2022年に日本と米国、欧州で承認された主な新薬などを領域別にまとめました。2回目は「皮膚」「血液」「神経・精神」「その他」の4領域です。
1回目:「がん(固形がん、血液がん)」「感染症」「ワクチン」「循環器・腎・代謝」
皮膚
低分子薬では、米ブリストル・マイヤーズスクイブのTYK2阻害薬「ソーティクツ」(一般名・デュークラバシチニブ)が日本と米国で、スイス・デルマバントのAhRモジュレーター「Vtama」(tapinarof)が米国で承認を取得。抗体医薬では、独ベーリンガーインゲルハイムの抗IL-36受容体抗体「スペビゴ」(スペソリマブ)が日米で承認されたほか、ベルギーUCBの抗IL-17A/17F抗体「ビンゼレックス」(ビメキズマブ)が2021年の欧州に続いて日本で承認されました。
新薬が相次ぐアトピー性皮膚炎では、中外製薬が創製し、マルホが国内の権利を持つ抗IL-31受容体A抗体「ミチーガ」(ネモリズマブ)と、デンマーク・レオファーマの抗IL-13抗体「アドトラーザ」(トラロキヌマブ)が日本で承認を取得しました。ミチーガはアトピー性皮膚炎のかゆみに特化した治療薬。米国では米ファイザーのJAK阻害薬「サイバインコ」(アブロシチニブ)が承認されました。同薬は、日本と欧州では21年に承認されています。
皮膚領域ではこのほか、重度の熱傷で壊死した組織を除去する「ネキソブリッド」が日本と米国で承認。イスラエル・メディウンドが開発したパイナップル茎由来のタンパク質分解薬で、日本では導入した科研製薬が承認を取得しました。欧州では表皮水疱症に対する「Filsuvez」が6月に承認。有効成分は白樺樹皮エキスで、詳しい作用機序は明らかになっていませんが、ケラチノサイトの成長を助け、傷の治りを早めると考えられています。
血液
血液領域では、血友病に対する2つの遺伝子治療が承認されました。米バイオマリンの「Roctavian」(valoctocogene roxaparvovec)は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに血液凝固第VIII因子(FVIII)遺伝子を組み込んだ血友病A治療薬。欧州で8月に承認を取得しました。血友病Bでは、FIX遺伝子を組み込んだAAVベクター「Hemgenix」(etranacogene dezaparvovec、豪CSL)が米国で11月に承認。欧州でも近く承認される見込みです。同薬は米国での薬価が350万ドル(約4.5億円)に設定され、史上最も高額な薬剤としても話題となりました。
米国で承認された米ブルーバード・バイオのβサラセミア治療薬「Zynteglo」(betibeglogene autotemcel)は、ex vivoの遺伝子治療製品。患者から採取した造血幹細胞に、レンチウイルスベクターを使って機能的なβグロビンを産生するよう遺伝子改変を施したものです。欧州では19年に承認を取得しましたが、償還面で折り合いがつかず、同社は21年に承認を取り下げました。
このほか、仏サノフィの抗補体(C1s)抗体「エジャイモ」(スチムリマブ)が寒冷凝集素症を対象に日米欧で承認。ピルビン酸キナーゼ(PK)欠乏性貧血に伴う溶血性貧血に対する初の疾患修飾薬として、PK活性化薬「Pyrukynd」(mitapivat)が米欧で承認を取得しました。
日本では、血小板減少性紫斑病を対象に、抗フォン・ヴィレブランド因子(VWF)ナノボディ「カブリビ」(カプラシズマブ、サノフィ)と、脾臓チロシンキナーゼ阻害薬「タバリス」(ホスタマチニブ、キッセイ薬品工業)が承認。いずれも米欧ではすでに承認されていた薬剤で、タバリスはキッセイが米ライジェルファーマシューティカルズから導入して開発を行いました。武田薬品工業の遺伝性血管性浮腫治療薬「タクザイロ」(ラナデルマブ)は米欧から4年遅れて承認を取得しました。
神経・精神
