ここ数年、急速に広がっている製薬企業によるデジタルを活用した取り組み。国内製薬業界のデジタル分野での協業状況をマッピングしました。
精神疾患中心にDTx加速
国内で事業展開する製薬企業のプレスリリースなどをもとに、未病・予防、診断、治療の分野でのヘルステック企業などとの提携関係を相関図にまとめました。
マップを見てみると、各社ともすでに複数の治療薬をラインアップする得意領域でデジタルを使った取り組みを進めていることがわかります。
特に動きが活発なのが精神疾患の領域で、大塚製薬、塩野義製薬、Meiji Seikaファルマなどこの領域に強みを持つ製薬企業が並んでいます。大塚は、2019年に米クリック・セラピューティクスから大うつ病性障害治療用アプリのグローバルライセンスを取得。21年から22年にかけて米国でフルリモートの臨床試験を行いました。昨年10月には、ジョリーグッド(東京都中央区)と統合失調症患者のソーシャルスキルトレーニングを支援するVRプログラムの提供を開始。ジョリーグッドは帝人ファーマともうつ病の認知行動療法を提供するVRコンテンツを開発し、昨年末から特定臨床研究を実施中です。
デジタルセラピューティクス(DTx)では、CureAppが20~22年にかけてニコチン依存症と高血圧症の治療用アプリを発売。今年2月には、サスメドが不眠障害治療用アプリの承認を取得しました。サスメドは販売提携先の塩野義とともに年内の保険適用を目指して準備を進めています。
その塩野義は、19年に米アキリから導入したADHD治療用アプリを開発中。22年にはブレイン・マシーン・インターフェース(BMI)技術に強みを持つLIFESCAPES(東京都港区)と資本業務提携を結び、BMI技術による脳卒中患者のリハビリテーション機器の開発を支援しています。
住友ファーマは22年9月、メルティンMMI(東京都中央区)と共同で開発した「MELTz 手指運動リハビリテーションシステム」を発売。医薬品の枠を超えたソリューション創出に向けて19年に立ち上げた「フロンティア事業」から初の製品が生まれました。同事業では、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)に対するAikomi(神奈川県横浜市)のデジタル医療機器や、社交不安障害、全般不安障害、大うつ病性障害などの精神疾患に対する米BehaVR(ビヘイビア)のVRコンテンツなどにも取り組んでいます。
精神疾患以外の領域でも進展が見られており、第一三共は20年、がん治療支援アプリの開発でCureAppと提携。杏林製薬も昨年、耳鼻科領域の治療用アプリ開発を目指してサスメドと共同研究開発・販売契約を結びました。サワイグループホールディングス(GHD)もCureAppと非アルコール性脂肪肝炎(NASH)領域の治療用アプリの開発を進めています。
エーザイや第一三共はエコシステム構築へ
製薬企業によるデジタルを活用した取り組みは治療そのものだけにどとまらず、未病・予防、診断、治療支援、重症化予防といった領域で幅広く行われています。
さらには、こうしたサイクル全体に焦点を当て、多くのプレイヤーを巻き込んだ取り組みを行う企業も出てきました。
認知症エコシステムの構築を目指すエーザイは、20年3月に豪Cogstateから導入した認知機能をセルフチェックするためのデジタルツール(非医療機器)を「のうKNOW」として発売。FCNT(神奈川県大和市)と組んでシニア世代向けのスマートフォンに搭載したり、ユーフォリオ(東京都渋谷区)を通じて美容室向けに展開したりと、コラボを拡大しています。22年3月にはPHR事業を手掛けるArteryexを買収し、ソリューションビジネスの基盤を強化しました。
第一三共も昨年末、グーグルやデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー、エクサウィザーズとともに、個人の健康促進から予防、治療、予後までを扱うトータルケアエコシステムの構築に向けたプロジェクトを開始しています。
エーザイや第一三共の取り組みとはまた別のアプローチから、オープンイノベーションの活性化に向けた場の構築も進みます。アストラゼネカは20年11月、ヘルスケア・イノベーションハブ「i2.JP」を立ち上げ。2年の活動でパートナーは280社を超えるまでに成長しました。第一三共や日本イーライリリーといった製薬企業のほか、WelbyやMICIN、インテグリティ・ヘルスケアなどのヘルステック企業も多く参画しています。
アストラゼネカは、i2.JPの設置に先駆けて戦略的パートナーシップを結んだWelbyとEGFR阻害薬「タグリッソ」服用患者が使用するアプリを展開しているほか、MICINの周術期ケアアプリを使ったソリューション開発、富士フイルムとの医師向けの化学放射線療法の治療計画支援など、肺がんの周辺での取り組みを加速させています。