武田薬品工業
シャイアー買収で世界トップ10入りも…問われる創薬力
2020/8/7 AnswersNews編集部 前田雄樹・山岡結央
2019年1月、6兆円を投じてアイルランド・シャイアーを買収した武田薬品工業。売上高は3兆円を突破し、世界トップ10入りを果たしました。一方、時価総額では中外製薬や第一三共に抜かれ、株式市場からの評価は冴えません。規模拡大を創薬力の強化につなげられるか、買収の真価が問われています。
国内企業初の世界トップ10入り
「われわれは日本ではかなう者がいないスケールになっている。こうした変革は当社にとっても初めてだったが、そうしたことができるということを示せたのを大変誇りに思っている」。5月に開かれた決算カンファレンスコールで、武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長はこう語りました。
武田の19年度の連結業績は、売上高3兆2912億円(前年度比56.9%増)、営業利益1004億円(57.8%減)。シャイアー買収がはじめて通年で寄与し、日本の製薬企業として初めて世界トップ10入りするメガファーマとなりました。売上高では国内2位のアステラス製薬に2.5倍の差をつけた一方、買収費用がかさんだ影響で利益は大きく減少。20年度は売上高3兆2500億円(1.3%減)、営業利益3950億円(293.4%増)を見込んでいます。
そもそもシャイアーの買収の狙いは、▽海外販売の拡大▽希少疾患領域・血漿分画製剤への進出▽研究開発体制の強化――などでした。
買収によって武田の海外売上高は大きく拡大し、19年度は前年度比76.8%増の2兆6984億円に達しました。海外売上高比率は前年度から9.2ポイントアップして82.0%に。米国が全体の約半分を占める一方、国内は18.0%と2割を切りました。20年度は海外の比率がさらに大きくなり、国内は1割を下回る見通しだといいます。
買収で獲得した希少疾患領域と血漿分画製剤領域の売上高は、それぞれ6348億円、3942億円。合わせて1兆円を稼ぎ出しており、従来の「がん」「消化器」「精神疾患」に続く柱となりました。遺伝性血管性浮腫発作抑制薬「TAKHZYRO」は米国で予防治療としての使用が拡大して683億円を販売。血友病A治療薬「アディノベイト」は販売国が広がり、587億円を売り上げました。
創薬力向上は道半ば
一方、これから問われるのが創薬力です。武田は24年度までに承認の可能性がある12の新薬候補を「ウェーブ1」と呼び、ピーク時の売上高を合わせて100億ドル超と見積もりますが、この中で武田が創製したのはドラベ症候群治療薬とナルコレプシー治療薬の2品目にとどまります。
ウェーブ1の品目では、好酸球性食道炎治療薬「TAK-721」や非小細胞肺がん治療薬「TAK-788」など4品目を20年度中に申請する予定ですが、いずれも買収や導入で獲得したものです。
武田は長らく自社から新薬を生み出せない状況が続いています。ウェバー社長は15年の社長就任以降、研究開発の分野を絞り込み、拠点を再編するなどの改革を進めてきました。シャイアー買収によって研究開発費は5000億円規模になり、研究開発の体制は整いつつあります。真価が問われるのはこれからです。
進むノンコア事業の売却
武田はシャイアー買収によって抱えた負債を削減するため、最大100億ドル規模の資産売却を進めています。これまでに、欧州やアジア、南米などでノンコア事業を売却し、旧東京本社ビルや大阪本社ビルも売り払いました。
買収にはシャイアーの収益力を取り込む狙いもありましたが、営業利益率はわずか3.1%にとどまりました。利益を押し下げたのは、買収に伴う統合費用1354億円と、4554億円の「製品に係る無形資産償却費及び減損損失」。統合費用は一時的なもので、20年度は営業利益率が12.2%まで回復する見込みですが、償却費と減損損失は20年度以降も続きます。
武田は海外の製薬企業とともに新型コロナウイルス感染症に対する免疫グロブリン製剤の開発に乗り出しましたが、これはシャイアー買収で血漿分画製剤を強化できたからこそ。メガファーマにふさわしい成果を示すことができるのか。これからが正念場です。
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