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“億超え”新薬「ゾルゲンスマ」発売、治療用アプリが初の保険適用|製薬業界 回顧2020(2)

更新日

治療用アプリとして国内初の承認を取得した「CureApp SC」。新型コロナウイルスの感染拡大も背景に、デジタル化の機運が高まった

 

新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界が劇的に変化した2020年。製薬業界のできごとを、2回に分けて振り返ります。

 

先駆け品目 続々承認

国内では今年も、新規作用機序を持つ新薬が数多く承認されました。

 

特に話題となったのが、3月に承認されたノバルティスファーマの脊髄性筋萎縮症向け遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」(一般名・オナセムノゲン アベパルボベク)。5月、1患者あたり約1億6700万円という国内最高額で保険適用され、日本初の「億超え」新薬が誕生しました。

 

同薬は先駆け審査指定制度の対象品目。先駆け品目では今年、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使うステラファーマのホウ素薬剤「ステボロニン」(ボロファラン〈10B〉)や、国産初の核酸医薬となる日本新薬の「ビルテプソ」(ビルトラルセン)、メルクバイオファーマのMET阻害薬「テプミトコ」(テポチニブ)なども承認されました。

 

9月には楽天メディカルが光免疫療法「アキャルックス」(セツキシマブ サロタロカンナトリウム)の承認を取得。同薬は11月に250mg50mL 1瓶約102万円で薬価収載され、発売に向けて準備が進められています。

 

【2020年に承認された先駆け審査指定制度の対象品目】(*は適応拡大)(製品名(一般名)/社名/適応/作用機序モダリティ/薬価(市場規模予測)): ゾルゲンスマ(オナセムノゲン アベパルボベク)/ノバルティス/脊髄性筋萎縮症/SMN遺伝子治療薬/1億6708万円(42億円) |ステボロニン(ボロファラン(10B))/ステラファーマ/頭頸部がん/ホウ素中性子捕捉療法/44万4215円(29億円) |ビルテプソ(ビルトラルセン)/日本新薬/デュシェンヌ型筋ジストロフィー/アンチセンス核酸医薬/9万1136円(54億円) テプミトコ(テポチニブ)/メルクバイオ/MET遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん/MET阻害薬/1万4399円(25億円) |アキャルックス(セツキシマブ サロ)タロカンナトリウム/楽天メディカル/頭頸部がん/光免疫療法/102万6825円(38億円) |エンハーツ*(トラスツズマブ デルクステカン)/第一三共/HER2陽性胃がん/抗HER2抗体薬物複合体/16万5074円(―) |※各社の発表資料、中医協の資料などをもとに作成

 

先駆け審査指定制度は、今年9月施行の改正医薬品医療機器等法で法律に基づく制度として位置付けられた一方、ゾルゲンスマの審査では企業側の不適切な対応により、承認まで1年4カ月もの時間を要し、制度の見直しを求める声も上がりました。

 

この問題を受け、厚生労働省は、国内承認時点で海外が先行した場合や、企業側の理由(照会への不十分な対応や申請資料の瑕疵など)で承認が大幅に遅れた場合にも指定を取り消せるよう、要件を厳格化しました。

 

ピーク時100億円超は16新薬

今年発売された新薬のうち、ピーク時に100億円を超える売り上げを予測しているのは16成分。

 

中でも294億円と大型化を見込むのは、5月に発売されたノバルティスの加齢黄斑変性治療薬「ベオビュ」(ブロルシズマブ)。同薬は国内で4剤目となる眼科用VEGF阻害薬で、維持期には同「アイリーア」(バイエル薬品/参天製薬)よりも投与間隔が長いことから患者負担の軽減が期待されています。さらに今年9月には、千寿製薬が同「ルセンティス」(ノバルティス)のバイオシミラーを申請。アイリーアの独走状態だった市場も混戦模様となってきました。

 

関節リウマチでは、アッヴィの「リンヴォック」(ウパダシチニブ)とギリアドの「ジセレカ」(フィルゴチニブ)の2つの経口JAK阻害薬が承認。いずれもピーク時に250億円超を見込みます。JAK阻害薬ではこのほか、日本たばこ産業が世界初の外用剤となる「コレクチム」(デルゴシチニブ)をアトピー性皮膚炎治療薬として6月に発売しました。

 

