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東和薬品、新薬に進出…初の製品「リバルエン」発売、ドラッグリポジショニングは最終治験に

更新日

前田雄樹

後発医薬品大手の東和薬品が新薬事業に乗り出しています。今年5月、アルツハイマー型認知症治療薬リバスチグミンの持続放出性貼付剤「リバルエン」を発売。ドラッグリポジショニングによる家族性アルツハイマー治療薬の最終治験も開始しました。後発品の使用割合が9割に近づく中、事業領域を広げます。

 

 

家族性アルツハイマー病薬、P2/3試験開始

東和薬品は6月3日、パーキンソン病などの治療薬として古くから使われているブロモクリプチンを家族性アルツハイマー病治療薬に転用するための臨床第2/3相(P2/3)試験を開始したと発表しました。試験は三重大病院など複数の医療機関で24人の患者を対象に実施。期間は2028年3月までの予定で、結果に基づいて新薬としての承認取得を目指します。

 

ブロモクリプチンは現在のスイス・ノバルティスによって開発された薬剤で、国内では1979年に「パーロデル」として承認。1990年以降、3社から後発医薬品が発売されており、東和はそのうちの1社です。先発品のパーロデルは2016年にノバルティスファーマからサンファーマに製造販売承認が承継されています。

 

【ブロモクリプチン錠の概要】 〈一般名〉ブロモクリプチンメシル酸塩〈製品名〉先発品(パーロデル錠/サンファーマ/1979年)|後発品(ブロモクリプチン錠「F」/富士製薬工業/1990年)(ブロモクリプチン錠「フソー」/ダイト/1992年)(ブロモクリプチン錠「トーワ」/東和薬品/1992年)〈適応症〉末端肥大症/下垂体性巨人症/乳汁漏出症/産褥性乳汁分泌抑制/高プロラクチン血性排卵障害/高プロラクチン血性下垂体腺腫/パーキンソン症候群 ※各製品の添付文書をもとに作成

 

iPS創薬で発見

ブロモクリプチンの家族性アルツハイマー病治療薬としての可能性は、京都大iPS細胞研究所(CiRA)の研究によって見出されました。CiRAは2017年、アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から分化させた大脳皮質神経細胞を使って既存薬のスクリーニングを行い、ブロモクリプチンがプレセニリン1遺伝子変異を持つ家族性アルツハイマー病患者で病因分子のアミロイドベータを減少させる作用があることを発見。京大や三重大が患者8人を対象に行った医師主導P1/2試験で病状の進行を抑制する傾向が確認されました。

 

東和薬品はCiRAによる薬剤スクリーニングの結果を受け、19年に京大発ベンチャーのタイムセラと家族性アルツハイマー病に対するブロモグリプチンの共同研究開発を開始。医師主導P1/2試験では治験薬と安全性情報の提供を行いました。

 

「後発品以外の展開をしなければならない」

東和薬品の吉田逸郎社長は6月3日、CiRAなどとともに開いた記者会見で「iPS細胞を使った薬剤スクリーニングは、ドラッグリポジショニング(既存薬の転用)の成功確率向上の可能性を秘めた手法であり、既存薬の価値に光を当てる有意義な研究だ」と指摘。「新薬開発では臨床試験などに莫大な費用がかかる。安全性情報が豊富な既存薬を活用して新たな薬効を開発できる可能性があるドラッグリポジショニングは、社会全体にとってメリットのある有効な手法だ」と話しました。

 

東和薬品は314成分730品目の承認を持っており、吉田氏は「希少疾患や特殊疾患に対する治療薬開発のために豊富な既存薬の情報を活用することは非常に有効であり、後発品メーカーの務めだ」と強調。成功確率の高い薬剤候補を効率的に選択できることが、同社がiPS細胞を活用したドラッグリポジショニングに取り組む理由の1つだと説明しました。

 

