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「エーザイは変わる」アルツハイマー病薬レカネマブ、最終治験成功で内藤CEOは何を語ったか

更新日

前田雄樹

(写真:ロイター)

 

9月28日、アルツハイマー病治療薬レカネマブの臨床第3相(P3)試験で臨床症状の悪化を抑制し、主要評価項目を達成したことを発表したエーザイ。同日、メディア・投資家向けの説明会を開き、内藤晴夫CEO(最高経営責任者)が試験結果のもたらす意義や同薬の今後の見通しについて語りました。

 

 

社会的インパクト非常に大きい

「エーザイはレカネマブを契機として大きく変わると思う。もちろん、財務的に大きく貢献する製品になることは間違いないが、社会的インパクトが非常に大きい。患者家族が介護に費やす費用は膨大で、それによる雇用機会の損失も深刻だ。レカネマブはそこに貢献できるし、社会における生産性の回復や、治療可能になることによる憂慮の解消といったところも大きなものがある。いわゆるパブリックベネフィットを追求する企業として、そうした面でも大きな変化がもたらされると考えている」

 

エーザイの内藤晴夫CEOは9月28日、アルツハイマー病治療薬として開発している抗アミロイドβプロトフィブリル抗体レカネマブのP3試験結果を受けた説明会で、同薬が同社にもたらす影響についてこう話しました。

 

レカネマブのP3試験結果について説明するエーザイの内藤CEO

 

エーザイが同日発表したレカネマブのグローバルP3試験「Clarity AD」のトップライン結果によると、主要評価項目の「投与18カ月時点のCDR-SBスコア(記憶、見当識、判断力、問題解決、地域社会活動、家庭・趣味、身の回りの世話の6項目で認知症の重症度を評価する指標)の平均変化量」で27%の悪化抑制を示しました(p=0.00005)。

 

重要な副次評価項目である▽PET測定による脳内アミロイド蓄積▽ADAS-cog14(アルツハイマー病を対象とした臨床試験でグローバルに最も広く用いられている評価法)▽ADCOMS(複数の臨床評価指標を組み合わせてエーザイが開発した指標)▽ADCS MCI-ADL(軽度認知障害患者の日常生活動作を評価する指標)――でもプラセボと比較して統計学的に有意な結果(p<0.01)が示されたといいます。

 

関連記事: エーザイ・バイオジェン レカネマブ最終治験で「勝利」症状悪化27%抑制

 

主要評価項目の結果について内藤氏は「クリニカルにミーニングフルな結果であったと考えている」と強調。CDR-SBの悪化抑制効果は投与開始6カ月後の早い段階から発現しており、同指標で見た効果は経時的に拡大していることから「疾患修飾作用が示されている」と話しました。副次評価項目では特に、日常生活動作を介護者や家族が評価するADCS MCI-ADLで「強力な抑制が確認されている」とし、「このことは、当事者や介護者のQOLを大きく改善する可能性を示唆している」と期待しました。

 

総力挙げ取り組むトッププロダクト

レカネマブは、スウェーデンのバイオアークティックとエーザイの共同研究から得られた抗体医薬です。両社はアルツハイマー病治療薬の開発・商業化で2005年から協力関係にあり、レカネマブについては07年のライセンス契約でエーザイが全世界を対象に研究・開発・製造・販売する権利を取得。P1試験が始まったのは2010年10月で、そこからおよそ12年で承認目前までこぎつけました。

 

 

エーザイはレカネマブの迅速承認を求めて米国で申請中。FDA(食品医薬品局)による審査終了目標日は来年1月6日に設定されています。今回のP3試験結果をもとに、米国では22年度中にフル申請を、日本と欧州でも同じタイミングで承認申請を行う方針で、23年中の承認取得(米国はフル承認の取得)を目指しています。

 

承認後の展開について内藤氏は「言うまでもなく、認知症はエーザイのトッププライオリティの領域。レカネマブは総力を挙げて取り組むトッププロダクトだ」と強調。「現在(エーザイが)展開している国々で可能な限りアクセスを達成したい」と話しました。具体的な売り上げの見通しについては「価格と対象患者を規定しなければ売り上げは出てこない。価格についてはさまざまな側面から慎重に検討していかなければならない」と述べるにとどめました。

 

エーザイとパートナーの米バイオジェンは昨年6月、米国で抗アミロイドβ抗体「アデュヘルム」(一般名・アデュカヌマブ)の承認を取得し、販売を開始しましたが、2本のP3試験で結果が一貫しない中での承認は物議を醸し、普及は進んでいません。エーザイは今年3月、バイオジェンとの提携を見直し、アデュヘルムの開発・販売から手を引きました。

 

関連記事:【アルツハイマー】「アデュヘルム」しぼむ期待…エーザイ、レカネマブに軸足

 

内藤CEOはアデュヘルムから得た教訓について「キーワードは透明性。データの公開と公正性の証明ということになると思う。11月のCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)でかなり詳しいデータを公開するし、査読付きの雑誌に論文を投稿する。(アデュヘルムのように)パブリケーションが遅れることはないと考えており、透明性を確保して物事を進めていく」と話しました。

 

アリセプトから20年以上「忸怩たる思いある」

1996年にコリンエステラーゼ阻害薬「アリセプト」(ドネペジル)を米国で発売し、以来、認知症領域のパイオニアを自負していきたエーザイ。内藤氏は「アリセプトは100カ国で承認を受け、アルツハイマー病治療の扉を開いた。そこからレカネマブまで20年以上かかってしまったということで、忸怩たる思いでいっぱいだというところもある」と心情を吐露。一方で「今回のようなロバストな結果を出すまでに、さまざまな失敗から学ぶことを繰り返してきた。大きな教訓を得ているので、レカネマブに続く薬剤は20年以上かかることがないよう努力を重ねていきたい」と述べました。

 

エーザイは現在、レカネマブに続くアルツハイマー病治療薬として、抗MTBR(微小管結合領域)抗体「E2814」や、シナプスの再形成に焦点を当てた「E2511」などを開発しています。Clarity ADの成功は「いわゆるアミロイドβプロテイノパチーの治療可能性があることを世に示すことになるが、同じように異常タンパク質の蓄積が病因と考えられているタウオパチーや、パーキンソン病などのシヌクレイノパチーの治療薬にも明るい展望が開ける」とし、「安価な診断技術の開発にもさらなる活力を与える」と期待しました。

 

今回の試験結果について内藤氏は「大きなマイルストーンをクリアした」としながら、「これで我々の仕事が終わったわけではない」と強調。承認取得やアクセスの確保に全力で取り組むと語りました。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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