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MR数 5万人割れ目前に…「ゾコーバ」緊急承認に社会的関心|製薬業界 回顧2022(2)

更新日

亀田 真由

2022年に起こった製薬業界のできごとを2回にわけて振り返ります。

1回目:揺らぐ医薬品供給の土台…「ドラッグ・ラグ」再燃、長引く供給不足

 

 

人材の流動性高まる

MR認定センターが公表した今年の「MR白書」によると、2022年3月末時点の国内のMR数は5万1848人で、1年前から1738人(3.2%)減りました。ここ数年と比べると減り幅は小さくなっているものの、減少は8年連続。ピークだった13年度(14年3月末時点)と比べると、1万4000人近く減りました。国内市場の低成長とスペシャリティ領域へのシフトを背景に、製薬各社は営業部門を中心に人員の適正化を進めています。デジタルなどを活用した効率化も進んでおり、今年のMR白書では全体の0.8%にあたる398人がWebまたは電話のみで活動していることが明らかになり話題となりました。

 

【MR数の推移】08年度/5.84|09年度/5.9712|10年度/6.1246|11年度/6.3875|12年度/6.3846|13年度/6.5752/過去最高6万5752人|14年度/6.4657/-1095人|15年度/6.4135/-522人|16年度/6.3185/-950人|17年度/6.2433/-752人|18年度/5.99/-2533人|19年度/5.7158/-2742人|20年度/5.3586/-3572人|21年度/5.1848/5万1848人-1738人|8年で2割減|※MR認定センター「2022年版MR白書」をもとに作成

 

関連記事:MR 削減止まらず…8年で2割減、21年度は1738人減少

 

今年は外資大手のファイザーやノバルティスが、グローバルの方針に従って人員削減を行うことが報じられました。11月にはヤンセンファーマでもポジションクローズに伴う退職勧奨の動きが明るみになり、波紋を呼びました。

 

新卒採用を絞る企業も目立っており、MR白書によると新卒採用を行った企業は全体の4割を下回っています。一方、日本市場に新規参入する海外企業や、スペシャリティ領域で新薬を発売する企業は採用に意欲的で、早期退職の影響もあって中途採用の市場は活発化。人材の流動性が高まった1年だったと言えます。

 

今年の新薬 ピーク時100億超は13品目

今年承認された新薬で注目を集めたのは、1月に承認されたKRAS G12C阻害薬「ルマケラス錠」(アムジェン、対象疾患=非小細胞肺がん)や、3月に承認された抗VEGF/Ang-2バイスペシフィック抗体「バビースモ硝子体内注射液」(中外製薬、加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫)など。中外は同薬の発売で眼科領域に参入しました。

 

関連記事:中外「バビースモ」発売で眼科領域に参入…ロシュのパイプラインにはさらに複数の新薬候補

 

9月にも、日本イーライリリーの持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注」(2型糖尿病)や、ブリストル・マイヤーズスクイブのTYK2阻害薬「ソーティクツ錠」(乾癬)などが承認を取得。いずれも幅広い疾患への展開が期待される薬剤で、マンジャロは肥満症などの代謝性疾患、ソーティクツは潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患で開発が進んでいます。マンジャロは11月の薬価収載を見送っており、来年の発売が見込まれます。

 

関連記事:自己免疫疾患に新規作用機序の「TYK2阻害薬」―ブリストルが乾癬で承認取得、武田は買収で参入

 

売上高予測、最大は「ウィフガート」

今年発売された新薬のうち、ピーク時の売上高予測が100億円を上回ったのは13成分。このうち12成分は外資系企業の製品で、薬価収載された新薬全体でも65%を外資が占めました。

 

売上高予測が最も大きかったのは、アルジェニクスジャパンの全身型重症筋無力症治療薬「ウィフガート点滴静注」(ピーク時に377億円を予測)。同薬は胎児性Fc受容体を標的とした抗体フラグメント製剤で、同社にとって国内で販売する初の製品となりました。

 

同薬に次ぐ324億円を予測するのはアッヴィの抗IL-23p19抗体「スキリージ皮下注」。クローン病の適応追加にあわせて新製剤の「オートドーザー」が収載されました。320億円を見込むバビースモを含む3成分が、ピーク時に300億円を超える売上高を予測しています。

 

