2023年に国内で発売が見込まれる主な新薬を、領域別に2回に分けて紹介します。2回目は「ワクチン・感染症」「皮膚」「神経」「その他」です。
1回目:【2023年の新薬#1】がん領域に2つの新規免疫チェックポイント阻害薬…ジェンマブ、初の自社販売品が承認見込み
INDEX
【ワクチン・感染症】世界初のRSウイルスワクチン承認へ
新型コロナウイルス感染症では、米ファイザー/独ビオンテック製や米モデルナ製の承認から2年以上遅れて、ようやく日本企業が開発したワクチンが登場する見通しです。
塩野義製薬の組換えタンパクワクチン「S-268019」(開発コード)は、昨年11月に成人の初回免疫(1回目・2回目)と追加免疫(3回目)を対象に承認申請。国内で行った5つの臨床試験では、追加免疫でファイザー/ビオンテックの「コミナティ」に対する非劣勢が確認されるなど、良好な結果を得ており、年内に承認される見込みです。S-268019は、塩野義が2019年に買収したUMNファーマが持つ昆虫細胞を使ったタンパク発現技術(BEVS)によって製造されます。
新型コロナワクチンでは、第一三共も開発中のmRNAワクチン「DS-5670」を追加免疫の適応で1月に申請する予定としており、年内に承認される可能性があります。
ワクチンの分野では、承認されれば世界初となるグラクソ・スミスクラインのRSウイルスワクチン「GSK3844766A」も注目。百日せき、ジフテリア、破傷風、ポリオ、Hibの5種混合ワクチン「KD-370」(KMバイオロジクス)と同「MT-2355」(田辺三菱製薬)は、接種回数の減少による小児や保護者の負担軽減が期待されます。
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感染症治療薬では、カルバペネム系抗菌薬耐性グラム陰性菌による感染症に対する抗菌薬セフィデロコル(塩野義製薬)が年内承認の見込み。細菌が養分である鉄を取り込む機序を使って細菌内に侵入し、細胞膜合成を阻害する薬剤で、米国では19年に、欧州では20年に承認されています。
旭化成ファーマのアゾール系抗真菌薬「クレセンバカプセル/同点滴静注用」(一般名・イサブコナゾニウム硫酸塩)は昨年12月に承認を取得。4月の薬価収載が見込まれます。
【皮膚】レオファーマ、アトピー向け抗体医薬を自社販売
皮膚科領域では、レオファーマのアトピー性皮膚炎治療薬「アドトラーザ皮下注」(トラロキヌマブ)が昨年12月に承認を取得。順調にいけば今年4月に薬価収載される見通しです。
同薬は、アトピー性皮膚炎に関与するサイトカインIL-13を特異的に中和する抗IL-13抗体。アトピー性皮膚炎に対する抗体医薬としては、抗IL-4/13受容体抗体「デュピクセント」(一般名・デュピルマブ、サノフィ)と抗IL-31受容体A抗体「ミチーガ」(ネモリズマブ、マルホ)に続く3つ目の薬剤となります。レオファーマはトラロキヌマブの発売に向けて初めてMRを採用。自社販売に乗り出します。
科研製薬の壊死組織除去剤ネキソブリッド外用ゲル(一般名なし)も昨年12月に承認を取得。パイナップル茎の搾汁精製物を有効成分とし、タンパク質分解作用によって熱傷で壊死した組織を除去する薬剤です。科研は今年夏ごろの発売を予定しているとしています。
久光製薬が申請中のオキシブチニン塩酸塩は、原発性手掌多汗症に対する塗布剤です。オキシブチニン塩酸塩はすでに過活動膀胱などの治療薬として使用されている抗コリン薬。久光は自社の薬物送達技術を使って新たに塗布剤として開発しました。
【神経】パーキンソン病に手術不要の持続皮下注射剤
神経疾患の領域では、進行期のパーキンソン病に手術が必要ない持続皮下投与のレボドパ含有製剤が登場します。
アッヴィが昨年12月に承認を取得した「ヴィアレブ配合持続皮下注」(ホスレボドパ/ホスカルビドパ水和物)は、パーキンソン病の標準的な治療薬であるレボドパ/カルビドパ(LD/CD)のプロドラッグ溶液。小型の携帯型注入ポンプで持続的に薬剤を皮下投与できます。経口のLD/CDで症状のコントロールが困難となった進行期パーキンソン病患者の治療はこれまで、手術を伴うデバイス治療が中心でした。同薬が登場すれば、患者の負担を軽減する新たな治療選択肢となります。
キッセイ薬品工業が申請中の脊髄小脳変性症治療薬ロバチレリンは、塩野義製薬が創製した甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)誘導体。中枢神経系に分布するTRH受容体に結合して神経伝達物質の遊離を促進することで、神経系を活性化させる作用を持ち、脊髄小脳変性症患者の運動失調を改善すると期待されています。
同薬は2つの臨床第3相(P3)試験で主要評価項目(運動失調を評価する「SARA合計スコア」の変化量)を達成できなかったものの、2つ目のP3試験の組み入れ基準に合致する患者(より重症度が高い患者層)を対象とした併合解析ではプラセボ群に比べてSARA合計スコアの有意な改善が認められました。キッセイは併合解析の結果などをもとに2021年12月に承認申請を行いましたが、これを当局がどのように判断するか、注目されます。
今月6日に米国で迅速承認を取得したアルツハイマー病治療薬の抗アミロイドβプロトフィブリル抗体レカネマブ(米国製品名・レケンビ)は、3月までに日本でも承認申請が行われる予定。エーザイは23年中の承認を期待しています。
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【その他】新薬ラッシュの重症筋無力症に皮下注製剤
その他の領域では、ノバルティスファーマの遺伝子治療薬voretigene neparvovecが年内に承認される可能性があります。対象疾患は「両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィー」で、米国と欧州では「ラクスターナ」の製品名で承認済み。米国では1億円を超える価格で販売されており、日本でも薬価が議論になるかもしれません。
ファイザーが昨年8月に申請したリトレシチニブトシル酸塩は、円形脱毛症を対象とするJAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬。JAK3を阻害することで円形脱毛症の病態に関与するIL-15、IL-21の共通γ鎖受容体のシグナル伝達を抑制するとともに、TECファミリーキナーゼ阻害によってCD8陽性T細胞とNK細胞の細胞溶解能を抑制します。JAK阻害薬では、日本イーライリリーの「オルミエント錠」(バリシチニブ)が昨年6月に円形脱毛症の適応を取得しており、承認されればこれに続く治療選択肢となります。
ユーシービージャパンの補体C5阻害薬ジルコプランナトリウムは、抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性の全身型重症筋無力症の適応で昨年12月に申請。15個のアミノ酸から構成される大環状ペプチドです。既存の補体C5阻害薬は点滴静注製剤ですが、ジルコプランナトリウムは皮下注製剤として開発されており、在宅自己注射が可能な初めての薬剤となる見込みです。
フェリング・ファーマが申請中の潰瘍性大腸炎治療薬ブデソニドは、有効成分を患部で長時間かつ広範囲に放出するよう設計された薬剤で、承認後は持田製薬が流通と販売を行う予定です。