2022年に起こった製薬業界のできごとを2回にわけて振り返ります。
1回目:揺らぐ医薬品供給の土台…「ドラッグ・ラグ」再燃、長引く供給不足
人材の流動性高まる
MR認定センターが公表した今年の「MR白書」によると、2022年3月末時点の国内のMR数は5万1848人で、1年前から1738人(3.2%)減りました。ここ数年と比べると減り幅は小さくなっているものの、減少は8年連続。ピークだった13年度(14年3月末時点)と比べると、1万4000人近く減りました。国内市場の低成長とスペシャリティ領域へのシフトを背景に、製薬各社は営業部門を中心に人員の適正化を進めています。デジタルなどを活用した効率化も進んでおり、今年のMR白書では全体の0.8%にあたる398人がWebまたは電話のみで活動していることが明らかになり話題となりました。
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今年は外資大手のファイザーやノバルティスが、グローバルの方針に従って人員削減を行うことが報じられました。11月にはヤンセンファーマでもポジションクローズに伴う退職勧奨の動きが明るみになり、波紋を呼びました。
新卒採用を絞る企業も目立っており、MR白書によると新卒採用を行った企業は全体の4割を下回っています。一方、日本市場に新規参入する海外企業や、スペシャリティ領域で新薬を発売する企業は採用に意欲的で、早期退職の影響もあって中途採用の市場は活発化。人材の流動性が高まった1年だったと言えます。
今年の新薬 ピーク時100億超は13品目
今年承認された新薬で注目を集めたのは、1月に承認されたKRAS G12C阻害薬「ルマケラス錠」(アムジェン、対象疾患=非小細胞肺がん)や、3月に承認された抗VEGF/Ang-2バイスペシフィック抗体「バビースモ硝子体内注射液」(中外製薬、加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫)など。中外は同薬の発売で眼科領域に参入しました。
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9月にも、日本イーライリリーの持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注」(2型糖尿病)や、ブリストル・マイヤーズスクイブのTYK2阻害薬「ソーティクツ錠」(乾癬)などが承認を取得。いずれも幅広い疾患への展開が期待される薬剤で、マンジャロは肥満症などの代謝性疾患、ソーティクツは潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患で開発が進んでいます。マンジャロは11月の薬価収載を見送っており、来年の発売が見込まれます。
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売上高予測、最大は「ウィフガート」
今年発売された新薬のうち、ピーク時の売上高予測が100億円を上回ったのは13成分。このうち12成分は外資系企業の製品で、薬価収載された新薬全体でも65%を外資が占めました。
売上高予測が最も大きかったのは、アルジェニクスジャパンの全身型重症筋無力症治療薬「ウィフガート点滴静注」(ピーク時に377億円を予測)。同薬は胎児性Fc受容体を標的とした抗体フラグメント製剤で、同社にとって国内で販売する初の製品となりました。
同薬に次ぐ324億円を予測するのはアッヴィの抗IL-23p19抗体「スキリージ皮下注」。クローン病の適応追加にあわせて新製剤の「オートドーザー」が収載されました。320億円を見込むバビースモを含む3成分が、ピーク時に300億円を超える売上高を予測しています。
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アルツハイマー病 治療に光
このほか、今年注目された話題としては、エーザイと米バイオジェンが共同開発しているアルツハイマー病治療薬レカネマブの治験成功が挙げられます。9月28日、グローバル臨床第3相(P3)試験「Clarity AD」で症状悪化を27%抑制したと発表。エーザイの内藤晴夫CEOは翌日の記者会見で「エーザイはレカネマブを契機として大きく変わると思う」と話しました。
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エーザイは米国で迅速承認を申請しており、年明け1月6日までに米FDA(食品医薬品局)が承認の可否を判断する見通し。来年1月には米国でフル承認に向けた申請を行う予定で、日本と欧州でも22年度中に申請し、23年中の承認取得を目指しています。
「ゾコーバ」承認に社会的関心
新型コロナウイルス感染症では、11月に塩野義製薬の経口抗ウイルス薬「ゾコーバ」が緊急承認を取得。米メルクが世界初の経口抗ウイルス薬「ラゲブリオ」を実用化してからおよそ1年遅れて、日本企業が開発した抗ウイルス薬が使えるようになりました。
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ゾコーバの承認に向けた動きには、業界内外から高い関心が寄せられました。塩野義は2月に行った条件付き早期承認の申請を、改正医薬品医療機器等法の成立を受けて5月に緊急承認の適用希望に切り替え。この時点で明らかになっていたP2/3試験のP2bパートの結果では主要評価項目で有意差が認められておらず、一旦は緊急承認が見送られました。その後、P3パートで症状改善を有意に早めることが確認され、11月の緊急承認にこぎつけました。緊急承認制度の適用は同薬が初の事例となりましたが、そのあり方をめぐっては課題も浮き彫りとなり、厚生労働省は改善に向けた検討を行うことにしています。
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塩野義は11月に新型コロナワクチンの申請も行いました。同社はパンデミックが始まって以来、コロナに研究開発リソースの8割近くを割いており、その成果が形になって表れました。
コロナワクチンでは、第一三共も追加免疫の試験に成功し、来年1月の申請を予定。KMバイオロジクスも23年度の承認を目指しています。
アルツハイマー病や新型コロナ以外の分野では、第一三共の抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」がHER2低発現乳がんの治療を開拓。アステラス製薬も今年、大型化を見込むフェゾリネタントを申請しており、来年初頭には米国で承認の可否が判断される見通しです。