
外資系製薬企業の日本法人が官報などに掲載した決算公告を集計したところ、主要13社の2024年の売上高は2兆9711億円で前年比5.2%増となったことが分かりました。国内市場が停滞する中、内資系企業を上回る成長を見せています。市場の先行きに対する見通しは必ずしも明るくありませんが、30~31年をターゲットに意欲的な目標を掲げる企業が相次いでいます。
INDEX
トップは12%増収のMSD
前年と業績を比較できる13社のうち増収は10社、減収は3社。トップは12.1%増の4433億円のMSDで、3年連続で首位だったアストラゼネカと入れ替わりました。MSDは国内で最も売れている医薬品であるがん免疫療法薬「キイトルーダ」が前年比16%増の1852億円(薬価ベース)まで伸びたほか、HPVワクチン「シルガード9」はキャッチアップ接種によって3倍増と業績に貢献しました。
同社のほかにも3社が2桁増収となりました。サノフィは4期連続増収で、アトピー性皮膚炎などを適応とする「デュピクセント」が製品別の売上高ランキング(IQVIA調べ)で5位に浮上。2年連続の2桁増収となった日本イーライリリーは、全体の9割を占める「新製品・成長品」のカテゴリーが25%増となるなど、一時期の踊り場から抜け出した格好です。
20年に日本法人を設立したアムジェンは、25%増で1000億円を突破しました。昨年11月にはピーク時売上高予想494億円の活動性甲状腺眼症治療薬「テッペーザ」を、今年4月にも同247億円の抗がん剤「イムデトラ」を発売。アトピー性皮膚炎の適応で協和キリンと共同開発するロカチンリマブ(一般名)の承認申請も控えており、成長が加速されそうです。同社は将来ビジョンの中で、31年までに12製品発売・38適応追加を目指すと宣言しています。
市場上回る成長率
19年から連続して決算公告が確認できる11社の売上高の合計は、5年前との比較で18.5%増加。年平均成長率(CAGR)は3.5%に達し、同期間の市場全体のCAGR1.6%(IQVIA調べ)を上回っています。この間、22年を中心に新型コロナ関連薬による上乗せ効果もありましたが、全体的に堅調な推移が見て取れます。
この5年間で顕著な業績の伸びを示しているのは、6年連続増収のノボノルディスク ファーマ(52.0%)を筆頭に、アストラゼネカ(49.2%)、ヤンセン ファーマ(42.7%)など。新薬の活発な市場投入と育成が高成長を裏付けています。ノボはGLP-1受容体作動薬で領域内シェアを高め、アストラゼネカは抗がん剤2製品とSGLT2阻害薬の計3製品が製品売上高ランキングでトップ10に入りました。
多くの外資が日本市場で売り上げを伸ばす中、低迷を続けるのがバイエル薬品です。19年に2525億円だった売上高は24年に2160億円まで減少。20年以降、抗がん剤「ニュベクオ」「ヴァイトラックビ」、慢性心不全治療薬「ベリキューボ」、腎性貧血治療薬「マスーレッド」、慢性腎臓病治療薬「ケレンディア」など新薬を相次いで発売してきましたが、業績を押し上げるには至っていません。23年1月には480人を対象として早期退職プログラムを実施。24年12月には主力の抗凝固薬「イグザレルト」に後発医薬品が参入しました。
豊富なパイプライン
新薬開発は各社とも活発です。アストラゼネカは進行中の開発プロジェクトが103あり、このうち61が臨床第3相(P3)以降に進んでいます。領域別ではオンコロジーが66と半分以上です。ノバルティスは臨床開発プログラムが40、申請中は5、P3が21。対象疾患はやはりオンコロジー領域が目立ちます。MSDは今年、最大で10の承認、5以上の申請を予定するなど、各社は競ってパイプラインの豊富さをアピールしています。
こうした開発力を背景に、将来的な成長に対しても極めて意欲的です。サノフィは「30年までに日本国内売り上げトップ3かそれ以上を目指す」(岩屋孝彦社長)、日本イーライリリーは「30年にリーディングカンパニーになる」(シモーネ・トムセン社長)と宣言。アッヴィは昨年の業績発表会見で「今後5年以内に売上高2000億円を目指す」(ジェームス・フェリシアーノ社長)としています。
患者貢献アピール
また、自社医薬品で治療する患者数を「現在の300万人を30年に900万人に拡大する」(サノフィ)、「30年までに100万人のがん患者に放射線リガンド療法を提供する」(ノバルティス)など、日本の患者への貢献を強調する企業も目立つようになってきました。
業績を開示していない企業では、ファイザーがIQVIA集計による新型コロナウイルス感染症治療薬を除く売上高で29.9%増の3209億円(販促レベル、薬価ベース)と大幅に業績を拡大させました。ギリアド・サイエンシズも薬価ベース売上高が1485億円で14%増。「トロデルビ」と「イエスカルタ」を軸に「オンコロジー領域での影響力を高める」としています。
外資各社が日本市場でのプレゼンス拡大を訴える一方、内資は大手といえども定量的な成長目標を示せていません。IQVIA集計による24年の売り上げ上位20社(販促レベル)のうち外資は11社(中外製薬は除く)とほぼ半数ですが、ランク外のギリアドやノボ、アムジェンなどが事業を拡大していくと、その顔ぶれと順位は様変わりするかもしれません。