神経領域では、てんかん症状を呈する2つの疾患に新たな治療薬が承認されました。1つは米国で承認されたCDKL5欠損症に対する米マリナスの「Ztalmy」(ganaxolone)で、もう1つは日本で承認を取得したUCBのドラベ症候群治療薬「フィンテプラ」(フェンフルラミン)。フィンテプラはUCBが22年に買収したゾジェニックスが創製したもので、米欧では20年に承認されています。
遺伝性の神経疾患であるAADC欠損症には、in vivoの遺伝子治療「Upstaza」(eladocagene exuparvovec、米PTCセラピューティクス)が欧州で承認。大脳型副腎白質ジストロフィーに対してはex vivoの遺伝子治療「Skysona」(elivaldogene autotemcel、米ブルーバード・バイオ)が米国で承認されました。Zyntegloと同様に、欧州ではブルーバード・バイオが欧州事業の縮小に伴って21年に取得した承認を取り下げています。
米アルナイラムのRNAi核酸医薬「アムヴトラ」(ブトリシラン)はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬。トランスサイレチンの産生を抑える作用を持ち、3カ月に1回の投与で効果を発揮します。米国で6月に、日本と欧州で9月に承認されました。
近年新薬が相次いで登場している片頭痛の分野では、欧州で米ファイザーの「Vydura」(rimegepant)とデンマーク・ルンドベックの「Vyepti」(eptinezumab)が承認。いずれも米国では2020年に承認されたCGRPを標的とする薬剤で、日本では臨床第3相(P3)試験が行なわれています。このほか、米イーライリリーのセロトニン1F受容体作動薬「レイボー」(ラスミジタン)が日欧で承認を取得しました。
精神疾患では、スイス・イドルシアの不眠症薬「Quviviq」(daridorexant)が米欧で、米アクサムの大うつ病性障害治療薬「Auvelity」が米国で承認。Auvelityは、NMDA受容体拮抗薬dextromethorphanとノルエピネフリン・ドパミン再取り込み阻害薬bupropionの配合剤。大うつ病に使用できるNMDA受容体拮抗薬は初めてとなります。
その他
スイス・ロシュの「バビースモ」(ファリシマブ)は眼科領域で初となるバイスペシフィック抗体。VEGF-AとAng-2の働きを阻害することで、網膜疾患に関与する2つの疾患経路を阻害するように設計されており、滲出型加齢黄斑変性と糖尿病黄斑浮腫の治療薬として日米欧で承認されました。
呼吸器疾患では、米メルクの難治性慢性咳嗽治療薬「リフヌア」(ゲーファピキサント)が日本で世界初の承認を取得。英アストラゼネカの重症喘息治療薬「テゼスパイア」(テゼペルマブ)は、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)を標的とする治療薬で、喘息の炎症カスケードの起点に作用します。テゼスパイアは米国で21年に承認されており、22年に日欧で承認を取得しました。
米アイガーの「Zokinvy」は、遺伝性早老症のハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群とプロジェロイド・ラミノパチーに対する唯一の疾患修飾薬。日本ではアンジェスと22年5月に販売契約を結んでおり、申請に向けた準備が進んでいます。
日本では、EAファーマの「カログラ」(カロテグラストメチル)が潰瘍性大腸炎を対象に国内で承認を取得。大正製薬がベルギーのアブリンクス(サノフィが買収)から導入した抗TNFαナノボディ製剤「ナノゾラ」(オゾラリズマブ)は、関節リウマチ治療薬として承認されました。
キッセイ薬品工業が創製したGnRHアンタゴニスト「Yselty」(linzagolix)は、子宮筋腫治療薬。導出先だったスイス・オブシーバが欧州で承認を取得し、米国でも申請を行っていましたが、現在はライセンス契約を解消しています。オブシーバによる米国の申請は取り下げられていますが、キッセイがデータを精査し、今後の開発方針を検討するとしています。欧州では英セラメックスとともに事業化を進めています。