2023年3月期を中心に東証プライム上場の主要製薬企業40社(製薬が本業でない企業が手がける医薬品事業を含む)の直近の決算を集計したところ、武田薬品工業が約4兆円を売り上げて今年も国内首位となりました。2位は大塚ホールディングス(HD)で、3位はアステラス製薬。円安も追い風となって大手を中心に2桁増収となる企業が相次ぎ、40社全体の売上高は前期比13.6%増となりました。
INDEX
上位は軒並み2桁増収 塩野義、ゾコーバで10位に浮上
首位の武田薬品工業は、主力製品の好調な販売に加えて円安の恩恵を受け、売上収益は前期比12.8%増の4兆275億円と4兆円を突破。2位は売上収益1兆7380億円(前期比16.0%増)の大塚ホールディングス(HD)で、3位は1兆5186億円(17.2%増)のアステラス製薬でした。トップ3の顔ぶれと順位は、2020年のランキング(集計対象は19年度決算)以降、変化はありません。
武田は主力の潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンタイビオ」(7027億円、34.7%増)やADHD治療薬「ビバンセ」(4593億円、40.4%増)が海外で売り上げを伸ばし、大塚はグローバル4製品(エビリファイメンテナ、レキサルティ、サムスカ/ジンアーク、ロンサーフ)が計26.4%増の6192億円を販売。アステラスも前立腺がん治療薬「イクスタンジ」で売上高の43.5%にあたる6611億円(23.7%増)を売り上げ、いずれも2桁の増収となりました。
4位の第一三共は、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」の売り上げ(提携先からのマイルストンなどを含む)が前期比3.2倍となる2584億円に拡大。総売上収益は22.4%増の1兆2785億円となりました。5位の中外製薬は、創業以来初めてとなる売上収益1兆円を達成。新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」の政府納入で2037億円を売り上げ、自社創製品「ヘムライブラ」「アクテムラ」のスイス・ロシュ向けの輸出も好調でした。
田辺三菱製薬(三菱ケミカルグループの医薬品事業)は売上収益5354億円(38.8%増)で8位。19年から続いていたスイス・ノバルティスとの係争が決着し、これまで収益として認識できていなかった多発性硬化症治療薬「ジレニア」のロイヤリティ収入を一括計上したことで大幅な増収となりました。
9位の小野薬品工業は、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」やSGLT2阻害薬「フォシーガ」が大きく伸び、売上収益は4472億円(23.8%増)と過去最高。新型コロナ治療薬「ゾコーバ」で1047億円の売り上げを計上した塩野義製薬も4267億円(27.3%増)と過去最高を更新し、協和キリンを抜いて10位に浮上しました。
今年のランキングで売上高が1000億円を超えたのは22社で、円安も追い風に多くの企業が売り上げを伸ばしました。一方、帝人(ヘルスケア事業)は痛風・高尿酸血症治療薬「フェブリク」への後発医薬品参入で13.0%の減収となり、順位も2つダウン。抗うつ薬「レクサプロ」が後発品の影響を受けた持田製薬も6.3%の減収となり、杏林製薬に抜かれました。
後発品企業では、東和薬品(2089億円)、サワイグループHD(2003億円)がそろって2000億円を突破。東和薬品は決算期の変更で一部子会社の15カ月分の決算を取り込んだことで約400億円の増収となりました。日医工は上場廃止に伴って業績の開示が行われなくなったため、ランキングから姿を消しました。
営業利益トップは中外 利益率は42%
営業利益でランキングしてみると、トップは5333億円の中外製薬。抗補体(C5)抗体「ユルトミリス」の特許をめぐる米アレクシオン・ファーマシューティカルズとの和解によって907億円の収入を計上し、26.4%の増益となりました。営業利益率は42.3%で群を抜いています。
中外に続いたのは6.4%増の4905億円を確保した武田薬品。営業利益率は0.7ポイント減の12.2%でした。このほか、営業利益が1000億円を超えたのは大塚HD(1503億円、2.7%減)と塩野義(1490億円、35.1%増)、小野薬品(1420億円、37.6%増)、アステラス(1330億円、14.6%減)、第一三共1206億円(65.1%増)。塩野義と小野は営業利益率が30%を超えています。
