オンコリスバイオファーマ
競争は白熱 差別化を狙う「テロメライシン」の開発加速なるか
2018/9/12 AnswersNews編集部 前田雄樹・亀田真由
いま、世界で開発競争が過熱する腫瘍溶解性ウイルス。オンコリスバイオファーマはいち早くその開発に着手しながらも、リーマンショックの影響で資金調達に苦戦。開発が遅れ、後続に先を越されてしまいました。巻き返しの鍵を握るのは、腫瘍溶解性ウイルスとしては「テロメライシン」だけが行っている食道がんでの開発。開発の加速化に向け、パートナー探しも課題となっています。
「テロメライシン」臨床試験は順調
「がんを切らずに治す」。オンコリスバイオファーマはこんなコンセプトのもと、腫瘍溶解性ウイルス「テロメライシン」の開発を進めています。
腫瘍溶解性ウイルスとは、がん細胞でのみ増殖し、がんを破壊するよう遺伝子改変したウイルスのこと。従来の抗がん剤と比べて副作用が軽く、安全性が高いのが特徴です。腫瘍免疫の増強効果も見込まれており、がんの新しい治療法として期待されています。遺伝子工学の発展とともに米国を中心に研究が進み、2015年には米アムジェンの「IMLYGIC」が世界初のがんウイルス療法剤として米FDA(食品医薬品局)の承認を受けました。
日本でも90年代からアカデミアを中心に研究が行われ、テロメライシンは風邪のウイルス「アデノウイルス」から岡山大学が開発。これを実用化するため、04年にオンコリスが設立されました。
テロメライシンは現在、食道がん(日本)、悪性黒色腫(米国)、肝細胞がん(台湾・韓国)の3つの適応で開発が進んでいます。
最も注力するのは「食道がん」。18年現在、腫瘍溶解性ウイルスで食道がんを対象に開発を行っているのはテロメライシンだけです。高齢などの理由で手術の行えない患者を対象に開発が進められています。開発は順調に進んでおり、放射線との併用療法に関する企業治験は臨床第1相試験(P1)が今年中に完了する見込みです。
アジア圏で開発を進めるのは患者数の多い「肝細胞がん」です。共同開発契約を結ぶ台湾のメディジェン社が中心となり、18年中の終了をめどに韓国と台湾でP1試験を実施中。16年に導出契約を結んだ中国ハンルイ社でも肝臓がん適応のP2試験が計画段階にあります。
検査薬「テロメスキャン」 早期の黒字化狙う
テロメライシンは、医薬品だけでなくがんの検査薬としても有望視されています。
テロメライシンを検査薬に応用した「テロメスキャン」は、テロメライシンにクラゲの発光遺伝子を組み込んだもので、がん細胞で特異的に発光し、CTC(血中循環がん細胞)やPTC(腹腔内遊離がん細胞)の検出に用いられます。肺がんなど従来手法では困難だったがんでもCTCの検出が可能で、早期検査から予後検査、さらには臨床試験の効果測定など、さまざまな用途が検討されています。
中でも注目したいのが、治療法の選択への活用。特に肺がんや前立腺がんでは、CTCに加え、侵襲性の高い生検に代わる遺伝子解析や悪性度評価をパッケージとして提供することに取り組んでおり、将来的には個々の患者に合った最適な治療法をより安全に選択できるようになると期待されています。
テロメライシンの開発費が増加する中、オンコリスはテロメスキャンを中心とする検査事業を安定した収益源とするため、まずは単年度黒字化を目標としています。
17年度の検査事業の売上高は3259万円(前年度比46%減)、営業利益が1億300万円の赤字(前年度は1億500万円の赤字)でした。韓国と北米で導出し、マーケットの獲得を狙っています。
競合との差別化、開発の加速化の鍵は
腫瘍溶解性ウイルスの開発は、米国や中国を中心に世界で100強の臨床試験が進行中。開発競争が過熱する中、オンコリスは腫瘍溶解性ウイルスとして唯一開発している食道がんで競合との差別化を狙っています。
腫瘍溶解性ウイルスの開発には、第一三共やアステラス製薬などの大手製薬企業も参入しており、開発のスピードアップも重要です。ベンチャー企業のオンコリスがこれを克服するには、パートナー探しが大きな課題となります。
現時点でテロメライシンは台湾と中国、テロメスキャンは韓国と北米でライセンスアウト済み。しかし、日本や米国などの大型市場ではテロメライシンの導出はまだ叶っていません。差別化につながる食道がんについては自社単独での開発も視野に入れながら、水面下でライセンス交渉を続けています。
米国では16年に子会社を設立し、パートナーの確保に力を入れています。契約に至れば、米国で進める悪性黒色腫の臨床試験や、計画段階にある食道がんでの開発も大きく進展する可能性が高まります。
ライセンスエリアが拡大し、開発が加速すれば、差別化のポイントである食道がんでの申請にも早く手が届きます。オンコリスとともにウイルス療法の実現に挑戦するパートナーが現れるかどうか。交渉の成功が命運を握ります。
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