低分子薬、抗体医薬を含むタンパク医薬に続く新たなモダリティの1つとして開発が進む核酸医薬。来年以降、日本でも相次いで承認されることになりそうです。
米アルナイラムは8月に米国で世界初のsiRNAとして承認されたpatisiranを日本でも申請。日本新薬は今年度中にデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬のアンチセンスviltolarsenを申請する予定です。viltolarsenは先駆け審査指定制度の対象に指定されており、来年には国産初の核酸医薬が登場することになります。
世界初のsiRNA 日本でも申請
米アルナイラムの日本法人アルナイラム・ジャパンは10月1日、核酸医薬patisiran(一般名)をトランスサイレチン型家族性アミロイドーシス(hATTRアミロイドーシス)の治療薬として承認申請したと発表しました。希少疾病用医薬品に指定されており、同社は「2019年半ばの承認を期待している」としています。
核酸医薬とは文字通り、核酸(DNAやRNA)を主成分とする医薬品で、「アンチセンス」「siRNA」「アプタマー」「デコイ」「CpGオリゴ」といった種類があります。ターゲットとするのは主に、疾患に関連するタンパク質の合成そのもの。低分子薬や抗体医薬では治療の難しかった疾患に対する医薬品の創出が期待されています。
patisiranはsiRNAで、今年8月に世界初のsiRNAとして米国で承認されたあと、同じ月に欧州でも承認を取得しました。siRNA(短い2本鎖のRNA)は、細胞内に入り込んでメッセンジャーRNAを分解(RNA干渉=RNAi)し、疾患の原因タンパク質をなくす働きを持ちます。こうした働きにより、patisiranはhATTRアミロイドーシスを引き起こすTTRタンパク質の産生を阻害することで、疾患の進行を遅らせるとされています。
日本新薬も18年度中に申請へ
現在、世界で承認されている核酸医薬はpatisiranも含め8成分。すべて欧米企業が開発したものです。
このうち日本で承認されているのは、ボシュロム・ジャパンの加齢黄斑変性治療薬「マクジェン」(ペカプタニブ、アプタマー)と、バイオジェン・ジャパンの脊髄性筋委縮症治療薬「スピンラザ」(ヌシネルセン、アンチセンス)の2成分のみ。日本は核酸医薬の分野で海外に後れをとっています。
日本企業では、日本新薬がデュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象にアンチセンス核酸医薬viltolarsen(NS-065/NCNP-01)を開発中。現在、日本と米国で臨床第2相(P2)試験を行っており、18年度中の承認申請を目指しています。日本では先駆け審査指定制度の対象で、19年には国産初の核酸医薬が登場する見通しです。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、筋肉内のジストロフィンタンパク質が欠損することで起こる疾患。viltolarsenは、メッセンジャーRNAのうちタンパク質に翻訳される部分(エクソン)の一部をスキップことで、不完全ながら機能を保ったジストロフィンの発現を誘導する作用を持ちます。こうした治療は「エクソンスキップ療法」と呼ばれ、viltolarsenは複数あるエクソンのうちエクソン53を標的としています。
今年6月に発表されたviltolarsenの国内P1/2試験の結果によると、16人中14人で筋肉内ジストロフィンタンパク質の増加が認められ、有害事象は軽度あるいは中等度だったといいます。
国内大手の動きも本格化
一方、第一三共がデュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象に開発中の「DS-5141」は、国内P1/2試験で、全体としてジストロフィンタンパク質の明らかな発現が確認できなかったとして延長試験を実施中。こちらはエクソン45をターゲットとしており、viltolarsen同様、先駆け審査指定制度の対象品目に指定されていますが、申請時期は明らかにしていません。
第一三共以外の大手でも、核酸医薬の研究開発が本格化しています。
武田薬品工業は今年2月、遺伝的神経系疾患に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの開発を目指して、シンガポールのウェーブ・ライフサイエンスと提携を結びました。筋萎縮性側索硬化症(ALS)など4つの疾患を対象としたプログラムを進めており、このうちハンチントン病治療薬はP1b/2試験を実施中。ALS治療薬も来年、臨床試験入りする予定です。
アステラス製薬と大塚製薬はそれぞれ、バイオベンチャーのリボミックと組んでアプタマーの研究開発を進めています。エーザイは子会社のカン研究所が大阪大などと共同研究開発を開始。田辺三菱製薬はステリック再生医科学研究所を買収し、炎症性腸疾患向け核酸医薬(siRNA)を獲得しました。
日本は核酸医薬でも抗体医薬と同じように海外に大きな差をつけられてしまうのか、それとも挽回することができるのか。核酸医薬の市場は今後、急速に拡大すると見られており、動向からは目が離せません。
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