国内中堅製薬企業の業績停滞が鮮明になってきました。国内の主要製薬企業を「売上高6000億円以上」「1000億円以上6000億円未満」「1000億円未満」の3つに分類して業績を集計したところ、1000億円未満だけが15年度から19年度にかけてマイナス成長に。国内の事業環境の悪化が背景にあり、各社とも生き残りを模索していますが、打開策は見えません。
15~19年度はマイナス成長
医療用医薬品を中心に事業展開している東証1部上場の製薬企業28社について、
▽2019年度の売上高が6000億円超の6社(武田薬品工業、大塚ホールディングス〈HD〉、アステラス製薬、第一三共、エーザイ、中外製薬)
▽売上高1000億円以上6000億円未満の12社(大日本住友製薬、田辺三菱製薬、塩野義製薬、協和キリン、小野薬品工業、大正製薬HD、参天製薬、久光製薬、ツムラ、日本新薬、キョーリン製薬HD、持田製薬)
▽売上高1000億円未満の10社(科研製薬、キッセイ薬品工業、ゼリア新薬工業、あすか製薬、扶桑薬品工業、鳥居薬品、日本ケミファ、生化学工業、JCRファーマ、わかもと製薬)
――の3つに分類し、それぞれ10~14年度と15~19年度の売上高成長率を比較しました。
10~14年度の売上高成長率は、上位6社がプラス16.2%、中位12社がプラス2.1%、下位10社がプラス11.4%で、上位6社と下位10社は2ケタ成長率でした。一方、15~19年度は、武田薬品工業による大型買収があった上位6社がプラス25.8%(武田を除くとプラス4.7%)、中位12社もプラス7.3%と10~14年度を上回った一方、下位10社はマイナス7.9%と唯一マイナス成長に。下位の業績低迷が鮮明となり、上位との差は拡大しています。
売上高1000億円未満の企業は、10社中8社がプラス成長となった10~14年度から一転、15~19年度は7社が売り上げを落としました。15~19年度にプラス成長となったのは、あすか製薬(21.6%増)とJCRファーマ(42.1%増)、扶桑薬品工業(2.5%増)だけで、鳥居薬品(31.1%減)や科研製薬(18.7%減)、キッセイ薬品工業(11.3%減)などは、マイナス成長に転じました。
一方、10年度に売上高1000億円を下回っていた日本新薬は19年度までに83.6%成長して1166億円に到達。10年度は売上高793億円だった持田製薬も1000億円を突破するなど、明暗が分かれています。
長期収載品の収益が低下
中堅製薬企業の業績が悪化した大きな要因は、各社が拠り所としてきた長期収載品が、後発医薬品の使用拡大や薬価の引き下げによって収益力を失ったことにあります。国は、後発品の使用促進策として診療報酬・調剤報酬でのインセンティブを強化し、13年9月は46.9%にとどまっていた後発品の使用割合は、19年9月には76.7%にまで上昇しました。
2年に1度の薬価制度改革では、14年度に、後発品への置き換え率に応じて長期収載品の薬価を引き下げる「Z2」がスタート。さらに18年度には、後発品発売から10年経った長期収載品の薬価を6~10年かけて後発品と同じかそれに近い水準まで引き下げる「G1」「G2」が導入され、科研製薬/生化学工業の主力品である関節機能改善薬「アルツ」などが大幅な薬価引き下げを受けました。
特許切れも打撃
主力品の特許切れも打撃となりました。15~19年度の間に、鳥居薬品のそう痒症改善薬「レミッチ」や科研製薬/あすか製薬の高脂血症治療薬「リピディル」などに後発品が登場。キッセイ薬品工業は19年3月、売上高の6割近くを稼ぎ出していた排尿障害改善薬「ユリーフ」に後発品が参入し、19年度は12.5%の減収に沈みました。21年3月期は営業赤字に転落する見通しで、厳しい状況が続きます。
鳥居薬品は、米ギリアド・サイエンシズとの抗HIV薬に関するライセンス契約を19年に解消。2003年から独占販売を続けてきた抗HIV薬6製品を手放したことで業績が大きく落ち込みました。
こうした環境を背景に、15~19年度にかけて扶桑薬品工業とJCRファーマを除く8社で収益が悪化。19年度は10社中6社が営業利益率5%を下回りました。
生き残りへ正念場
上位や中位の企業と下位の企業の成長力の差は、「海外展開」と「新薬創出」の差にほかなりません。
19年度の海外売上高比率を見てみると、上位6社が売上高の64.6%を、中位12社が36.8%を海外で稼いでいるのに対し、下位10社は18.7%にとどまります。しかもそれは、生化学(45.1%)とゼリア新薬工業(31.0%)の2社が押し上げているに過ぎず、残り8社は具体的な数値を開示していない企業を含め、いずれも10%を下回っています。
15~19年度に中堅企業が発売した新薬も数えるほどしかなく、薬価収載時のピーク時売上高予測が100億円を超えたのは、過活動膀胱治療薬「ベオーバ」(キッセイ薬品工業と杏林製薬が共同開発・共同販売)と高リン血症治療薬「ピートル」(キッセイ薬品)のみ。国は薬価制度改革などを通じて「長期収載品に依存するモデルから、より高い創薬力を持つ産業構造に転換」するよう促していますが、売り上げ減に伴って研究開発費も減らしている企業も少なくなく、悪循環に陥りつつあります。
新薬を出し続けられない企業は退場を迫られる厳しい時代に入り、大手企業でもここ数年、長期収載品や一般用医薬品を手放して新薬に注力する動きが加速しています。中堅各社も、海外展開を急いだり、得意とする領域に経営資源を集中投入したり、導出活動に励んだりと生き残りを模索していますが、打開策はなかなか見えません。再編の必要性も指摘される中、この数年が正念場と言えそうです。
(亀田真由)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・アステラス製薬
・協和キリン
・武田薬品工業
・キョーリン製薬ホールディングス(杏林製薬/キョーリンリメディオ)
・久光製薬
・参天製薬
・エーザイ
・小野薬品工業
・大日本住友製薬
・第一三共
・大塚ホールディングス(大塚製薬/大鵬薬品工業)
・田辺三菱製薬
・大正製薬ホールディングス
・塩野義製薬