【2020年に発売された新薬】(ピーク時売上高予測100億円超)(製品名( 一般名)/社名/適応/作用機序): <4月発売> リンヴォック(ウパダシチニブ)/アッヴィ/関節リウマチ/JAK阻害薬 |ノクサフィル(ポサコナゾール)/MSD/深在性真菌症の予防、真菌症/抗真菌作用 <5月発売> ロケルマ(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)/アストラゼネカ/高カリウム血症/非ポリマー無機陽イオン交換化合物 |キャブピリン(アスピリン/ボノプラザン)/武田薬品工業/血栓・塞栓形成の抑制/低用量アスピリンとP-CABの配合剤 |カボメティクス(カボザンチニブ)/武田薬品工業/腎細胞がん、肝細胞がん/マルチキナーゼ阻害薬 |ベオビュ(ブロルシズマブ)/ノバルティス/加齢黄斑変性/眼科用VEGF阻害薬 |ニュベクオ(ダロルタミド)/バイエル薬品/去勢抵抗性前立腺がん/(アンドロゲン受容体阻害薬) |エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)/第一三共/HER2陽性 乳がん/胃がん/抗HER2抗体薬物複合体 <6月発売> オゼンピック(セマグルチド)/ノボ ノルディスク/2型糖尿病/GLP-1受容体作動薬 <7月発売> デエビゴ(レンボレキサント)/エーザイ/不眠症/オレキシン1/2受容体拮抗薬 <8月発売> エンレスト(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)/ノバルティス/慢性心不全/アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬 |エナジア(インダカテロール/グリコピロニウム/モメタゾン)/ノバルティス/気管支炎喘息/LABA/LAMA/ICS固定用量配合剤 |バフセオ(バダデュスタット)/田辺三菱製薬/腎性貧血/HIF-PH阻害薬 |ダーブロック(ダプロデュスタット)/GSK(販売は協和キリン)/腎性貧血/HIF-PH阻害薬 <11月発売> ジセレカ(フィルゴチニブ)/ギリアド(販売はエーザイ)/関節リウマチ/JAK阻害薬 |ゼジューラ(ニラパリブ)/武田薬品工業/卵巣がん/PARP阻害薬 |※各社の発表資料、添付文書などをもとに作成

 

今年、新薬ラッシュとなったノバルティスは、6月に5製品の承認を同時に取得し、このうち4製品を8月に同日発売。気管支喘息治療薬の3剤配合剤「エナジア」(インダカテロール/グリコピロニウム/モメタゾン)と、慢性心不全治療薬「エンレスト」(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)は大型化を見込んでいます。

 

がん領域では、第一三共が抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」(トラスツズマブ デルクステカン)を日本と米国でHER2陽性乳がん治療薬として発売。日本では9月、先駆け対象のHER2陽性胃がんに適応拡大しました。武田薬品工業は、腎細胞がん/肝細胞がん治療薬「カボメティクス」(カボザンチニブ)と卵巣がん治療薬「ゼジューラ」(ニラパリブ)を発売。いずれも100億円を超える売り上げを予測しています。

 

「リリカ」「エディロール」などに後発品

今年はまた、年間売上高500億円を超える▽ファイザーの疼痛治療薬「リリカ」▽中外製薬/大正製薬の骨粗鬆症治療薬「エディロール」▽第一三共のアルツハイマー型認知症治療薬「メマリー」――に初の後発医薬品が登場。アッヴィ/エーザイの抗TNFα抗体「ヒュミラ」にも、国内初のバイオシミラー(協和キリン富士フイルムバイオロジクス)が承認されました。

 

11月に22社80品目の後発品が収載されたリリカをめぐっては、ファイザーが特許侵害訴訟やオーソライズド・ジェネリック(AG)の投入で対抗。中外製薬も、エディロール後発品の承認を取得した2社と原薬製造元を提訴しており、今年も大型市場をめぐって激しい攻防が繰り広げられました。

 

国内初、治療用アプリが保険適用

近年注目を集めるデジタルセラピューティクス(DTx)の分野でも、今年は大きな進展がありました。

 

12月1日、CureAppの禁煙治療用アプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリおよびCOチェッカー」が、治療用アプリとして国内で初めて保険適用されました。保険点数は計2540点(2万5400円)。同社の佐竹晃太CEOは「最初の風穴を空けたという点で意義深い」と話しました。

 

DTxをめぐっては今年、大日本住友製薬(SaneMedicalと提携)やテルモ(MICINと提携)、田辺三菱製薬、第一三共(CureAppと提携)が参入を表明。開発の動きが活発化する一方、診療報酬上の評価は確立されておらず、普及に向けた環境整備が求められます。

 

コロナ禍で急速に普及したオンライン診療を、患者支援に活用しようとする製薬企業の動きも目立ちました。オンライン診療は今年4月、新型コロナウイルスの感染拡大への時限的な対応として、初診を含めて全面的に解禁。政府内では現在、「恒久化」に向けた検討が進められています。

 

武田薬品工業は、パーキンソン病患者を対象に、ウェアラブル端末とオンライン診療を組み合わせた治療支援の臨床研究を開始。アムジェンやアストラゼネカ、グラクソ・スミスクライン(GSK)、アミカスなども、慢性疾患患者の治療支援にオンライン診療を活用できるか、検証を始めています。

 

※※※

 

