2023年に薬価収載された新薬48成分のうち、ピーク時に100億円を超える売り上げを予測しているのは15成分だったことがAnswersNewsの集計でわかりました。500億円を超える超大型製品はなく、最高は2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の367億円。成分数では全体の6割以上を外資系企業の製品が占めました。9月に承認されたアルツハイマー病治療薬「レケンビ」も年内に収載される予定で、最終的に今年の収載新薬は49成分となる見込みです。
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300億円超は4成分
薬価の中間年改定の年となった23年の薬価収載は、3月、5月、8月、11月に行われました。収載された新薬は、投与経路の違いによる重複を含めて48成分。ここには、再生医療等製品である遺伝子治療薬「ルクスターナ」も含みます。このうち新規有効成分含有医薬品は38成分で、10成分は新効能、新用量、剤形追加などでした。
有用性加算や市場性加算といった補正加算が適用されたのは30成分(うち9成分は原価の開示度が50%未満だっためため加算係数ゼロ)。新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象となったのは31成分でした。希少疾病用医薬品は11成分。投与経路では注射が31成分と最も多く、内用が12成分、外用が5成分でした。
フェスゴ344億円、ウゴービ328億円
ピーク時予想売上高は48成分あわせて4363億円で、22年の4132億円(49成分)とほぼ同レベル。100億円を超えたのは15成分(22年比2成分増)で、300億円超は4成分(221成分増)でした。発売10年度目に367億円を見込むマンジャロは、日本イーライリリーが市場構造を変えるゲームチェンジャーと期待しています。現在は世界的な品薄によって需要に応え切れない状況ですが、供給体制が整えば処方の拡大が見込まれます。
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中外製薬の乳がん・大腸がん治療薬「フェスゴ」は344億円を予想しています。同薬は抗HER2抗体「パージェタ」と同「ハーセプチン」の配合剤。ヒアルロニダーゼを配合することで皮下注を実現しました。従来は2剤を連続して投与すると初回は約150分、2回目以降は60~150分かかっていましたが、フェスゴはそれぞれ約8分と約5分に短縮。調整不要の固定用量で、患者の利便性向上と医療現場の負担軽減が期待できます。
328億円の売り上げを見込むノボノルディスクファーマの「ウゴービ」は、医療用の肥満症治療薬として「サノレックス」以来30年ぶりの新薬となりました。有効成分は糖尿病治療薬「リベルサス」「オゼンピック」と同じセマグルチド。臨床試験では、過体重または肥満の成人で投与68週時に13%以上の体重減少を達成しています。薬価は開始用量の0.25mgが1876円、漸増後の2.4mgが1万740円。投与頻度はいずれも週1回で、2.4mgの薬剤費は1カ月約4万6000円となり、患者負担は3割の場合、約1万3800円です。
ウゴービの発売は来年2月22日を予定。ノボは「日本の需要のために確保できた製品を最適使用推進ガイドラインに従って適正使用されるよう、監督当局や医療従事者、卸販売業者と協力する」としています。肥満症ではマンジャロも適応追加の開発を行っており、今後、日本でも市場が拡大していくことになりそうです。
高い関心を集めているのが、12月の収載が見込まれるレケンビです。エーザイは2030年に世界売上高1兆円とはじきますが、国内でどこまで市場を広げるのか注目されます。
ピーク時総額 8割外資
48成分を企業別に見ると、最も多いのはサノフィの4成分(うち1成分は新用量・剤形追加)で、ファイザーとリリーの3成分(リリーは剤形違いによる重複を含む)がこれに続きます。内資と外資にわけて見ると、内資は18成分、外資(中外を含む)は30成分で、この比率は昨年とほぼ変わりません。ピーク時売上高の合計は、内資の910億円に対して外資が3442億円と圧倒。上位10成分のうち8位までを外資が占め、100億円超を見込む15成分中12成分が外資の製品でした。
外資の中でも、ジェンマブ、ファーマエッセンシアジャパン、Swedish Orphan Biovitrum Japanといった新興企業がピーク時100億円を超える製品を送り出しています。内資では協和キリンの高リン血症治療薬「フォゼベル」、塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」、武田薬品工業の潰瘍性大腸炎治療薬「エンタイビオ」(新投与経路の皮下注製剤)が上位で100億円超を見込んでいます。
両眼1億円「ルクスターナ」も収載
疾患領域では、がんの6成分が最多。ジェンマブの「エプキンリ」は、同社とアッヴィががん領域でのグローバル提携の下で共同開発した製品。適応は大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)と濾胞性リンパ腫。LBCLでは、全身療法を2回以上受けた再発・難治性の患者に対する標準療法は確立しておらず、新たな治療法へのニーズが高い疾患です。サノフィの「リブタヨ」は抗PD-1抗体として3番目の収載。適応は子宮頸がんで、ピーク時に23億円(患者数800人)を見込みます。
高額薬剤の収載もあり、遺伝性網膜ジストロフィーを適応とするノバルティスファーマの遺伝子治療薬ルクスターナは4960万226円の薬価がつきました。薬価算定では有用性加算I(45%)と市場性加算I(10%)が適用されましたが、製造原価の開示度が低いため係数ゼロで価格への上乗せは行われませんでした。同薬は両眼に1回ずつ投与するので、患者1人あたりと約1億円の薬剤費がかかることになります。ただ、ノバルティスはピーク時でも投与患者数は年間5人しか見込んでおらず、医療保険財政への影響はかなり限定的だと言えます。