
主要医薬品卸6社の2025年3月期の業績は、前期比2.7%の増収、6.7%の営業増益となりました。営業利益率は1.38%で前期から0.05ポイント上昇。人件費や流通コストの増加が利益を圧迫したものの、スペシャリティ医薬品の販売拡大が収益を支えました。流通改善ガイドライン(GL)の順守の徹底が求められる中、収益源を本業以外に求める多角化の取り組みにも進展がみられます。
6社すべてが増収
25年3月期の売上高は、集計対象としたメディパルホールディングス(HD)、アルフレッサHD、スズケン、東邦HD、バイタルケーエスケーHD、ほくやく・竹山HDの6社すべてが増収。抗がん剤やワクチンといったスペシャリティ医薬品の需要増で薬価改定の影響をカバーしました。
売上高トップのメディパルHDは3兆6713億円(前期比3.2%増)で、2番手のアルフレッサHDは2兆9611億円(3.6%増)。本業の医薬品卸売事業では2兆6400億円のアルフレッサHDがトップで、メディパルHDは2兆3702億円で2位でした。
メディパルHDは、H.U.グループHDとの合弁会社メディスケットの事業が拡大。売上高に約30億円のプラスをもたらしました。同社で展開する、医薬品と検体集荷を同時に行うシェアリング・ロジスティクスは約500軒の医療機関へ導入が完了しています。
2兆4000億円(0.6%増)で売上高3位のスズケンは、スペシャリティ医薬品の流通受託事業が拡大。受託社数は39社(前期比5社増)、品目数は70品目(10品目増)となり、スペシャリティ医薬品全体の半数以上の品目を手掛けています。売上高では2955億円(36.7%)増。トレーサビリティシステム「キュービックス」の導入医療機関は522軒(うちがん拠点病院は211軒=全がん拠点病院の44%に相当)に広がり、普及が進んでいます。
5社が営業利益率1%確保
営業利益はアルフレッサHDと東邦HDを除く4社が増益を確保。トラックドライバーの労働時間規制による「物流2024年問題」の影響もあり、物流費を含む販管費がかさんだものの、売り上げの増加で抑えた形となりました。6社全体の営業利益率は1.38%で、前期(1.33%)からわずかに上昇。バイタルケーエスケーHDを除く5社が1%超を確保しました。
2桁増益となったのはメディパルHDで、17.5%増の556億円と過去最高を更新。医薬品卸売事業でも44.3%の増益となりました。増益要因としては事業投資の後ろ倒しで関連費用が前期比46億円減となったことが大きいものの、これを除いた調整後営業利益でも全社で7.0%増、医薬品卸売事業で14.2%増を確保。メディスケットの事業拡大などで販管費が増加しましたが、売上総利益の拡大で吸収しました。ほくやく・竹山HDも医薬品卸売事業で25.5%の増益。物流拠点の自動化によるコスト削減が寄与しました。
利益率はスズケンの1.55が最高
利益率は1.55%のスズケンがトップ。前期から0.09ポイント増加しました。医薬品卸売事業でも1.38%(0.06ポイント増)で首位となり、21年度から強めている利益重視の取り組みの効果が出てきています。全社の営業利益は371億円(6.4%増)でした。同社は増益について「リベートやアローワンスが減少傾向にある中、1次売差マイナスの改善に努めた」と説明。販管費の増加を最低限に抑えたことも奏功しました。
一方、アルフレッサHDは全社の営業利益が1.0%減の381億円。営業利益率は1.29%となり、25年3月期までの中期経営計画で目標としていた1.5%には届きませんでした。医薬品卸売事業はほぼ前年並みの営業利益を確保した一方、医薬品製造事業や調剤薬局事業のマイナスが響きました。東邦HDは仕入れ原価の高騰や販管費の増加によって2.0%の減益。両社とも計画は上回っています。
アルフレッサHD、今期売上高3兆円へ
26年3月期は、6社すべてが1桁台の増収を見込んでいます。アルフレッサの売上高予想は4.9%増の3兆1070億円で、同社としては初の3兆円突破を計画。医薬品卸売事業が5.1%増の2兆7760億円と牽引します。メディパルHDは3兆7850億円(3.1%増)を見込み、売上高トップを維持する予想です。
一方、営業利益は東邦HD以外の5社が減益を予想。同社は調剤薬局事業傘下の事業子会社の統合によるプラス効果を見込みます。
メディパルHDは期ずれとなった事業投資費用などが響くものの、これと成長投資に伴うのれん・無形資産償却費を除けば2.9%の増益予想。アルフレッサは医薬品卸売事業で1.6%の増益見込みですが、全体では再生医療事業への先行投資や他事業のマイナス影響で2.6%減となる見通しです。
スズケンは、注力するスペシャリティ医薬品流通受託事業の売上高は3269億円(中計目標は2400億円)まで拡大する見通しですが、コロナ関連商材が43.3%の減収となることが影響します。今期は中計最終年度ですが、営業利益率の目標(1.5%)達成は厳しそうです。ただ、医薬品卸売事業は目標の1%を上回る1.24%を見込みます。スズケンは大手卸の中でも希望退職を募るなど大胆なコストカット策を講じてきましたが、流通費の上昇や賃上げなどでコスト抑制にも限界が来ていると訴えています。
アルフレッサとバイタルが新中計
決算発表にあわせて、主要医薬品卸ではアルフレッサHDとバイタルケーエスケーHDが3カ年の新中計を公表しました。アルフレッサHDは最終年度の28年3月期に医薬品卸売事業の売上高を3兆円とする計画。同社が「ネオプライマリー」と呼ぶ、プライマリー領域に患者が多いスペシャリティ医薬品などの承認を見据え、業界最大規模のMSを活用して大病院から開業医まで広く営業活動を展開します。
さらに同社は、再生医療等製品を含む受託製造(CDMO)の拡大も目指す考え。再生医療では子会社・セルリソーシズを軸に、原料の調達から本業の流通までトータルでサポートする体制の確立を目指します。再生医療については、東邦HDもバイオ医薬品を含むスペシャリティ製品のフルラインサービスの構築を急いでおり、帝人リジェネットや伊藤忠商事と連携してバイオベンチャー支援を展開する方針。「本業を支えるインフラ」(同社)として事業拡大を期待します。
バイタルケーエスケーHDは製薬事業への参入を表明。海外で承認済みの国内未承認薬の導入を支援するもので、パートナー企業とともに開発から製造、流通まで支援します。今年4月末には第1弾として英シールド・セラピューティクスから鉄欠乏症治療薬を導入。来年度以降、研究開発費の計上が営業利益にはマイナスとなりますが、医薬品卸売事業の拡大も通じて28年3月期は営業利益率1.02%とする目標です。
同様のドラッグ・ラグ/ロスへの解決を目指した事業は、スズケンが24年から製薬子会社・三和化学研究所や武州製薬、EPSホールディングスと合同で国内未承認薬の参入支援ビジネスを進めているほか、今年3月にはメディパルHDが海外既承認薬の開発を手掛けるアキュリスファーマに出資。製薬機能の有無や支援の方法にかかわらず大手各社が何らかの事業を行っており、バイタルケーエスケーHDも多角化に舵をきる中で選択肢としたようです。