花粉症シーズンが目前に迫り、今年も抗アレルギー薬の販売競争が熱を帯びています。今シーズンは花粉症治療薬として世界初の抗体医薬となる「ゾレア」が登場。昨年1月から供給が止まっていた「デザレックス」も供給を再開し、抗ヒスタミン薬も激しいシェア争いが続きます。
世界初の抗体医薬
今シーズンの花粉の飛散量は、全国の広い範囲で例年より少なくなりそうです。日本気象協会が昨年12月に発表した今春の花粉飛散予測によると、九州から関東甲信にかけては例年より少なく、中でも九州は「非常に少ない」見込み。北陸と東北は平年並みで、北海道は「やや多い」と予測されています。昨シーズンとの比較では、九州から東海が非常に少なく、北陸と関東甲信は少ないと予測。東北は昨シーズン並みの飛散量ですが、北海道は非常に多くなるとみられています。
こうした中、今シーズンも花粉症に新たな治療薬が登場しました。ノバルティスファーマの抗IgE抗体「ゾレア」(一般名・オマリズマブ)で、昨年12月に「季節性アレルギー性鼻炎」への適応拡大の承認を取得。すでに気管支喘息や慢性蕁麻疹の治療に使われている薬剤ですが、既存の治療で効果不十分な重症・最重症の花粉症にも使えるようになりました。花粉症に対する抗体医薬は世界でも初めてです。
「症状としてはシーズン前とほぼ変わらない」
花粉症は、体に入った花粉を異物とみなしたB細胞(リンパ球の一種)がIgEという抗体を作り出し、それが肥満細胞(免疫細胞の一種)の表面にある受容体に結合することで起こります。肥満細胞に結合したIgE抗体がふたたび花粉の侵入を察知すると、肥満細胞はヒスタミンなどの化学物質を放出。これが、くしゃみや鼻水といった花粉症の症状を引き起こします。
ゾレアは、IgE抗体と肥満細胞の結合を阻害することで、アレルギー症状の原因となるヒスタミンなどの放出を抑制する薬剤。抗ヒスタミン薬など従来の花粉症治療薬とは異なるメカニズムを持ちます。重症花粉症では症状に合わせて抗ヒスタミン薬など複数の治療薬を併用しますが、日本医科大耳鼻咽喉科・頭頸部外科の大久保公裕教授によると、ゾレアの効果は「従来の薬はほぼやめられるほど」。「(ゾレアを投与すれば)アレルギー症状としては花粉症シーズン前とほぼ変わらない状態になるだろう」と言います。
高薬価に懸念
一方、ゾレアをめぐっては、抗体医薬であるがゆえの薬価の高さと、花粉症に適応が広がることによる保険財政への懸念する声もあります。
ゾレアの薬価は75mgで2万3625円、150mgで4万6490円(いずれもプレフィルドシリンジ製剤)。患者の体重と血中IgE濃度に応じて1回75~600mgを2週または4週に1回投与しますが、600mgを投与すると1回あたり18万5960円の薬剤費がかかることになります(患者の自己負担は3割負担で5万5788円)。
高額な上、花粉症治療薬としては新規の作用機序を持つため、厚生労働省はゾレアの投与が最も適した患者に限って使用されるよう、「最適使用推進ガイドライン」を策定。これによると、ゾレアの投与対象は季節性アレルギー性鼻炎の中でもスギ花粉症の患者に限られ、鼻噴霧用ステロイド薬とケミカルメディエーター受容体拮抗薬による治療を受けてもコントロール不十分な鼻症状が1週間以上続くことを確認してからでないと使うことができません。
投与患者数は「最大年間1万人」
ガイドラインで対象患者が絞り込まれる中、実際にゾレアを使う花粉症患者はどれくらいいるのでしょうか。
大久保教授は「感覚的には花粉症全体の30%が重症・最重症で、ゾレアの対象となるのは半分の15%。金額などとの兼ね合いで実際にゾレアを打てるのは全花粉症患者の1~3%くらいだろう」と見ており、「スギ花粉症患者が2000万人いるとすれば、1~3%とはいえ大きな数になる」と言います。
一方、製造販売元のノバルティスは、ゾレアの投与患者数を最大で年間1万人程度と見込んでいます。新しいタイプの薬だけに、実際にどれほどの患者に使われるのかは、不確かな部分も大きいと言えそうです。
ビラノアが急拡大
ゾレアに大きな注目が集まる中、抗アレルギー薬の主戦場とも言える抗ヒスタミン薬の市場では、今シーズンも激しいシェア争いが繰り広げられそうです。
現在中心的に使われている第2世代抗ヒスタミン薬では、2016年から18年にかけ▽杏林製薬の「デザレックス」(デスロラタジン、製造販売元はMSD)▽大鵬薬品工業とMeijiSeikaファルマの「ビラノア」(ビラスチン、製造販売元は大鵬薬品)▽田辺三菱製薬の「ルパフィン」(ルパタジン、製造販売元は帝國製薬)▽久光製薬の「アレサガテープ」(エメダスチン)――と相次いで新薬が発売。18年には、売り上げ上位の「タリオン」(ベポタスチン)にオーソライズド・ジェネリック(AG)が発売されました。
18年度の売上高はビラノアが頭一つ抜けていますが、今シーズンは昨年1月から製造販売元の薬事手続きの不備で供給停止を余儀なくされたデザレックスが昨年11月に供給を再開。ルパフィンも前年度の2倍以上の売り上げを見込むほか、貼付剤のアレサガも販売が本格化します。
厚生労働省が公表している「NDPオープンデータ」から2017年度の第2世代抗ヒスタミン薬の処方動向(院外処方)を見てみると、処方数量トップは「タリオン錠10mg」(田辺三菱製薬)で、2位は「ザイザル錠5mg」(グラクソ・スミスクライン)、3位は「同シロップ0.05%」(同)。4位は「アレグラ錠60mg」(サノフィ)で、5位は同薬のAGである「フェキソフェナジン塩酸塩錠60mg『SANIK』」(日医工サノフィ)と続きます。
新薬のビラノアは11位、デザレックスは13位に入っている一方、上位50品目にはアレグラや「アレロック」(協和キリン)の後発品が多くランクインしています。抗ヒスタミン薬では、久光製薬の「アレグラFX」などのOTC医薬品も販売を伸ばしており、今シーズンも新薬と後発品、OTCがシェアを奪い合う構図が続きそうです。
(前田雄樹)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・協和キリン
・キョーリン製薬ホールディングス(杏林製薬/キョーリンリメディオ)
・久光製薬
・大塚ホールディングス(大塚製薬/大鵬薬品工業)
・田辺三菱製薬