一方、アステラスは腎性貧血治療薬エベレンゾの将来計画見直しや遺伝子治療薬の開発中止などに伴って846億円の減損損失を計上し、2桁の営業減益。エーザイは、前期に米ブリストル・マイヤーズスクイブとの提携に関する契約一時金を計上した反動で、25.5%減となりました。
今回のランキングでは、これまでに比べて営業赤字となる企業が目立ちました。770億円の営業赤字となった住友ファーマは、米国で発売したパーキンソン病治療薬「キンモビ」の収益予測見直しなどに伴って総額882億円の減損損失が発生。米子会社で減損損失を計上した参天製薬も31億円の営業赤字でした。
関連記事:国内製薬23年3月期、営業赤字の企業が増加…中堅企業、事業環境の悪化が収益直撃
[研究開発費]6300億円の武田がトップ
研究開発費は6333億円(20.4%増)の武田がトップを維持。2位はADCへの投資が拡大する第一三共(3416億円、31.2%増)で、3位はアステラス(2761億円、12.2%増)でした。円安の影響もあって上位は軒並み2桁増となっています。
新型コロナ治療薬・ワクチンに研究開発費をつぎ込んだ塩野義は、創業以来最高となる1024億円(40.3%増)を投じ、順位も2つアップ。一方、田辺三菱は9.4%減の878億円となり、前年7位から10位にランクダウンしました。
売上高に占める割合では、日本たばこ産業(35.9%)や第一三共(26.3%)、JCRファーマ(25.6%)など、33社中9社が20%を上回りました。
[海外売上高]武田・アステラス・大塚が1兆円超え
海外売上高は、円安の影響でほとんどの企業で増収となりました。1位の武田薬品は20.8%増の3兆5154億円。売上収益全体に占める割合は前年から5.8ポイント増の87.3%まで上昇し、9割に迫っています。2位のアステラスは、1兆2563億円で2年連続の1兆円突破。売上収益比率も武田に次ぐ82.7%となりました。大塚HDも1兆円を突破し、売上収益に対する割合は62.3%に拡大。このほか、エーザイ(66.4%)、住友ファーマ(69.4%)、協和キリン(61.0%)が売上収益の6割以上を海外で稼ぎました。
ジレニアのロイヤリティ計上で200%超の増加となった田辺三菱を除くと、前年から最も海外での売り上げを伸ばしたのは53.9%増のツムラ。中国で生薬の販売を広げています。第一三共(53.0%増)や小野薬品(33.2%増)、ゼリア新薬工業(31.3%増)も海外で大幅な増収となりました。
[23年度予想]協和キリンが9位浮上か…住友ファーマ、特許切れで大幅減予想
今期の業績予想を見てみると、武田はビバンセや高血圧症治療薬「アジルバ」の特許切れと新型コロナワクチンの売り上げ減で減収減益の見込み。中外もロナプリーブの政府納入の減少が響き、売上収益、営業利益ともに8%の減少となる予想です。一方、主力品の成長を見込む大塚や第一三共は増収増益を予想。アステラスは、売り上げは横ばい予想ですが、22年度に減損損失を計上した反動で116.5%の大幅増益となる見込みです。
エーザイは、今年6月にアッヴィとの抗TNFα抗体「ヒュミラ」の販売提携を終了することで4.4%の減収を予想しています。住友ファーマは、北米で特許切れを迎えた最主力品の抗精神病薬「ラツーダ」が209億円(89.5%減)まで売り上げを落とす見通しで、全社で34.8%の大幅減収となる見込み。順位は4つダウンし、トップ10圏外に後退することになりそうです。22年度に多額のロイヤリティを計上した田辺三菱も、今期は21年度の水準まで戻るとみられます。これら2社を抜いて9位に浮上するのが協和キリンで、抗FGF23抗体「クリースビータ」が1491億円(17.3%増)まで売り上げを伸ばす計画です。
後発品企業では、サワイGHDが8.4%増の2172億円、東和薬品が2163億円を予想しており、順位の入れ替わりがありそうです。
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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