
報道各社のグループインタビューに応じた日本製薬工業協会の宮柱明日香会長
日本製薬工業協会(製薬協)の会長に武田薬品工業ジャパンファーマビジネスユニットプレジデントの宮柱明日香氏が就任し、最年少かつ女性初の会長として注目されています。ドラッグ・ラグ/ロス、創薬力低下、薬価制度改革への対応など山積する課題にどう向き合うのか。報道各社とのグループインタビューでの発言を、テーマごとに整理しました。
言うべきこと、やるべきこと変わらない
【最年少・女性初の会長就任について】
製薬協での活動だけでなく、自らのキャリアやDE&I(多様性・公平性・包摂性)を考えても、日本は「女性初」というキーワードが付かないような社会をつくらなければならない。(ステークホルダーとの交渉については)議論の場を持たせてほしいし、官民協議会も含めて製薬協の役割や(自身がテーマに掲げる)共創について発信していきたい。言うべきこと、やるべきことは変わらない。
【活動テーマに掲げる「共創」について】
前会長時代から重要性は指摘されてきた。あるべき姿に対して共感を持つというのが大事な前提。その上で、各ステークホルダーが役割を明確にして共通課題の解決に取り組みたい。従来の流れを引き継ぎながら次へとつなぐ中で、「創薬」「生産」「制度」「医療DX」の各テーマで共創を実現したい。
【社会保障費のシーリングと薬価改定財源について】
あるべき姿として省庁の枠を超えた財源の割り振りを検討してはどうか。財政の逼迫は理解しており、メリハリのきいた薬価制度が求められる。どこに再投資・再配分すべきかをぜひ議論したい。薬剤費上昇による患者負担の増加については、1つ1つのパーツではなく大きな枠組みでとらえるべき。国民皆保険制度やフリーアクセスを含め、どうすれば持続可能な医療モデルになるか、国民を巻き込んで議論すべきだ。
薬価制度改革、いかに早く薬を届けるかにこだわる
【2026年度薬価制度改革について】
ドラッグラグ・ロス問題を踏まえ、いかに速やかに患者に医薬品を届けるかにこだわりたい。今の薬価制度は、臨床的効果以外に革新的新薬の価値を測れる仕組みになっていない。より分かりやすく価値を評価できる制度が必要だ。費用対効果評価の対象品目や価格調整範囲の拡大、保険償還の可否の判断への導入には、予見性の面からも断固反対。分析に使用されるのは本当のリアルワールドデータではなく、そこにも疑問を持っている。費用対効果評価は資源配分という点では重要だが、現在の仕組みのまま拡大すべきではない。
【高額医薬品による患者負担の増加について】
新規モダリティの台頭などを背景に研究開発費は高騰している。国民には、高度な技術を使った新薬が高額になることを理解してほしい。ただ、経済的な理由で治療が継続できないのは問題。高額療養費制度の見直しは、患者の安心や公平性が損なわれないよう、制度全体を見た上で丁寧な議論が必要だ。
【イノベーション評価に対する国民の理解促進について】
薬価制度は複雑で難しい。薬が患者に届く仕組みなど、分かりやすい情報を発信することも1つの手段だ。一般への情報提供に対しては規制が厳しい業界ではあるが、国民を巻き込んだ共創が必要だと主張する以上、可能な限り発信していきたい。
産学連携、実用化ノウハウ提供で貢献
【創薬における産学連携の課題と解決策について】
市場ニーズの視点が不足している。アカデミアと産業界のつながりが強いとは言いがたく、改善の余地がある。産業界には研究開発から製造まで国内外の経験があり、実用化に向けた(ノウハウの)インプットには貢献できる。AMED(日本医療研究開発機構)とは、アカデミアのシーズを実用化するにあってのギャップがどこにあるか確認する取り組みがスタートしている。人事交流の促進やノウハウの共有も創薬エコシステムを構築していく上で重要だ。
【医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進について】
これまでも製薬協で議論はされてきたが、あらためて見返してみると各論に終始している。全体像として、われわれが医療DXによって見いだす価値は何なのか、特に国民や患者がどのような姿になっていくのかという点が不明瞭だ。製薬企業の集団として目指す姿を検討するタスクフォースを立ち上げる。現在は研究開発・製造部門や医療関係者・患者に近い事業部門でAIの導入が見られるが、米国と比較すると後れを取っているのが現状。ステークホルダーとも協力し、どんな価値を生み出せるか考えたい。