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合格点はアステラスだけ?!国内製薬業界 再編10年の通信簿

更新日

2005年から08年にかけて大型合併が相次いだ日本の製薬業界。今月、一連の再編で最後に誕生した協和発酵キリンが、合併から10年の節目を迎えました。合併が必ずしも成果を挙げたとは言えない状況の中、一段と厳しさを増す事業環境を背景に、再編は第二幕に突入する可能性があります。

 

売上高6割増のアステラス 営業利益減らした第一三共

国内製薬業界では、2005年4月に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併してアステラス製薬が誕生したのを皮切りに、同年9月には三共と第一製薬(第一三共)、10月には大日本製薬と住友製薬(大日本住友製薬)と、大型の合併が相次ぎました。その後も、07年10月に田辺製薬と三菱ウェルファーマ(田辺三菱製薬)、08年10月に協和発酵工業とキリンファーマ(協和発酵キリン)が合併。今月、一連の再編は10年の節目を迎えました。

 

2005~08年の国内製薬業界の再編の表。2005年4月:アステラス製薬(山之内製薬・藤沢薬品工業)。2005年9月:第一三共(三共・第一製薬)※2005年9月に共同持株会社を設立・2007年10月に経営統合。2005年10月:大日本住友製薬(大日本製薬・住友製薬)。2005年10月:あすか製薬(定刻臓器製薬・グレラン製薬)。2007年10月:田辺三菱製薬(田辺製薬・三菱ウェルファーマ)。2008年10月:協和発酵キリン(協和発酵工業・キリンファーマ)。

 

この間、合併によって誕生した各社の業績はどう変化したのか。合併直前と合併10年後の数値を比べて見ると、やはりアステラス製薬の成長が際立ちます。

 

合併10年後にあたる15年度のアステラスの売上高は1兆3727億円、営業利益は2490億円で、合併直前の04年度(旧2社の単純合算)からそれぞれ1.6倍、1.3倍に拡大しました。

 

アステラスは合併翌年の06年に一般用医薬品(OTC)事業子会社ゼファーマを第一三共に売却。その後は医療用の新薬に経営資源を集中的に投入し、10年には米OSIファーマシューティカルズを買収するなど、特にがん領域の強化を狙った買収や製品導入を進めてきました。

 

その結果、米社から導入した前立腺がん治療薬「イクスタンジ」は、17年度に世界で2943億円を売り上げるブロックバスターに成長。自社創製の急性骨髄性治療薬のFLT3阻害薬「ゾスパタ」は先月、日本で世界に先駆けて承認を取得しました。合併後に参入したがん領域で手応えを得つつあります。

 

第一三共 路線めぐり迷走

早々と新薬に特化したアステラス製薬とは対照的に、第一三共は迷走しました。

 

一時は新薬と後発品を組み合わせた「ハイブリッド・ビジネス」を志向し、08年に5000億円を超える巨費を投じてインドの後発品企業ランバクシーを買収。ところが、品質問題から15年にはランバクシーを手放し、新薬路線に回帰すると宣言しました。16年度にスタートした5カ年の中期経営計画では「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を“2025年ビジョン”として掲げ、抗体薬物複合体(ADC)を中心にがん領域への投資を強めています。

 

第一三共の業績は、合併直前(04年度)の売上高9163億円、営業利益1409億円に対し、合併10年後の15年度は売上高9864億円、営業利益1304億円と足踏み状態。売上高の成長が7.7%増にとどまっている上、営業利益は7.5%減少しました。近年は営業利益率が10%を割ることも多く、収益性が課題となっています。

 

合併直前と合併10年後の業績の比較の表。【アステラス製薬】<2004年度>売上高:8,620億円、営業利益:1,922億円。<2015年度>売上高:13,727億円、営業利益:2,490億円。【第一三共】<2004年度>売上高:9,163億円、営業利益:1,409億円。<2015年度>売上高:9,864億円、営業利益:1,304億円。【大日本住友】<2004年度>売上高:3,162億円、営業利益:384億円。<2015年度>売上高:4,032億円、営業利益:369億円。【田辺三菱製薬】<2006年度>売上高:4,050億円、営業利益:704億円。<2017年度>売上高:4,338億円、営業利益:772億円。【協和発酵キリン】<2007年度>売上高:4,620億円、営業利益:522億円。<2018年度>売上高:3,350億円、営業利益:510億円。

