン製剤「グロウジェクト」が46%増と大きく拡大。ムコ多糖症II型治療薬「イズカーゴ」も伸びました。富士製薬工業は「エフメノ」「ウトロゲスタン」の黄体ホルモン製剤が2倍以上に増加しました。
アステラス、上位3製品で売り上げの7割
売上高全体に占める上位3製品の割合を棒グラフにして並べてみると、次のようになります。
上位3製品への依存度が最も高いのは72%のアステラス。47%を占めるイクスタンジは特許切れが近づいており、対策が課題となっています。
売上高全体の半分以上を3製品で稼いだのは、アステラスを含めて7社。一方、塩野義(46%)や小野薬品(37%)、日本新薬(27%)などはロイヤリティ収入の占める割合が大きくなっています。