国内主要製薬企業の今期の業績予想が出揃いました。各社は、新型コロナウイルス感染症の業績への影響をどう見ているのでしょうか。
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半数が影響織り込まず
「新型コロナウイルス感染症の影響を適切に予想するのは、現時点では難しい」「収束時期を現時点で正確に見通すのは困難」――。4月下旬から5月中旬にかけて発表された国内製薬企業の決算では、2021年3月期の業績予想に関してこんな記述が多く見られました。
3月期決算の主要製薬企業13社のうち、21年3月期の業績予想に「新型コロナウイルスの影響を織り込んでいない」としたのは、約半数にあたる6社。3月期以外の企業では、久光製薬が「影響を合意的に算出することは困難」として、21年2月期の業績予想の開示を見送りました。中外製薬や協和キリンといった12月期決算の企業も、第1四半期(1~3月期)終了時点では期初の予想を据え置いています。
業績予想に新型コロナウイルスの影響を織り込まなかったアステラス製薬の安川健司社長CEO(最高経営責任者)は、5月18日の決算説明会で「予算策定の時点では、今後の影響を適切に予想するのは難しいと判断した」と説明。例年は第2四半期(7~9月期)終了時点で行っている業績予想の見直しを「今期は、第1四半期(4~6月期)が終わった段階で、最新の状況を踏まえて予想をするつもりだ」と話しました。
「ウィズ・コロナ、どんな世界か予想つかない」
第一三共も、「収束時期を正確に見通すのは困難」として予想に新型コロナウイルスの影響は反映していませんが、「世界的な活動制限が第2四半期(7~9月期)まで続いた場合、売上収益に3~5%(300~500億円)のマイナス影響が見込まれる」との見通しを示しました。外出自粛による受診抑制や、新薬の市場浸透の遅れなどがマイナス要因となる一方、事業活動の低下によって経費の支出も抑制されるため、営業利益への影響は軽微だといいます。
感染拡大のピークは過ぎ、経済活動の再開を模索する動きも出てきていますが、接触機会を減らすなどの対策は引き続き求められることになります。「いわゆる『ウィズ・コロナ』という状況でどんな世界が待っているのか予想がつかない。ダウンサイドの影響はあるだろうが、どの程度かはまだ分からない」。大日本住友製薬の野村博社長は決算説明会でこう述べました。
エーザイ「売上に3%のマイナス要因」
一方、業績予想に新型コロナウイルスの影響を織り込んだのは、エーザイや小野薬品工業、大正製薬ホールディングス(HD)、参天製薬など。
エーザイは、通期にわたる影響として売上収益に3%程度のマイナス要因を織り込んでいますが、販管費の低減も見込まれるため営業利益への影響は軽微と予想。大正製薬HDは、売上高に185億円、営業利益に56億円のマイナス影響を織り込みました。
小野は「収束時期を現時点で正確に見通すことが困難」とし、予想には6月末まで医療機関への訪問活動などの自粛が続いた場合の影響を反映。参天は「収束時期を地域別に仮定を置いて見積もった」としています。
長期化なら「影響広範囲に」
事態が長期化した場合、製薬企業の事業や業績にも広く影響を及ぼす可能性があります。中外製薬の板垣利明CFO(最高財務責任者)は4月下旬の決算会見で、新型コロナウイルスの影響は▽新製品の市場導入と浸透の遅れ▽申請や審査対応などの薬事関連スケジュールの遅延▽治験の開始時期や進捗などのスケジュールの遅延――など「広範囲に及ぶ可能性が排除できない」と指摘。アステラスの安川社長は「新製品の市場浸透、申請段階にある開発品の審査、危機対応に伴って必要となる一時的な費用、などが業績への影響として考えられる」と話します。
IQVIAは、新型コロナウイルスの感染拡大は2020年度の国内医療用医薬品市場に2530~3030億円のマイナス影響を与えると予測。受診抑制による患者数の減少が主な要因で、がんや自己免疫疾患といった領域では患者の減少は想定しにくい反面、「生命に関わるような重大な疾患領域以外では、患者は診察や処方のための通院を控えるだろう」と見ています。
新型コロナウイルスをめぐっては「第2波」の到来が懸念されており、先行きは依然として視界不良。「現時点で入手可能な情報に基づけば、業績に重大な影響を及ぼすことはない」(武田薬品工業)とする企業もありますが、事態は流動的で、予断を許さない状況が続きます。
(前田雄樹)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・アステラス製薬
・協和キリン
・武田薬品工業
・キョーリン製薬ホールディングス(杏林製薬/キョーリンリメディオ)
・久光製薬
・参天製薬
・エーザイ
・小野薬品工業
・中外製薬
・大日本住友製薬
・第一三共
・田辺三菱製薬
・大正製薬ホールディングス
・塩野義製薬