 

大日本住友、米国に足場 田辺・協和キリンも海外展開加速

大日本住友製薬は合併から4年後の09年10月に米セプラコール(現サノビオン)を買収。同社を足場に投入した抗精神病薬「ラツーダ」は17年度に1786億円を売り上げるまでに成長し、売上高に占める海外の割合は6割を超えました。

 

一方、国内事業は長期収載品の売り上げ減によって減収傾向。ラツーダのヒットによって売上高は合併前から27.5%増えたものの、営業利益は3.9%減少しました。12年には米ボストン・バイオメディカルを買収するなど、がん領域への本格参入を狙っていますが、まだ目立った成果にはつながっていません。

 

田辺三菱製薬は17年に米国で筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「ラジカヴァ」を発売し、合併の目的の一つだった海外進出がようやく実現。協和発酵キリンも今年、欧米で自社創製の抗体医薬「クリスヴィータ」が承認され、本格的な海外展開に乗り出しました。協和キリンは合併前から売上高を3割近く減らしていますが、これは化学品事業などノンコア事業の整理を進めたことが背景にあります。

 

2005年~08年に合併した5社の研究開発費と海外売上高の表。【アステラス製薬】研究開発費:2,208億円(売上高比:17.0パーセント)、海外売上高:8,791億円(売上高比:67.6パーセント)。【第一三共】研究開発費:2,360億円(売上高比:24.6パーセント)、海外売上高:3,418億円(売上高比:35.6パーセント)。【大日本住友製薬】研究開発費:869億円(売上高比:18.6パーセント)、海外売上高:2,814億円(売上高比:60.3パーセント)。【田辺三菱製薬】研究開発費:790億円(売上高比:18.2パーセント)、海外売上高:1,129億円(売上高比:パーセント)。【協和発酵キリン】研究開発費:492億円(売上高比:13.9パーセント)、海外売上高:1,125億円(売上高比:31.8パーセント)。

 

再編第二幕はあるか

08年で一旦は終わりを見た国内製薬業界の再編ですが、収益環境の変化を背景に再編の機運が再び高まる可能性があります。

 

今年4月の薬価制度改革では、長期収載品の薬価を中長期的に後発品と同じか近い水準まで引き下げる仕組みが導入。薬価引き下げに加え、後発品の普及も長期収載品の売り上げ減を加速させています。一方、新薬の開発は一段と難しくなっており、研究開発費は高騰。「オプジーボ」など高額薬剤の登場もあって、新薬の薬価にも引き下げの圧力がかかります。

 

こうした事業環境の変化を受け、武田薬品工業やアステラス、第一三共、中外製薬といった大手を中心に、長期収載品を他社に売却する動きが広がっています。エーザイや田辺三菱は後発品事業からも撤退しており、特許の切れた医薬品を軸にゆるやかな再編が進んでいます。

 

今年5月には、武田薬品が世界市場での生き残りをかけてアイルランド・シャイアーを7兆円で買収することで合意。海外メガファーマでは今年も1兆円規模のM&Aが相次いでいます。

 

厚生労働省は15年9月にまとめた「医薬品産業強化総合戦略」(17年12月に一部改訂)で、「日本の製薬メーカーもM&Aなどによる事業規模の拡大も視野に入れるべきではないか」と業界再編の必要性に言及しましたが、武田薬品を除けばメーカー側で目立った動きはまだ見られません。

 

大型再編から10年間遠ざかっていた日本の製薬業界。長期収載品の売却を通じたゆるやかな再編が進んでいくのか、それとも大型合併の第二幕が上がるのか。いずれにしても、この先の10年間で業界地図が書き換えられるのは確実でしょう。

 

 

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AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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