国内の主要製薬企業8社の2023年4~9月期決算が出そろいました。各社がグローバル展開する主力製品が成長し、対象8社の売上収益の合計は前年同期比5.2%増。相対的に縮小する国内でも2.0%の増収を確保しており、企業別では第一三共が武田薬品工業を抜いてトップに躍り出ました。
8社中7社が増収、伸び率最大は塩野義
売り上げは全体として堅調で、8社のうち7社が増収。前年同期からの伸びが最も大きかったのは52.9%増の塩野義製薬で、新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」が貢献しました。第一三共は、がん領域の抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」の世界売上高が前年同期比2.2倍の1734億円に拡大。同薬の通期の売上収益予想を3200億円から3817億円に引き上げました。小野薬品工業も抗がん剤「オプジーボ」が成長を続け、SGLT2阻害薬「フォシーガ」が慢性心不全・慢性心臓病への適応拡大を追い風に伸長。両社とも全体の売上収益は前年同期を20%近く上回りました。
田辺三菱製薬は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「ラジカヴァ」が前年同期から倍増となる398億円に到達。海外製品売上収益の7割超を占めるまでに成長しています。同薬は点滴静注剤として発売されましたが、昨年5月に経口懸濁剤が承認。経口剤が予想を上回って市場浸透しています。
住友「基幹3製品」は計画未達
厳しいのは住友ファーマです。北米で抗精神病薬「ラツーダ」が特許切れを迎えたのに加え、国内でGLP-1受容体作動薬「トルリシティ」の販売が日本イーライリリーに移管されたことで52.2%の減収となりました。
同社が業績回復を託す「基幹3製品」にも不安があります。いずれも北米で21年に市場投入した製品ですが、前立腺がん治療薬「オルゴビクス」は1億3800万ドルで1億5500万ドルに届かず、過活動膀胱治療薬「ジェムテサ」と子宮筋腫・子宮内膜症「マイフェンブリー」も未達。3製品トータルの期初計画に対する達成率は75%と苦戦しました。通期予想は変更していませんが、「どう予想を立てていいのか難しい」(野村博社長)のが現状です。
アステラス、期待の「べオーザ」下振れ
注目される新製品では、アステラス製薬が米国で5月に承認を取得した更年期障害治療薬「べオーザ」が13億円にとどまり、通期予想533億円と大きく乖離しました。医師・患者向けの活動は計画通りに進んでいるようですが、DTC(消費者向け直接広告)開始前の需要が想定を下回りました。現時点では通期予想は据え置いていますが、第3四半期の状況を見た上で修正する考えです。岡村直樹社長CEOは「ピーク時売り上げ見通し(3000~5000億円)には引き続き自信を持っている」と強気の姿勢を崩していません。
エーザイのアルツハイマー病治療薬「レケンビ」の売上収益は4億円でした。内藤晴夫CEOは「われわれはよくやったと思っているが、マーケットでは若干、失望の声もあるようだ」とし、「計画をやや上回る実績であり、ネガティブサプライズと取っていただきたくない」と話しました。通期に向けては「米国で投与患者1万人、売上収益100億円レベルには大きな自信を持っている」とこちらも強気です。
第一三共、国内9.7%増収
一方、国内に目を移してみると、第一三共が9.7%増の2468億円を売り上げ、新型コロナワクチン「ヌバキソビット」の購入キャンセルで12.6%減の2285億円にとどまった武田薬品を抜きました。第一三共の国内事業は、抗凝固薬「リクシアナ」が12.6%増の571億円、エンハーツが倍増の104億円と好調です。
小野薬品はオプジーボとフォシーガの拡大で田辺三菱を上回り、順位を逆転。アステラス製薬は近年の減少傾向に歯止めがかかったようですが、HIF-PH阻害薬「エベレンゾ」やSGLT2阻害薬「スーグラ」は競合品に押されて減収となっています。塩野義はゾコーバの拡大で国内売上収益が2.9倍に膨れました。
住友ファーマの国内は40.3%減の585億円まで減少。営業体制も見直しているようで、MR数は9月末で1020人と1年前の1150人から130人減りました。このうちコントラクトMRは22年4月時点で約100人いましたが、今年4月には約40人にとどまっています。
国内売り上げ、上位は拮抗
通期の売上収益予想は8社中5社が上方修正しました。第一三共は1兆5000億円台に乗せ、小野薬品は初の5000億円が視野に。田辺三菱は減収幅が期初予想より縮小します。各社とも下期の想定為替レートを円安方向に見直したことが影響しています。
国内は第一三共が4994億円を見込んでおり、上方修正した田辺三菱は前期から微減となるものの3000億円台をキープしそうです。12月期決算の企業では、中外製薬が新型コロナ治療薬「ロナプリーブ」(812億円)を含めて通期で5417億円を予想。武田薬品、第一三共とともに上位は拮抗しています。
営業利益は19.4%減、武田とアステラスの一過性費用響く
営業利益は、武田薬品とアステラスの上位2社が半減し、全体では19.4%の減益となりました。武田は、クローン病に伴う痔瘻の治療薬「アロフィセル」の臨床第3相試験失敗や、肺がん治療薬「エクスキビティ」の販売中止で、あわせて1000億円を超える減損損失を計上。通期の営業利益予想を下方修正しましたが、コアベースでは据え置いています。アステラス製薬も7月の米アイベリックバイオ買収に伴って研究開発費や販売管理費を計上し、一過性のコスト上昇が利益を押し下げる要因となります。
上方修正した小野薬品は1670億円で第一三共やアステラスを上回り、営業利益率は塩野義とともに33%台となる予想です。