国内の主要製薬企業の2020年4~9月期決算は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあって減収減益となりました。先行きが見通せず多くの企業が21年3月期の業績予想を据え置いた4~6月期決算から一転し、集計対象とした18社中11社が予想を修正。このうち7社が売上高予想を下方修正しました。
18社の4~9月期 1.5%減収・13.4%営業減益
国内の主要製薬企業18社の2020年4~9月期決算を集計したところ、8社が減収、10社が営業減益(うち2社は営業赤字)となりました。18社の売上高は合計で前年同期から1.5%減、営業利益は13.4%減。各社の主力製品はおおむね堅調に推移した一方、4月の薬価改定やCOVID-19による市場の停滞が足かせとなりました。
COVID-19のパンデミックは、患者の受診抑制による医薬品市場の停滞を招いています。米IQVIAが今月3日に発表したレポートによると、今年上半期の主要先進国市場(米国、日本、欧州5カ国=ドイツ・フランス・イタリア・英国・スペイン、カナダ)は、病院で前年同期比6.9%減、小売り(薬局・ドラッグストア)で0.7%減。IQVIAジャパンが3月にまとめたレポートでは、今年度の日本の医療用医薬品市場はCOVID-19によって2530~3030億円のマイナス影響を受け、前年度比で2.1~3.1%減となると予測されています。
影響まちまち
4~9月期に5.4%の減収となったアステラス製薬は、COVID-19の影響で心機能検査補助剤「レキスキャン」や抗菌薬「ジェニナック」の売り上げが減少。塩野義製薬は、抗菌薬や抗インフルエンザウイルス薬などの感染症治療薬が33.5%減となりました。
科研製薬も、主力の爪白癬治療薬「クレナフィン」や関節機能改善剤「アルツ」が、薬価改定と受診抑制の影響で2ケタの販売減となり、全体で18.6%の大幅減収。第一三共は0.1%の増収を確保しましたが、通院を避けるために経口剤への切り替えが広がった鉄注射剤「インジェクタファー」「ヴェノファー」が落ち込みました。
武田薬品工業は4.2%の減収となったものの、「COVID-19の売上収益に対する全体的な影響は、重要性のあるものではなかった」と強調。減収は事業売却や一部製品の特許切れが要因だといいます。主力の抗精神病薬「ラツーダ」への影響が想定より小さかった大日本住友製薬も2ケタの増収を確保しており、COVID-19の収益への影響は扱う疾患領域や製品によってまちまちです。
一方、利益には一過性の特殊要因が大きく影響しました。アステラスと田辺三菱製薬は開発品の中止や遅延に伴う無形資産の減損損失を計上し、大幅な営業減益に。田辺三菱は、パーキンソン病治療薬の臨床第3相試験の立ち上げ時期にCOVID-19の拡大が重なり、承認予定を先延ばししたことで、845億円の減損損失を計上。619億円の営業赤字に転落しました。
営業活動の制限や臨床試験の停滞に伴う費用減など、多くの企業でCOVID-19は利益面でプラスの要因となっています。それでも第一三共は、力を入れる抗体薬物複合体(ADC)の開発進展で研究開発費が増加し、32.1%の営業減益。武田は前期に多額の買収費用を計上した反動で営業利益が倍増しました。
見えてきた影響、拭えぬ下振れリスク
先行きが極めて不透明な中でスタートした21年3月期ですが、感染拡大と経済活動を両立させる動きが広がり、各社もCOVID-19の影響から徐々に回復しつつあります。折り返し地点を迎え、影響が一定程度見えてきたことで、4~9月期決算発表のタイミングで多くの企業が通期の業績予想を見直しました。
今回、集計対象とした主要18社で、業績予想の修正を発表したのは半数を超える11社。このうち7社が売上高予想を引き下げ、5社は営業利益予想を下方修正しました。
第一三共は、受診抑制やインバウンド需要の消失、衛生意識の向上によるインフルエンザや風邪などの流行の減少を織り込み、売上高予想を従来の9700億円から9600億円に下方修正。田辺三菱や塩野義、日本新薬、キョーリン製薬ホールディングス(HD)なども、COVID-19の影響で売上高予想を引き下げました。
キョーリンは売上減の影響を販管費の減少で吸収できない見通しで、利益予想も下方修正した一方、小野薬品工業やキッセイ薬品工業はCOVID-19による費用の減少を織り込んで利益予想を上方修正しました。
期初や4~9月期決算発表時に比べると見通しがきくようになったとはいえ、先行きは依然として不透明です。国内でも感染者数は増加傾向にあり、欧米でも感染が再拡大。欧州では、再び行動の制限を強めている国もあります。気温が下がるにつれて感染者数はさらに増えるとの指摘もあり、業績が下振れするリスクは拭えません。
(前田雄樹)
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