製薬企業の成長に欠かすことのできない新薬。「オプジーボ」のライバルとなる抗PD-1抗体「キイトルーダ」や、骨粗鬆症に対する抗スクレロスチン抗体ロモソズマブ、国内初のアンチセンス核酸医薬となる脊髄性筋萎縮症治療薬ヌシネルセンナトリウムなど、今年も注目の新薬が登場する見通しです。
2017年に国内で発売が予想される主な新薬を、領域別にまとめました。
INDEX
【がん領域の新薬】「キイトルーダ」2月にも 多発性骨髄腫には2新薬
がん領域で注目されるのが、MSDの抗PD-1抗体「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)です。2月に薬価収載され、発売される見通しです。
昨年9月、悪性黒色腫の適応で承認を取得。昨年11月の発売も可能なタイミングでしたが、類薬の「オプジーボ」の薬価引き下げをめぐる議論が決着していなかったため、MSDが薬価収載を先送りしていました。がん領域に強い大鵬薬品工業との共同プロモーションで、先行する「オプジーボ」を追います。
昨年12月には、PD-L1陽性の非小細胞肺がんにも適応を拡大。競合する「オプジーボ」がセカンドラインでしか使えないのに対し、「キイトルーダ」はファーストラインでの使用も可能な形で承認されました。「キイトルーダ」にとっては大きなアドバンテージですが、一方でPD-L1陽性という「オプジーボ」にはないしばりもつきました。
新薬ラッシュが続く多発性骨髄腫には、今年も2つの新薬が登場する見通しです。
1つは、武田薬品工業のプロテアソーム阻害薬イキサゾミブ。順調にいけば、夏にも発売となりそうです。すでに「ベルケイド」「カイプロリス」と2つの注射剤が販売されているプロテアソーム阻害薬ですが、イキサゾミブは初の経口剤。患者の利便性向上が期待されます。「ニンラーロ」の製品名で販売する米国では好調な立ち上がりを見せており、武田は大型化を期待しています。
もう1つは、ヤンセンファーマが昨年12月21日に申請した抗CD38抗体ダラツムマブです。CD38は、多発性骨髄腫細胞の表面に過剰に発現するシグナル伝達分子。ダラツムマブはこのCD38に結合し、さまざまな作用機序を通じて、直接的・間接的に多発性骨髄腫細胞を死滅させます。
パルボシクリブは、ファイザー期待の乳がん治療薬。サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬という新しい作用機序を持つ薬です。CDK4/6は細胞周期の調節に関わるタンパク質。パルボシクリブはこれを阻害することで、細胞周期の進行を停止し、がん細胞の増殖を抑制すると考えられています。
サンドが昨年11月に申請したリツキシマブ(製品名「リツキサン」)のバイオシミラーも、年内発売の可能性があります。承認されれば、リツキシマブのバイオシミラーとしては初めて。承認取得後は、血液がん領域に強みを持つ協和発酵キリンが販売・マーケティングを行う予定です。
【骨・関節領域の新薬】骨粗鬆症に新規抗体 経口のリウマチ薬も
新薬の相次ぐ登場で市場拡大が続く骨粗鬆症には、新たな抗体医薬が登場しそうです。
アステラス・アムジェン・バイオファーマは昨年12月、「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」の適応で抗スクレロスチン抗体ロモソズマブを申請しました。スクレロスチンは、骨細胞から分泌される糖タンパク。ロモソズマブはこれと結合し、その作用を阻害することで、骨形成(新しい骨をつくる)を促進し、骨吸収(古い骨を壊す)を抑制します。
閉経後骨粗鬆症患者を対象に行われた国際共同臨床第3相(P3)試験「FRAME」では、ロモソズマブを月1回投与した群は、プラセボに比べて投与開始12カ月後の新規椎体骨折の相対リスクを統計学的に有意に73%低下させました。アステラス製薬は「高い骨折リスクを持つ患者への第1選択薬になるのではないか」と期待しています。
関節リウマチでは、ヤンセンファーマのシルクマブと、日本イーライリリーのバリシチニブの2つの新薬が発売される見通しです。
シルクマブは、サイトカインの1つであるインターロイキン6(IL-6)の働きを阻害することで炎症を抑える抗IL-6抗体。IL-6を標的とした関節リウマチの生物学的製剤には、中外製薬の「アクテムラ」がありますが、「アクテムラ」がIL-6の受容体側に結合するのに対し、シルクマブはIL-6自体をターゲットとしています。
バリシチニブはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬。細胞内のシグナル伝達経路の1つであるJAK経路を阻害することで、サイトカインの過剰な産生を抑えます。経口剤で患者の負担軽減が期待される一方、先行して2013年に発売されたファイザーのJAK阻害薬「ゼルヤンツ」の浸透度合いは今ひとつ。バリシチニブが市場をどう開拓していくのか、注目されます。
関節リウマチでは、第一三共が骨粗鬆症治療薬の抗RANKL抗体「プラリア」の適応拡大を申請中。第一三共は、エタネルセプト(製品名「エンブレル」)のバイオシミラーを16年度中に申請予定で、17年度中の承認・発売を見込んでいます。
【消化器領域の新薬】C型肝炎に「ジメンシー」 ギリアドはB型肝炎薬
経口剤のみで治療可能な新薬が相次いで登場しているC型肝炎の領域では、ブリストル・マイヤーズスクイブが「ジメンシー」(ダクラタスビル/アスナプレビル/ベクラブビル)を2月にも発売する見通しです。
