新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は製薬企業の業績にどんな影響を与えているのか。各社の4~6月期決算をまとめました。
INDEX
受診抑制響く
8月7日までに発表された東証1部上場製薬企業の2020年4~6月期決算を集計したところ、24社中16社が前年同期から減収となりました。営業利益が前年同期を下回ったのは11社で、いずれも2ケタの大幅な減益。4月に行われた薬価改定に加え、COVID-19の感染拡大が重しとなりました。
8.1%の減収、21.1%の営業減益となったアステラス製薬は、COVID-19の影響で前期末に欧州で流通在庫を積み増した反動が出たほか、感染リスクを警戒した患者の受診抑制によって過活動膀胱治療薬「ベシケア」「ベタニス」など一部製品の売り上げが減少しました。同社は、5月の前期決算発表時に織り込んでいなかったCOVID-19の影響を反映し、21年3月期の通期業績予想を下方修正。COVID-19は売上収益で350億円、コア営業利益で130億円のマイナス要因になるといいます。
受診抑制による医薬品需要減少の影響は広範に及んでいます。
第一三共は、北米で販売している貧血治療薬「インジェクタファー」「ヴェノファー」の売り上げが20%以上減少。両剤はいずれも注射の鉄剤で、通院を避けるために経口薬への切り替えが広がったといいます。塩野義製薬は感染症治療薬(抗菌薬や抗ウイルス薬)が40%以上減り、協和キリンは抗アレルギー薬が受診抑制の影響を受けました。久光製薬は主力の消炎鎮痛薬「モーラステープ」が16%の減少。外出自粛や訪日外国人の減少により、国内の一般用医薬品(OTC)も44%の減収となりました。
新薬の市場浸透にも遅れ
COVID-19によって、新薬の市場浸透にも遅れが出ています。
中外製薬は売上収益、コア営業利益とも1~6月期として過去最高を更新しましたが、通期の国内販売計画に対する進捗率は、免疫チェックポイント阻害薬「テセントリク」が37.2%、血友病A治療薬「ヘムライブラ」が38.2%にとどまりました。COVID-19による営業活動の自粛や患者数の減少が影響したといいます。協和キリンもFGF23関連疾患治療薬「クリースビータ」などグローバル戦略品の市場浸透の減速が懸念されるとし、20年12月期通期業績予想を下方修正しました。
4大卸 売り上げ3.6%減
IQVIAは、COVID-19の感染拡大によって2020年度の国内医療用医薬品市場は2530~3030億円のマイナス影響を受けると予測。20年度の国内市場は前年度比マイナス3.1%~マイナス2.1%と落ち込む見込みです。
特に4~6月期はCOVID-19の影響が大きく出ており、医薬品卸大手4社の医療用医薬品卸売事業の売上高は、合計で前年同期から4.1%減少。スズケンは営業赤字を計上し、ほかの3社も3~6割の減益となっています。
患者戻らず
COVID-19の影響は、7~9月期以降は小さくなるとみられていますが、市場の先行きは決して明るくありません。メディカル・データ・ビジョンが6月末から7月上旬にかけて行ったアンケート調査(124病院が回答)では、緊急事態宣言の解除後に患者の受診状況が「回復した」(患者数が戻っている)と答えた病院は4割にとどまりました。半数は「現状維持」(減少したまま)、1割は「悪化した」(さらに減少した)と答え、合わせて6割の病院では患者数が元に戻っていません。
メディパルHDは、受診抑制などCOVID-19の影響は少なくとも20年度いっぱい続くと想定。スズケンと東邦HDは21年3月期業績予想を「未定」としたままで、バイタルケーエスケーHDとほくやく・竹山HDは5月の前期決算発表時に公表した業績予想を取り下げました。
製薬企業の多くは期初の予想を据え置きましたが、COVID-19の感染は国内外で再拡大しており、下振れのリスクは残っています。
(前田雄樹)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・アステラス製薬
・協和キリン
・武田薬品工業
・キョーリン製薬ホールディングス(杏林製薬/キョーリンリメディオ)
・久光製薬
・参天製薬
・エーザイ
・小野薬品工業
・中外製薬
・大日本住友製薬
・第一三共
・大塚ホールディングス(大塚製薬/大鵬薬品工業)
・田辺三菱製薬
・大正製薬ホールディングス
・塩野義製薬