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重症喘息に5つ目の抗体製剤…「テゼスパイア」市場でのポジションは

更新日

穴迫励二

重症の気管支喘息に対する新薬「テゼスパイア」(アストラゼネカ)が11月16日に発売されました。この領域では5番目の参入となりますが、炎症の起点となる上皮サイトカイン「TSLP」に作用する初めての薬剤です。すでに4剤が競合する市場で、どのような位置付けになるのでしょうか。

 

 

複雑な病態

国内の喘息患者数は92万人と推計されており、このうち重症患者は5~10%程度。薬物治療は、吸入ステロイド薬、長時間作用性のβ2刺激薬や抗コリン薬などが中心で、これらでコントロールできない重症患者には生物学的製剤が使用されます。喘息による死亡者は以前に比べると大きく減少していますが、それでも2021年には1038人を数えました。

 

重症喘息の病態は複雑で、複数あるバイオマーカーの中でも血中好酸球数だけが高かったり、呼気中の一酸化窒素濃度も高値だったりとさまざまです。アレルギー反応を引き起こすIgE抗体の総量なども含め、2つ以上のバイオマーカーが重なっている患者が6割近くいるという報告もあります。症状悪化の外的要因も、ハウスダスト、感冒、季節・天候、疲労などいろいろあります。

 

重症患者の4割 バイオ製剤でもコントロール不良

昭和大医学部内科学講座(呼吸器・アレルギー内科学部門)の相良博典主任教授によると、重症患者の4割程度はコントロールが生物学的製剤を使ってもうまくコントロールできていないといいます。そのため、多様な外的要因によってもたらされる病態の悪化と、複数の炎症経路を同時に抑える薬剤の開発が求められていました。

 

これまでに「既存治療でコントロールできない重症または難治」の適応を取得した喘息治療薬は、テゼスパイアを除いて4剤。最も早かった抗IgE抗体「ゾレア」(ノバルティスファーマ)は2009年に発売されました。その後、しばらく新薬の登場はありませんでしたが、16年6月に抗IL-5抗体「ヌーカラ」が登場。以降、抗IL-5α抗体「ファセンラ」(アストラゼネカ)、抗IL-4/13抗体「デュピクセント」(サノフィ)が続き、4剤が競合する市場となりました。適応拡大のデュピクセントを除く各薬剤のピーク時売上高予測(中央社会保険医療協議会の薬価収載時の資料に基づく)は、薬価ベースで94~153億円となっています。

 

【国内で承認されている重症喘息向け抗体医薬】(*は適応拡大。ピーク時予想売上高は中医協資料から)<製品名社名/作用機序/発売年月/薬価収載時のピーク時予想売上高>ゾレア ノバルティスファーマ/抗体IgE抗体/2009年3月/94.1億円|ヌーカラ グラクソ・スミスクライン/抗IL-5抗体/2016年6月/143億円|ファセンラ アストラゼネカ/抗IL-5α抗体/2018年4月/153億円|デュピクセント サノフィ/抗体IL-4/13抗体/2019年3月*/―|テゼスパイア アストラゼネカ/抗TSLP抗体/2022年11月/145億円|※各社のプレスリリースなどをもとに作成

 

先行4剤「ヌーカラ」がリード

喘息治療薬の市場は全体で約7880億円(21年の薬価ベース)に上りますが、重症の適応を持つ4剤は市場でどのように競合しているのでしょうか。メディカル・データ・ビジョンがDPC病院369施設を対象に行った分析によると、各薬剤の処方患者数は次のグラフのようになっています。集計では、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎など喘息以外の適応症を考慮し、皮膚科と耳鼻咽喉科を対象から除外しています。

 

【重症喘息治療薬の投与患者数の推移】折れ線グラフ ヌーカラ ゾレア ファセンラ デュピクセント|※出典:メディカル・データ・ビジョン

 

4剤目となるデュピクセント参入後の19年4月~22年6月の処方患者数を見てみると、ヌーカラが継続的に処方を伸ばし、デュピクセントが先行3剤を猛追していることがわかります。ただ、ヌーカラは集計対象から除外していない診療科で「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」の治療にも使われています。喘息に比べて処方患者数は圧倒的に少ないものの、用量は3倍で、売り上げとしてはそれなりにありそうです。ゾレア、ファセンラ、デュピクセントの3剤は拮抗していて、シェア争いも激しくなっているようです。

 

「最初の抗体製剤で良好なコントロールはまれ」

薬剤間の切り替えも頻繁に行われています。病態が複雑で炎症の原因も複数あるため、十分な効果が得られない場合があるからです。患者団体「相模原アレルギーの会」(神奈川県)の小川順治理事によると「初めて使う抗体製剤で良好なコントロールが得られるケースはむしろまれ」と言います。

 

【重症喘息治療薬の切り替え状況】横棒グラフ ゾレア ヌーカラ ファセンラ デュピクセント/スイッチアウト スイッチイン|※出典:メディカル・データ・ビジョン

 

「テゼスパイア」炎症の起点に作用

こうした中で市場に投入されたのが、TSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)を標的とする新規の作用機序を持つテゼスパイアです。TSLPは炎症を引き起こす上皮サイトカインで、喘息の気道炎症経路の起点となっています。テゼスパイアはこれを抑えることで多様な外的因子による喘息症状を改善するとされています。炎症反応の下流をターゲットとする先行4剤とは異なる作用機序で、特にコントロール不良のケースで期待が高いと言えます。

 

承認の根拠となった国際共同臨床第3相(P3)試験「NAVIGATOR」では、主要評価項目である年間の増悪率がプラセボに比べて56%低下。アレルギーの状態やバイオマーカーに関わらず、幅広い患者で増悪抑制効果が示されました。

 

幅広い患者獲得する可能性

相良主任教授は、テゼスパイアの使用を検討したい患者として、▽2つ以上のバイオマーカーが陽性または上昇している患者▽血中好酸球数が300/μL未満の患者▽外的因子による増悪を繰り返している患者――を挙げています。炎症の上流を抑える作用機序で幅広い患者を獲得する可能性があり、医療現場での処方動向にも大きな変化が起こるかもしれません。

 

ただ、生物学的製剤全般に言えることですが、患者にとっては医療費の自己負担がネックとなります。テゼスパイアの薬価は210mgシリンジ1本17万6253円となっており、4週1回投与で3割負担だと薬剤費だけで月5万円を優に超えます。効果があるかは使ってみないとわからないところもあり、「抗体製剤にチャレンジするには経済的な負担がハードルになる」(小川氏)のも現実です。

 

患者側には十分な情報提供を求める声もあり、相模原アレルギーの会の荒川潮乃副理事長は「患者が薬剤を選択するためのガイドラインのようなもの」が必要だと指摘します。医療費負担を軽減できる制度の活用も含め、患者に対する情報の提供と整理が必要なようです。

 

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