製薬企業各社の2023年度有価証券報告書を集計したところ、管理職に占める女性の割合は平均11.9%だったことが分かりました。男性に対する女性の賃金水準は74.5%にとどまっており、女性の登用や待遇はなお改善の余地があります。
女性管理職比率、トップの武田は20%
集計対象としたのは、上場製薬企業と持株会社傘下の製薬事業会社計30社。女性管理職比率が10%を超えたのは全体の3分の2にあたる20社で、1桁台にとどまったのは多くが中堅企業でした。
最も高かったのは20%(整数で開示)の武田薬品工業。グローバル全体では43%に達しており、ジェンダーダイバーシティに力を入れていることを強調しています。社長以下、グループ各機能を統括する責任者で構成するタケダ・エグゼクティブ・チーム (TET)のメンバーは、17人中9人が女性です。政府が「30年までに30%以上」の目標を掲げる女性役員比率は21%でした。
アステラス製薬は、国が企業に策定を求めている行動計画で、21~25年度の計画期間内に「経営基幹職に占める女性割合を20%以上とする」としています。現在は16.3%まで上昇しています。役員は11人中5人が女性(45.5%)です。
生化学工業は中堅の中では17.4%と高く、25年度までにグループ全体として20%以上を目指しています。後発品企業の東和薬品も14.8%と平均を上回りました。
第一三共は大手の中では低く、11.7%と平均に届いていません。「25年度までに15%以上」とする目標とはまだ開きがあります。同社は上級幹部職員に占める女性の割合をグローバルレベルで25年度に30%まで引き上げることも目指しています。
5.8%の小野薬品「女性登用は課題の1つ」
大手や準大手が相対的に高い数値を示す中、5.8%にとどまる小野薬品工業は「女性管理職比率の向上は課題の1つ」との認識を示しています。改善に向けては「パイロット的に本部長が女性社員のサポーターとなり、女性管理職候補の視座を上げ、管理職へチャレンジすることを後押しする」取り組みを推進。26年度までに10%、31年度には20%に引き上げることが目標です。
4.1%と最も低かった科研製薬は、有報では「適性を見極めて管理職への登用を推進している」と記述するにとどまりました。同社は、全労働者に占める女性の割合が20%程度しかないことを要因のひとつに挙げています。社内的には「26年度末に7%以上」とする目標を定めており、今後は管理職適齢期の女性が増えるため積極的に登用したいと話しています。
女性管理職比率が上がらない要因はいくつかあります。7.8%にとどまる久光製薬は「周囲にロールモデルがいないことや、仕事と家庭の両立への不安」があると指摘。「女性自身も自らを見つめ直すべく、次期管理職候補者に対して研修を実施し、職場での行動変容を促している」としています。日本新薬は「一部の女性従業員が育児や介護など家庭との両立を理由に幹部職を志向しない」こともあるとしました。
厚生労働省のまとめによると、女性管理職(課長級以上)の割合は22年度で12.7%でした。従業員10人以上の約3000社の回答を集計したもので、産業別に見ると医療・福祉が53%だったのに対して製造業は8.0%にとどまりました。製薬企業は製造業の平均と比べると高い水準です。とはいえ、世界経済フォーラムが6月に発表したジェンダーギャップ・レポートによると、日本の女性管理職比率は146カ国中130位と極めて低く、向上に向けた取り組みが必要でしょう。
男女の賃金格差、最小は塩野義
男女の賃金格差(全労働者)を見てみると、女性の賃金は30社平均で男性を25.5%下回りました。格差は、給与体系よりも管理職の男女比や年齢構成、パートタイマー比率などの影響を受けています。男性の賃金を100とした場合の女性の賃金の比率が80%を超えた企業は4社あり、最も差が小さかった塩野義製薬は82.2%でした。ほかの大手と同様に職務等級制度を軸とした人事制度を運用しており、処遇は男女同一。職務レベルごとの報酬体系に男女差はありません。
格差が最も大きかったのは60.3%のJCRファーマ。同社では、パート・有期労働者の賃金格差が35.3%と大きくなっていますが、これはパート・有期労働者の中で比較的賃金水準が高い定年退職後再雇用者の男性の比率が高いことが要因の1つです。67.0%の小野薬品は、女性管理職比率が低いことに加え、管理職クラスの中途採用では男性が多いことや、総合職以上の女性の平均年齢が男性より7.5歳若いことなどを理由に挙げています。
女性活躍推進法では、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対し、男女の賃金の差異を公表することを義務付けています。厚労省が今年1月に発表した調査結果によると、国内1万4577社の男女間の賃金格差は69.5%(うち正規雇用75.2%)でした。製薬業界はやや高いといえますが、これも女性管理職比率と同様、国際比較では低位に甘んじています。