【2022年に収載された主な新薬(ピーク時売上高予測100億円以上)】(収載月/製品名社名/適応症/薬効・作用機序/ピーク時売上高予測) 4/ウィフガート点滴静注/全身型重症筋無力症/抗FcRn抗体/フラグメント製剤/377/アルジェニクスジャパン|11/スキリージ皮下注/クローン病/抗IL-23p19抗体/324/アッヴィ|5/バビースモ硝子体内注射液/加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫/抗VEGF/Ang-2抗体/320/中外製薬|5/ケレンディア錠/慢性腎臓病/ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬/264/バイエル薬品|8/ボックスゾゴ皮下注用/軟骨無形成症/C型ナトリウム利尿ペプチド類縁体/232/BioMarin/PharmaceuticalJapan|11/ソーティクツ錠/乾癬/TYK2阻害薬/225/ブリストル・マイヤーズスクイブ/11/オスタバロ皮下注/骨粗鬆症/副甲状腺ホルモン製剤/207/帝人ファーマ/4/リフヌア錠/難治性慢性咳嗽/P2X3受容体拮抗薬/160/MSD|11/テゼスパイア皮下注/気管支喘息/抗TSLP抗体/145/アストラゼネカ|8/ラゲブリオカプセル/SARS-CoV-2感染症/RNAポリメラーゼ阻害薬/138/MSD/4/ピヴラッツ点滴静注液/くも膜下出血術後の脳血管攣縮およびこれに伴う脳梗塞および脳虚血状態の発症抑制/エンドセリン受容体拮抗薬/138/イルドシアファーマシューティカルズジャパン|4/ビンゼレックス皮下注/乾癬/抗IL-17A/IL-17F抗体/120/ユーシービージャパン|11/アムヴトラ皮下注/トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー/TTR産生抑制/117/Alnylam/Japan|※中医協の資料をもとに作成

 

関連記事:今年の薬価収載、ピーク時売り上げ予測100億円超は13成分…全体の4割が希少疾病用医薬品

 

アルツハイマー病 治療に光

このほか、今年注目された話題としては、エーザイと米バイオジェンが共同開発しているアルツハイマー病治療薬レカネマブの治験成功が挙げられます。9月28日、グローバル臨床第3相(P3)試験「Clarity AD」で症状悪化を27%抑制したと発表。エーザイの内藤晴夫CEOは翌日の記者会見で「エーザイはレカネマブを契機として大きく変わると思う」と話しました。

 

関連記事:「エーザイは変わる」アルツハイマー病薬レカネマブ、最終治験成功で内藤CEOは何を語ったか

 

エーザイは米国で迅速承認を申請しており、年明け1月6日までに米FDA(食品医薬品局)が承認の可否を判断する見通し。来年1月には米国でフル承認に向けた申請を行う予定で、日本と欧州でも22年度中に申請し、23年中の承認取得を目指しています。

 

「ゾコーバ」承認に社会的関心

新型コロナウイルス感染症では、11月に塩野義製薬の経口抗ウイルス薬「ゾコーバ」が緊急承認を取得。米メルクが世界初の経口抗ウイルス薬「ラゲブリオ」を実用化してからおよそ1年遅れて、日本企業が開発した抗ウイルス薬が使えるようになりました。

 

関連記事:国内初承認からまもなく1年…コロナ経口抗ウイルス薬のいま

 

ゾコーバの承認に向けた動きには、業界内外から高い関心が寄せられました。塩野義は2月に行った条件付き早期承認の申請を、改正医薬品医療機器等法の成立を受けて5月に緊急承認の適用希望に切り替え。この時点で明らかになっていたP2/3試験のP2bパートの結果では主要評価項目で有意差が認められておらず、一旦は緊急承認が見送られました。その後、P3パートで症状改善を有意に早めることが確認され、11月の緊急承認にこぎつけました。緊急承認制度の適用は同薬が初の事例となりましたが、そのあり方をめぐっては課題も浮き彫りとなり、厚生労働省は改善に向けた検討を行うことにしています。

 

関連記事:ワクチン・治療薬、有効性「推定」で承認可能に…緊急承認制度のポイント

 

塩野義は11月に新型コロナワクチンの申請も行いました。同社はパンデミックが始まって以来、コロナに研究開発リソースの8割近くを割いており、その成果が形になって表れました。

 

コロナワクチンでは、第一三共も追加免疫の試験に成功し、来年1月の申請を予定。KMバイオロジクスも23年度の承認を目指しています。

 

【国内企業が開発する新型コロナワクチン】(社名/種類/開発コード/対象/開発段階)塩野義製薬/組換えタンパクワクチン/S-268019/初回免疫追加免疫/22年11月申請|第一三共/mRNAワクチン/DS-5670/追加免疫/23年1月申請予定|明治HD|KMバイオロジクス/不活化ワクチン/KD-414/初回免疫追加免疫/P3|MeijiSeikaファルマ/レプリコンワクチン(次世代mRNAワクチン)/ARCT-154/追加免疫/P3|※各社のパイプラインやリリースをもとに作成

 

