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ニュース解説

主要製薬、24年3月期は「減収増益」予想…円高想定も足元は円安、業績に上振れ余地

更新日

穴迫励二

国内主要製薬企業の2024年3月期業績は減収増益となりそうです。22社の業績予想を集計したところ、合計売上高は前期を2.7%下回る一方、営業利益は1.9%増となりました。為替の動向など不透明感もある中、16社が増収、12社が営業増益を予想しています。

 

 

第一三共とキッセイが2桁増収、小野や塩野義も堅調

22社の24年3月の売上高予想は計10兆7388億円。増収を予想するのは16社で、減収予想は6社です。2桁増収を予想しているのは第一三共とキッセイ薬品工業の2社。第一三共が抗がん剤「エンハーツ」などの貢献で前期比13.4%増、キッセイは過活動膀胱治療剤「ベオーバ」の販売拡大で10.4%増を見込んでいます。

 

中堅ながら海外展開が拡大するゼリア新薬工業は6.8%増、抗がん剤「オプジーボ」が牽引する小野薬品工業も6.2%増と堅調。前期に新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」が業績を押し上げた塩野義製薬は5.5%増としました。

 

【国内主要製薬/24年3月期業績予想】(単位:百万円、%)<社名/売上高/前期比/営業利益/前期比>武田薬品工業/3,840,000/▲/4.7/349,000/▲/28.8|アステラス製薬/1,520,000/0.1/288,000/116.5|第一三共/1,450,000/13.4/135,000/12.0|エーザイ/712,000/▲/4.4/50,000/24.9|住友ファーマ/362,000/▲/34.8/▲78,000/―|田辺三菱製薬/388,500/▲/27.4/23,000/▲/72.7|小野薬品工業/475,000/6.2/153,000/7.8|塩野義製薬/450,000/5.5/150,000/0.7|参天製薬/273,000/▲/2.2/32,000/―|大正製薬HD/314,500/4.4/18,500/▲/19.6|ツムラ/150,500/7.5/18,000/▲/13.9|日本新薬/145,000/0.5/32,000/6.5|杏林製薬/116,200/2.6/6,000/17.1|持田製薬/104,000/0.7/8,500/▲/0.1|科研製薬/73,100/0.2/7,600/▲/5.0|キッセイ薬品工業/74,500/10.4/4,200/―|ゼリア新薬工業/73,000/6.8/9,100/0.9|あすか製薬HD/62,000/2.5/5,400/5.7|扶桑薬品工業/53,300/4.5/2,000/▲/9.4|JCRファーマ/36,900/7.4/5,600/12.5|日本ケミファ/32,700/3.6/200/―|生化学工業/32,550/▲/2.7/100/▲/95.3|合計/10,738,750/▲/2.7/1,219,200/1.9|※各社の決算短信をもとに作成

 

一方、住友ファーマと田辺三菱製薬は大幅な減収となりそうです。住友は抗精神病薬「ラツーダ」の特許切れによって34.8%の減収を予想。同薬の北米売上高は前期の1985億円から今期は209億円に激減します。前期の田辺三菱は前期に多発性硬化症治療薬「ジレニア」のロイヤルティを一括計上した反動で27.4%減となる見込みです。

 

ほかにも、武田薬品工業は注意欠陥/多動性障害治療剤「ビバンセ」や高血圧症治療剤「アジルバ」が特許切れとなることで4.7%の減収を予想。エーザイはリウマチなどの適応を持つ「ヒュミラ」の共同販促終了で4.4%減となります。

 

アステラスは営業利益倍増、エーザイも2桁増益

営業利益は、前期に減損損失を計上したアステラス製薬が2倍を超える2880億円とするほか、大手のエーザイや第一三共、中堅では杏林製薬やJCRファーマが2桁増益を見込んでいます。一方、住友ファーマは780億円の赤字で、武田薬品や田辺三菱製薬も大幅減となりそうです。

 

海外事業が拡大する大手を中心に、各社の業績は為替変動の影響を大きく受けます。23年3月期は1ドル=135円(期中平均)と前期比で20円以上ドル高・円安が進みましたが、今期はほとんどの企業が130円(武田薬品は131円)と円高に振れることを想定。ただ、足元では140円前後で推移しています。

 

ドル高・円安は売上高にはプラスの効果がある一方、海外での研究開発費や販売管理費の増加につながり、利益にはマイナスとなる場合があります。レートの変動による「為替感応度」は、武田薬品の場合、1円円安になると売上高で149.6億円、営業利益で13.0億円の押し上げ効果があります。

 

主力製品が業績けん引

各社のトップ製品は、特許切れを迎えた住友のラツーダを除き、今期も売り上げを拡大しそうです。為替の動向にも左右されますが、円安傾向が続くとの見方が強いだけに上振れする可能性もありそうです。

 

武田薬品の炎症性腸疾患治療剤「エンタイビオ」は12.1%増の7880億円まで伸ばす計画です。ピーク時の売上高予想を従来の「55~65億ドル」から「75~90億ドル」に引き上げており、日本の製薬企業として初めての「1兆円製品」が視野に入ります。国内でも3月に皮下注製剤が承認され、前期の135億円から大きく成長すると予想。競合品の「ステラーラ」は、販売元の田辺三菱製薬が今期、2桁減収を見込んでいます。

 

アステラスの抗がん剤「イクスタンジ」は、欧州市場が好調で前期は上方修正しましたが、今期の伸びは1.3%と小幅にとどまりそうです。ただ、ピーク時の売上高予想は今後の適応拡大も見据えて「6000~7000億円」から「7000億円以上」に改めました。27年には特許切れを迎えるため、それまでに今期予想の6699億円からどこまで伸ばせるか注目されます。

 

伸び率では第一三共の抗がん剤「エンハーツ」が最大です。前期2075億円から今期は3200億円へと54.2%増を計画。売り上げの6割は米国ですが、欧州やASCA(アジア・中南米)では倍増させる考えです。同薬の好調ぶりを背景に、中期経営計画の最終年度となる25年度のがん領域売上高は、当初目標から3000億円上積みして「9000億円以上」に再設定しました。

 

【国内製薬大手/主力品の売上高予想】<23年3月期実績(億円)/24年3月期予想(億円)>エンタイビオ・武田薬品/7027/7880|イクスタンジ。アステラス/6611/6699|エンハーツ・第一三共/2075/3200|レンビマ・エーザイ/2496/2610|※各社の決算短信をもとに作成

 

アステラス、国内減収に歯止め

国内市場に限ると、前期で減少に歯止めがかかったアステラス製薬が6.7%増の2775億円を計画。抗がん剤「イクスタンジ」「パドセブ」が引き続き伸長するほか、骨粗鬆症治療薬「イベニティ」にも勢いがあります。

 

第一三共は抗凝固剤「リクシアナ」や骨粗鬆症治療薬「プラリア」といった上位品目が安定して伸びるほか、エンハーツは69.9%増の199億円を計画しています。決算発表時点で国内売上高は9.1%増の4994億円を予想していましたが、5月に後発品子会社の第一三共エスファの売却を発表しました。エスファの売上高は前期で860億円でした。

 

塩野義製薬は前期、新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」を含め国内で1797億円を売り上げましたが、今期は1341億円と25.3%減を予想しています。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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