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自己免疫疾患に新規作用機序の「TYK2阻害薬」―ブリストルが乾癬で承認取得、武田は買収で参入

更新日

前田雄樹

自己免疫疾患に対する新規作用機序の薬剤として「TYK2阻害薬」が注目されています。今年9月、米ブリストル・マイヤーズスクイブが世界初となるデュークラバシチニブ(製品名・ソーティクツ錠)の承認を日米で取得。12月には武田薬品工業が米社から新薬候補を最大60億ドルで買収すると発表しました。TYK2阻害薬は乾癬や潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデスなど幅広い疾患に適応が広がる可能性があり、大型化が見込まれています。

 

 

JAK阻害せずシグナル伝達遮断

TYK2阻害薬がターゲットとするTYK2(チロシンキナーゼ2)は、JAK(ヤヌスキナーゼ)ファミリー分子の1つ。JAKファミリー分子には、細胞外からの刺激シグナルを細胞内に伝達する働きがあり、自己免疫疾患の病態に関与する炎症性サイトカイン(IL-23、IL-12、I型インターフェロンなど)の受容体に結合して下流にシグナルを伝達する役割を担っています。TYK2阻害薬は、このシグナル伝達を遮断することで炎症を抑える薬剤です。

 

自己免疫疾患の領域では、TYK2とともにJAKファミリーを構成するJAK1、JAK2、JAK3のいずれかまたはすべてを阻害するJAK阻害薬がすでに開発されており、2013~21年にかけて7つの薬剤(うち6剤は経口薬、残る1剤は外用薬)が承認。関節リウマチやアトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎といった疾患の治療に使われています。

 

これらJAK阻害薬の中にはTYK2も阻害するものもありますが、TYK2だけを選択的に阻害する薬剤はこれまで存在しませんでした。JAK阻害薬にはJAKをブロックすることで引き起こされる副作用があり、TYK2阻害薬はJAKを阻害せずに下流のシグナル伝達を遮断する経口投与可能な薬剤として期待されてきました。

 

オテズラ上回る有効性

今年9月、世界初のTYK2阻害薬として日本と米国で承認された乾癬治療薬「ソーティクツ錠」(一般名・デュークラバシチニブ、ブリストル・マイヤーズスクイブ)は、TYK2の機能制御部位であるシュードキナーゼドメインに結合し、分子内相互作用によってキナーゼドメインの構造を変化させることで、ATP(アデノシン三リン酸)の結合を妨げ、TYK2の活性化を阻害(アロステリック阻害)する薬剤。臨床試験では、乾癬治療薬としてすでに承認されている経口PDE4阻害薬「オテズラ」(アプレミラスト、アムジェン)を上回る有効性を示しており、この点が評価され薬価算定では40%の加算(有用性加算I)がつきました。

 

名古屋市立大大学院医学研究科加齢・環境皮膚科学分野の森田明理教授は11月にブリストルが開いたメディア向け説明会で「JAK1/2/3を阻害しないので血球系の副作用が少なく、医師としては比較的安全に使用できる薬剤だ」と指摘。乾癬治療薬として初期に登場したTNFα阻害薬と同程度の有効性が期待できるとし、近年発売された別の作用機序を持つ生物学的製剤には及ばないものの、経口薬という点で大きなベネフィットがあると話しました。

 

武田「大きな収益もたらす可能性」

TYK2阻害薬はその作用機序から乾癬以外の自己免疫疾患にも幅広く使えると期待されており、ブリストルはソーティクツを潰瘍性大腸炎、クローン病、全身性エリテマトーデスといった適応でも開発中。将来的に同薬は年間数十億ドルを売り上げる大型製品になるとみられています。

 

【TYK2阻害薬の開発状況】<適応/開発段階/P1/P2/P3/申請/承認/<「ソーティクツ」(デュークラバシチニブ)|米ブリストル>尋常性乾癬/膿疱性乾癬/乾癬性紅皮症/関節症性乾癬/クローン病/潰瘍性大腸炎/全身性エリテマトーデス<「NDI-034858」|米ニンバス(武田薬品が取得予定)>尋常性乾癬/乾癬性関節炎<brepocitinib|米プリオバント>皮膚筋炎/全身性エリテマトーデス/化膿性汗腺炎/非感染性ぶどう膜炎<ESK-001|米アルミス>尋常性乾癬<VTX958|米ベンティックス>尋常性乾癬<GLPG3667|ベルギー・ガラパゴス>皮膚筋炎/全身性エリテマトーデス

 

ソーティクツを追いかける薬剤の開発も活発です。

 

武田薬品工業は今月13日、米創薬ベンチャーのニンバス・セラピューティクスからTYK2に対するアロステリック阻害薬「NDI-034858」を最大60億ドルで取得すると発表しました。同薬は先月、尋常性乾癬を対象に行った後期臨床第2相(P2b)試験で良好なトップライン結果を発表。乾癬の適応では来年、P3試験に入り、25~27年度の申請を見込んでいます。

 

NDI-034858は関節症性乾癬の適応でもP2b試験が進行中。武田は、注力する炎症性腸疾患を含むほかの自己免疫疾患でも開発を進める方針です。

 

ベストインクラス目指し競争激化

同社のクリストフ・ウェバー社長は14日に開いた投資家向け説明会で「NDI-034858は幅広い適応で大きな収益をもたらす可能性があり、(主力製品である潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬)エンティビオに続く成長戦略を強化することができる」と強調。契約では、武田は一時金として40億ドルを支払い、同薬の年間売上高が40億ドルと50億ドルに達した時点でそれぞれ10億ドルを支払うことになっており、そのマイルストン設定からも期待の高さがうかがえます。

 

ブリストルやニンバスのほかにも、米ファイザーと英ロイバント・サイエンシズが出資する米プリオバント・セラピューティクス、JAK阻害薬「ジセレカ」を創製したベルギーのガラパゴス、バイオベンチャーの米アルミスや米ベンティックス・バイオサイエンシズなどがTYK2阻害薬の開発を行っています。

 

プリオバントはJAK1/TYK2阻害薬brepocitinibとTYK2阻害薬ropsacitinibの2つの新薬候補を持っており、リードプログラムのbrepocitinibは皮膚筋炎でP3試験を実施中。アルミスの「ESK-001」やベンティックスの「VTX958」も尋常性乾癬の適応でP2試験に入っており、ベストインクラスを狙った開発競争は激しさを増しそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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