4月に行われる東京証券取引所の市場再編で、現在、東証1部に上場している主要製薬企業のほとんどは最上位の「プライム」に移行します。中堅企業向けの「スタンダード」を選択したのは、大正製薬ホールディングスとわかもと製薬の2社。東証マザーズに上場しているバイオベンチャーはすべて、新興企業向けの「グロース」に移行します。
INDEX
日本ケミファが経過措置利用
東京証券取引所は4月4日、現在「1部」「2部」「ジャスダック」「マザーズ」の4つに分かれている株式市場を、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つに再編します。1月11日には、全上場企業3777社の新市場での移行先が公表されました。
東証1部に上場している主要製薬企業32社の移行先を見てみると、武田薬品工業やアステラス製薬、第一三共など30社がプライムを選択。医薬品卸では、メディパルホールディングス(HD)、アルフレッサHD、スズケン、東邦HD、バイタルケーエスケーHDの大手5社がそろってプライムに移行します。
一方、大正製薬HDとわかもと製薬はスタンダードを選択。医薬品原薬の製造などを手掛ける有機合成薬品工業も、1部からスタンダードに移ります。
東証は市場再編にあたり、「当分の間」は新市場の基準に達していなくても上場できる経過措置を設けており、プライムに移行する主要製薬企業のうち日本ケミファが経過措置を利用。同社は▽流通株式数(2万単位以上の基準に対して1万8655単位)▽流通株式時価総額(100億円以上の基準に対して44.6億円)▽1日平均売買代金(2000万円以上の基準に対して1000万円)――の3項目でプライムの基準を満たしておらず、2027年3月期の適合を目指す計画書を東証に提出しました。日水製薬も流通株式時価総額が87.5億円で基準を下回っており、経過措置を使ってプライムに移行します。
東証マザーズやJASDAQグロースに上場しているバイオベンチャーは、すべてグロースに移行。このうち、抗がん剤の開発を手掛けるキャンバスは経過措置を利用して上場を維持します。
顔ぶれ変わらず
東証の市場再編は、各市場の特徴を明確にして国内外から投資を呼び込むのが狙い。従来の市場は新興市場が2つあるなど、投資家からわかりにくいと指摘されてきました。東証は今回、各市場のコンセプトを次のように打ち出し、役割分担と位置付けの整理を図っています。
▽プライム…多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値向上にコミットする企業向け
▽スタンダード…公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向け
▽グロース…高い成長可能性を実現するための事業計画およびその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向け
東証の発表によると、現在1部に上場している企業(2185社)の84%にあたる1841社がプライムを選択。このうち296社が経過措置を利用していて、大正製薬HDのように1部からスタンダードを選択した企業は344社にとどまり、市場の顔ぶれはさほど変わりません。「看板の掛け替え」との批判もある中、成長と企業価値の向上を促すことができるか。新市場移行後も、企業は経営を磨き続ける必要があります。