治療用アプリとして国内初の承認を取得した「CureApp SC」。新型コロナウイルスの感染拡大も背景に、デジタル化の機運が高まった
新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界が劇的に変化した2020年。製薬業界のできごとを、2回に分けて振り返ります。
先駆け品目 続々承認
国内では今年も、新規作用機序を持つ新薬が数多く承認されました。
特に話題となったのが、3月に承認されたノバルティスファーマの脊髄性筋萎縮症向け遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」(一般名・オナセムノゲン アベパルボベク)。5月、1患者あたり約1億6700万円という国内最高額で保険適用され、日本初の「億超え」新薬が誕生しました。
同薬は先駆け審査指定制度の対象品目。先駆け品目では今年、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使うステラファーマのホウ素薬剤「ステボロニン」(ボロファラン〈10B〉)や、国産初の核酸医薬となる日本新薬の「ビルテプソ」(ビルトラルセン)、メルクバイオファーマのMET阻害薬「テプミトコ」(テポチニブ)なども承認されました。
9月には楽天メディカルが光免疫療法「アキャルックス」(セツキシマブ サロタロカンナトリウム)の承認を取得。同薬は11月に250mg50mL 1瓶約102万円で薬価収載され、発売に向けて準備が進められています。
先駆け審査指定制度は、今年9月施行の改正医薬品医療機器等法で法律に基づく制度として位置付けられた一方、ゾルゲンスマの審査では企業側の不適切な対応により、承認まで1年4カ月もの時間を要し、制度の見直しを求める声も上がりました。
この問題を受け、厚生労働省は、国内承認時点で海外が先行した場合や、企業側の理由(照会への不十分な対応や申請資料の瑕疵など)で承認が大幅に遅れた場合にも指定を取り消せるよう、要件を厳格化しました。
ピーク時100億円超は16新薬
今年発売された新薬のうち、ピーク時に100億円を超える売り上げを予測しているのは16成分。
中でも294億円と大型化を見込むのは、5月に発売されたノバルティスの加齢黄斑変性治療薬「ベオビュ」(ブロルシズマブ)。同薬は国内で4剤目となる眼科用VEGF阻害薬で、維持期には同「アイリーア」(バイエル薬品/参天製薬)よりも投与間隔が長いことから患者負担の軽減が期待されています。さらに今年9月には、千寿製薬が同「ルセンティス」(ノバルティス)のバイオシミラーを申請。アイリーアの独走状態だった市場も混戦模様となってきました。
関節リウマチでは、アッヴィの「リンヴォック」(ウパダシチニブ)とギリアドの「ジセレカ」(フィルゴチニブ)の2つの経口JAK阻害薬が承認。いずれもピーク時に250億円超を見込みます。JAK阻害薬ではこのほか、日本たばこ産業が世界初の外用剤となる「コレクチム」(デルゴシチニブ)をアトピー性皮膚炎治療薬として6月に発売しました。
今年、新薬ラッシュとなったノバルティスは、6月に5製品の承認を同時に取得し、このうち4製品を8月に同日発売。気管支喘息治療薬の3剤配合剤「エナジア」(インダカテロール/グリコピロニウム/モメタゾン)と、慢性心不全治療薬「エンレスト」(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)は大型化を見込んでいます。
がん領域では、第一三共が抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」(トラスツズマブ デルクステカン)を日本と米国でHER2陽性乳がん治療薬として発売。日本では9月、先駆け対象のHER2陽性胃がんに適応拡大しました。武田薬品工業は、腎細胞がん/肝細胞がん治療薬「カボメティクス」(カボザンチニブ)と卵巣がん治療薬「ゼジューラ」(ニラパリブ)を発売。いずれも100億円を超える売り上げを予測しています。
「リリカ」「エディロール」などに後発品
今年はまた、年間売上高500億円を超える▽ファイザーの疼痛治療薬「リリカ」▽中外製薬/大正製薬の骨粗鬆症治療薬「エディロール」▽第一三共のアルツハイマー型認知症治療薬「メマリー」――に初の後発医薬品が登場。アッヴィ/エーザイの抗TNFα抗体「ヒュミラ」にも、国内初のバイオシミラー(協和キリン富士フイルムバイオロジクス)が承認されました。
11月に22社80品目の後発品が収載されたリリカをめぐっては、ファイザーが特許侵害訴訟やオーソライズド・ジェネリック(AG)の投入で対抗。中外製薬も、エディロール後発品の承認を取得した2社と原薬製造元を提訴しており、今年も大型市場をめぐって激しい攻防が繰り広げられました。
国内初、治療用アプリが保険適用
近年注目を集めるデジタルセラピューティクス(DTx)の分野でも、今年は大きな進展がありました。
12月1日、CureAppの禁煙治療用アプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリおよびCOチェッカー」が、治療用アプリとして国内で初めて保険適用されました。保険点数は計2540点(2万5400円)。同社の佐竹晃太CEOは「最初の風穴を空けたという点で意義深い」と話しました。
DTxをめぐっては今年、大日本住友製薬(SaneMedicalと提携)やテルモ(MICINと提携)、田辺三菱製薬、第一三共(CureAppと提携)が参入を表明。開発の動きが活発化する一方、診療報酬上の評価は確立されておらず、普及に向けた環境整備が求められます。
コロナ禍で急速に普及したオンライン診療を、患者支援に活用しようとする製薬企業の動きも目立ちました。オンライン診療は今年4月、新型コロナウイルスの感染拡大への時限的な対応として、初診を含めて全面的に解禁。政府内では現在、「恒久化」に向けた検討が進められています。
武田薬品工業は、パーキンソン病患者を対象に、ウェアラブル端末とオンライン診療を組み合わせた治療支援の臨床研究を開始。アムジェンやアストラゼネカ、グラクソ・スミスクライン(GSK)、アミカスなども、慢性疾患患者の治療支援にオンライン診療を活用できるか、検証を始めています。
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コロナ禍の真っ只中で迎える2021年は、初の「中間年改定」によって国内市場が大きな打撃を受ける見込み。収益性の低下は避けられず、後発品企業では集約化の動きが出てくるかもしれません。感染拡大の収束が見通せぬ中、国内でも春ごろに接種が始まるワクチンに期待がかかります。
(亀田真由)
製薬業界 回顧2020(1)はこちら
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