ダクラタスビルは「ダクルインザ」、アスナプレビルは「スンベプラ」として、いずれも14年9月にブリストルが発売済み。これに新規有効成分のベクラブビルを加えたのが「ジメンシー」です。作用点の異なる3つの直接作用型抗ウイルス薬を配合した製剤は、国内初となります。
C型肝炎治療薬「ソバルディ」「ハーボニー」で肝臓領域に強固な事業基盤を築いたギリアド・サイエンシズは、B型肝炎治療薬「ベムリディ」(テノホビル アラフェナミドフマル酸塩)の承認を昨年12月に取得。2月にも発売される見込みです。
「ベムリディ」は、テノホビルの新規プロドラッグ。国内でも14年から販売されているテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)と同様の効果を10分の1以下の用量で示します。ギリアドによると、TDFに比べて血漿中の安定性が高く、効率的に幹細胞に届くことから、投与量が少なくて済み、腎臓や骨に対する安全性も改善されたといいます。
肝臓以外の領域では、下痢型過敏性腸症候群治療薬「イリボー」を販売するアステラス製薬が、便秘性過敏性腸症候群治療薬「リンゼス」(リナクロチド)を2月にも発売予定。エーザイの消化器領域事業と味の素製薬が統合して誕生したEAファーマは、潰瘍性大腸炎治療薬としてブデソニドを有効成分とする国内初の泡状の注腸製剤を申請中です。承認取得後は、EAファーマとキッセイ薬品工業が同一製品名でそれぞれ販売することになっています。
【生活習慣病領域の新薬】DPP-4+SGLT-2配合剤が登場へ
生活習慣病領域では、2つの配合剤が発売される見通しです。
武田薬品工業は高血圧症治療薬として、ARBアジルサルタンとCa拮抗薬アムロジピン、利尿薬ヒドロクロロチアジドの3剤配合剤を昨年6月に申請しました。アジルサルタンは武田の主力製品の1つである「アジルバ」の有効成分。ARB+Ca拮抗薬+利尿薬の組み合わせでは、アステラス製薬が昨年11月に「ミカトリオ」(テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジド)を発売しています。
田辺三菱製薬は、DPP-4阻害薬テネリグリプチンとAGLT-2阻害薬カナグリフロジンの配合剤を2型糖尿病の適応で申請中です。テネリグリプチンは「テネリア」、カナグリフロジンは「カナグル」としてすでに販売中。承認されれば国内初のDPP-4阻害薬+SGLT-2阻害薬の配合剤となります。
【その他領域の新薬】神経難病に国内初のアンチセンス核酸医薬、乾癬には25年ぶりの経口剤
これら以外の領域でも、注目の新薬が登場する見込みです。
バイオジェンが昨年12月に申請した神経性の難病・脊髄性筋萎縮症の治療薬ヌシネルセンナトリウムは、承認されれば日本初のアンチセンス核酸医薬(疾患に関係するタンパク質をつくるRNAを標的とする核酸医薬)となる見込みです。バイオジェンは同じ神経性の難病である多発性硬化症の治療薬「テクフィデラ」(フマル酸ジメチル)の承認も昨年12月に取得。2月にも発売される見通しです。
中枢神経系領域では、大塚製薬が主力の抗精神病薬「エビリファイ」の後継品となるブレクスピプラゾールを今年1月に申請しました。塩野義製薬は、注意欠陥・多動症(ADHD)治療薬グアンファシンを申請中です。
セルジーンは、乾癬治療薬としては25年ぶりの経口剤となるホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬「オテズラ」(アプレミラスト)を2月にも発売予定です。炎症性細胞に分布するPDE4を阻害することで、サイトカインの発現を調整する機能を持つサイクリックAMPの濃度を上昇させ、サイトカインの産生を制御することで炎症反応を抑えます。
アレルギーに貼付薬
小野薬品工業が昨年12月に承認を取得した「パーサビブ」(エテルカルセチド)は、血液透析下の二次性副甲状腺機能亢進症に対する治療薬。カルシウム受容体拮抗薬と呼ばれる作用機序を持ちます。
血液透析化の二次性副甲状腺機能亢進症に対するカルシウム受容体拮抗薬としては、経口剤の「レグパラ」(協和発酵キリン)が販売されていますが、「パーサビブ」は注射薬。透析終了後の返血時にあわせて投与できるため、飲み忘れ防止や患者の負担軽減につながると期待されています。
アレルギーでは、久光製薬がエメダスチンの経皮吸収型製剤を投入予定。17年度中の承認取得を見込んでいます。エメダスチンは「レミカット」(興和)として20年以上使われている第2世代の抗ヒスタミン薬です。抗ヒスタミン薬としては初めての貼付剤となります。
感染症領域では、ヤンセンファーマが1月4日、抗HIV薬「プレジコビックス」(ダルナビル/コビシスタット)を発売しました。
ノバルティスファーマの抗マラリア薬「リアメット」(アルテメテル/ルメファントリン)が2月にも発売される見通しです。国内ではこれまで承認されておらず、国の研究班が海外から輸入し、研究班に所属する医療機関で使用されてきましたが、厚労省の開発要請に応じたノバルティスが国内での開発を行いました。MSDのベズロトクスマブは、抗菌薬投与後に下痢などを引き起こすクロストリジウム・ディフィシル感染症の再発を抑制する薬です。
【AnswersNews編集部が製薬会社を分析!】 |