コロナ禍の真っ只中で迎える2021年は、初の「中間年改定」によって国内市場が大きな打撃を受ける見込み。収益性の低下は避けられず、後発品企業では集約化の動きが出てくるかもしれません。感染拡大の収束が見通せぬ中、国内でも春ごろに接種が始まるワクチンに期待がかかります。

 

【2020年製薬業界の主なできごと(7~12月)】 <7月> 国内外の製薬大手が、抗菌薬の開発を支援する「AMRアクションファンド」を設立。日本からは武田薬品工業、第一三共、中外製薬、エーザイ、塩野義製薬が参画(10日) |MSDの9価HPVワクチン「シルガード9」が申請から5年越しに承認(21日) |日本ケミファが希望退職の募集を発表(22日)。9月18日には42人が応募したと発表 |第一三共が抗TROP2/ADC「DS-1062」の開発・商業化で英アストラゼネカと提携。第一三共の受け取る対価は最大60億ドル(27日) |共和クリティケアが環境モニタリングに不備があったとしてソフトバッグ製剤の自主回収を発表(28日)。9月には製造において不適正行為があったとする調査結果を公表 |日医工、武田テバの後発品事業の一部と高山工場を買収すると発表(30日) |米ファイザー、新型コロナワクチン1億2000万回分を供給することで日本政府と合意(31日) <8月> アストラゼネカ、新型コロナワクチン1億2000分回分を供給することで日本政府と合意(7日)。12月11日に正式契約 |武田、米ノババックスの新型コロナワクチンを日本で供給すると発表(7日)。10月29日には米モデルナのワクチンも供給すると発表 |ロシア政府、国立ガマレヤ研究所の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」を承認したと発表(11日) |武田が国内ビジネス部門を対象に希望退職を募集すると発表(17日) |米J&J、自己免疫疾患領域を手掛ける米モメンタを約65億ドルで買収すると発表(19日) |CureAppの禁煙治療アプリが承認(21日)。12月1日に保険適用 |武田、OTC子会社の武田コンシューマーヘルスケアを米投資ファンドのブラックストーンに売却すると発表(24日) <9月> 改正薬機法が施行。先駆け審査指定制度が法制化され、医薬品等行政評価・監視委員会が発足(1日) |米ギリアド、米イミュノメディクスを約210億ドルで買収すると発表(13日)。買収は10月23日に完了 |武田、手術用パッチ剤「Tachosil」を米コルザ・ヘルスに約430億円で売却すると発表(16日) |参天が米アイバンスを約236億円で買収したと発表(17日) |楽天メディカルの光免疫療法「アキャルックス」が承認(25日) <10月> 大日本住友が住友化学と合弁会社を設立し、再生・細胞医療のCDMO事業に参入したと発表(8日) |エーザイ、中国の京東健康と認知症患者向けサービスを展開する合弁会社を設立したと発表(27日) |メディパルHD子会社3社が希望退職の募集を発表(30日) |アステラスが体内埋込み型医療機器を開発する米アイオタを約134億円で買収(30日) <11月>米FDAの諮問委員会が、米バイオジェンとエーザイのアルツハイマー病治療薬アデュカヌマブの承認に否定的な見解(7日)。12月10日には日本でも申請 |大日本住友がユーロバント・サイエンシズを約222億円で完全会社化すると発表(13日) |米ファイザーの特許切れ薬事業、米マイランとの統合完了(16日)。新会社ヴィアトリスが発足し、日本でもアップジョン事業部門などがヴィアトリスグループとして事業開始 |アステラスがクロストリジウム・ディフィシル感染症治療薬「ディフィクリア」を欧州などでゼリア新薬工業子会社に譲渡すると発表。譲渡額は約134億円(27日) 12月/米ファイザー/独ビオンテックの新型コロナワクチンが英国で緊急使用許可を取得(2日)。11日には米FDAも緊急使用許可。FDAは米モデルナのワクチンにも18日に緊急使用許可を出した |小林化工、経口真菌薬「イトラコナゾール『KEEK』」の一部ロットにベンゾジアゼピン系睡眠薬が大量に混入していたとして自主回収を開始(4日)。服用による健康被害は12月22日午前0時時点で158人に上り、患者2人が死亡 |地域医療機能推進機構発注の医薬品入札をめぐる談合事件で、アルフレッサ、スズケン、東邦薬品の3社と担当者ら7人が独占禁止法違反の罪で在宅起訴(9日) |英アストラゼネカが米アレクシオンを約390億ドルで買収すると発表(12日) |政府、初の「中間年改定」となる21年度薬価改定の対象を「乖離率5%超」の1万2180品目とすることを決定。医療費削減額は4300億円(17日/) |ファイザーが新型コロナウイルスワクチンを日本で申請(18日)。来春にも国内で接種が始まる見通しに |厚労省の審議会が、「アビガン」の新型コロナウイルス感染症への適応拡大を継続審議とし、承認は見送りに(21日)

 

(亀田真由)

製薬業界 回顧2020(1)はこちら

 

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