アルツハイマー病や新型コロナ以外の分野では、第一三共の抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」がHER2低発現乳がんの治療を開拓。アステラス製薬も今年、大型化を見込むフェゾリネタントを申請しており、来年初頭には米国で承認の可否が判断される見通しです。

 

 【2022年/製薬業界の主なできごと(7~12月)】7月/日本イーライリリーと田辺三菱製薬がGIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」の販売で提携(7日)。大型化が見込まれる同薬は9月に承認されたが、11月の薬価収載は見送りに/塩野義製薬の新型コロナウイルス治療薬「ゾコーバ」、薬事・食品衛生審議会薬事分科会と医薬品第二部会の合同会議で「有効性が推定できない」として緊急承認を見送り、継続審議に(20日)|8月/住友ファーマと日本イーライリリー、GLP-1受容体作動薬「トルリシティ」の販売提携を年内で終了すると発表(3日)/テラが破産。負債総額1.8億円(5日)/中外製薬、ノイルイミューン・バイオテックとCAR-T細胞療法技術のライセンス契約(22日)。固形がんで開発目指す/武田薬品のデング熱ワクチンがインドネシアで承認(23日)。12月にはEU(欧州連合)でも承認/スイス・ノバルティス、後発品部門のサンドをスピンオフすると発表(25日)。分離上場は23年下半期に完了予定/アストラゼネカの新型コロナウイルス感染症治療薬「エバシェルド」が特例承認(30日)/厚生労働省の「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」(のちに「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」に変更)が初会合(31日)|9月/承認書と異なる方法で医薬品を製造したとして、富山県が辰巳化学に業務改善命令(2日)/アンジェス、新型コロナ向けDNAワクチンの開発を中止すると発表(7日)/参天製薬の谷内樹生社長が突然の辞任。後任に副社長の伊藤毅氏が昇格(12日)/ファイザーとモデルナ、オミクロン株BA.1対応の新型コロナワクチンが承認(12日)/MSDの新型コロナ治療薬「ラゲブリオ」が一般流通を開始(16日)/興和、新型コロナを対象に行ったイベルメクチンのP3試験で主要評価項目を達成できなかったと発表(26日)/エーザイ、アルツハイマー病治療薬レカネマブのP3試験で症状悪化を27%抑制し、主要評価項目を達成したと発表(28日)/塩野義、新型コロナ向け経口抗ウイルス薬「ゾコーバ」のP2/3試験のP3パートで主要評価項目を達成したと発表(28日)/アストラゼネカ製新型コロナワクチン、公的接種での使用を終了(30日)

10月/ファイザーのオミクロン株BA.4/BA.5対応ワクチンが承認(5日)。11月1日にはモデルナのオミクロン株BA.4/5対応ワクチンも承認/帝國製薬、漢方事業から撤退すると発表(11日)。来年6月で製造を終了し、在庫がなくなり次第、販売を中止/富士フイルム富山化学、抗ウイルス薬「アビガン」の新型コロナ向け開発を中止すると発表(14日)/住友ファーマ、米国で販売するCOPD治療薬「ブロバナ」などの販売権をインド・ルピンに売却すると発表(20日)/グラクソ・スミスクライン、承認されれば世界初となるRSウイルスワクチンを日本で申請したと発表(21日)/住友ファーマ、英子会社マイオバントを17億ドルで完全子会社化すると発表(24日)/武田薬品と塩野義製薬、「インチュニブ」などADHD治療薬2剤のライセンス契約を来年3月末で終了すると発表(31日)。4月以降、武田が単独で情報提供|11月/大塚製薬とタカラバイオがTCR-T細胞療法の共同開発・販売に関する提携を終了すると発表(10日)/承認書と異なる方法で医薬品を製造したとして、富山県が廣貫堂に業務停止命令(11日)/日医工が経営再建に向け、ジェイ・ウイル・パートナーズとメディパルHDの支援を受けると発表(14日)。来春に上場廃止となり、田村友一社長は退任する予定。同日発表した22年4~9月期決算で米国事業に絡む多額の減損損失を計上し、9月末時点で356億円の債務超過に/塩野義の「ゾコーバ」が緊急承認(22日)/塩野義が新型コロナワクチンを申請(24日)|12月/後発品の薬価収載。「ネキシウム」「レクサプロ」など5成分に初の後発品(9日)/米アムジェンがアイルランドのホライゾン・セラピューティクスを3.8兆円で買収すると発表(12日)。買収は23年前半に完了する予定/武田薬品工業が米ニンバス・セラピューティクスからTYK2阻害薬候補を最大60億ドルで買収すると発表(13日)/政府が2023年度薬価改定の対象を「平均乖離率(7.0%)の0.625倍(乖離率4.375%)超」とすることを決定。全収載品目の48%で薬価引き下げへ(16日)

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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