国の後発品使用促進策を追い風に、東和薬品は業績を急速に拡大してきました。25年3月期は売上高2596億円(前期比13.9%増)、営業利益232億円(31.7%増)で、5年前と比べると売上高は2.4倍、営業利益は1.4倍増加。20年にはスペインの後発品企業ペンサ・インベストメンツ(現トーワ・ファーマ・インターナショナル・ホールディングス)を買収し、海外にも事業を広げました。

 

【東和薬品 業績の推移】 〈企業/期間/項目/数値〉東和薬品/17年3月期~26年3月期(予想)/売上高、営業利益〈売上高の推移(単位:億円)〉17年3月期:約850/18年3月期:約950/19年3月期:約1050/20年3月期:約1100/21年3月期:約1500/22年3月期:約1600/23年3月期:約2050/24年3月期:約2300/25年3月期:約2600/26年3月期(予想):約2750〈営業利益の推移(単位:億円)〉17年3月期:約10/18年3月期:約15/19年3月期:約20/20年3月期:約25/21年3月期:約25/22年3月期:約28/23年3月期:約15/24年3月期:約20/25年3月期:約30/26年3月期(予想):約35 ※東和薬品の決算発表資料をもとに作成。 ※26年3月期は予想。

 

新たな健康関連事業への展開

国内後発品事業は供給不安に伴う需要増も手伝って大きく伸びているものの、普及率が85%に達した市場の成長性に対しては危機感を持っています。吉田氏は3日の会見で「使用割合90%が近づく中、後発品をコアにそれ以外の展開をしていかなければならない」と話しました。

 

東和薬品は26年度までの3カ年の中期経営計画で、新たな健康関連事業への展開を方針の1つに掲げています。2021年には疾病リスク検査事業を行うプロトセラを子会社化し、22年には健康食品や医薬品の開発・受託製造を手掛ける三生医薬を買収するなど、M&Aも活用して事業を広げており、新薬への進出もこうした動きの流れに位置付けられます。

 

【東和薬品 最近の動き】 〈期間/イベント〉2020年/スペインの後発医薬品企業ベンサ・インベストメンツ(現トーワ・ファーマ・インターナショナル・ホールディングス)を買収|2021年/疾病リスク検査事業を展開するプロトセーラを子会社化|2022年/健康食品や医薬品の開発・受託製造を手掛ける三生医薬を買収|2023年/健康食品の受託製造を行うカマタを子会社化|2025年/初の新薬として持続放出性アルツハイマー型認知症治療用貼付剤「リバルエン」を発売。ドラッグリポジショニングによる家族性アルツハイマー病治療薬の最終治験を開始。※東和薬品のプレスリリースなどをもとに作成。

 

リバスチグミン週2回貼付剤を発売

新薬では今年5月、初の製品としてアルツハイマー型認知症治療薬「リバルエン」(一般名・リバスチグミン)を発売。スイスのLuye Pharma Switzerlandから導入したリバスチグミンの週2回貼付の持続放出性貼付剤で、国内P3試験で既存の1日1回貼付剤に対する非劣性を確認し、3月に新医薬品(新剤形医薬品)として承認を取得しました。

 

ドラッグリポジショニングには一般的な新薬開発に比べて費用が少なくて済むメリットがあり、東和薬品は今後もその可能性を追求していく考え。吉田氏は新薬開発のスタッフや経験は蓄積しているもののまだ不十分としつつ、「ジェネリックの次としてドラッグリポジショニングを手掛けるのは東和薬品として意義がある。可能性があるものは(開発を)検討したい」と語りました。

 

海外の後発品メーカーでは、イスラエルのテバ・ファーマスーティカル・インダストリーズやインドのサンファーマなどが新薬事業を展開。国内ではサワイグループホールディングスも26年度までの中期経営計画で希少疾患をターゲットに新薬事業に参入する方針を掲げています。同社は医療機器や治療用アプリにも進出しており、新薬とともに「成長分野」と位置付けて投資を行っていく方針です。

 

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