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アルツハイマー病薬レカネマブ、米国で迅速承認…エーザイ「2030年に投与患者数250万人」

更新日

ロイター通信

(写真:ロイター)

 

[ロイター]米FDA(食品医薬品局)は1月6日、エーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬レカネマブを迅速承認した。エーザイとバイオジェンは即日、FDAに完全承認を求める申請を行ったと発表した。

 

「レケンビ」の製品名で販売される同薬は、早期アルツハイマー病患者の脳内から有毒なタンパク質であるアミロイドベータのプラークを取り除くことで疾患の進行を遅らせる。

 

専門家、年350万円の価格設定に「嬉しい驚き」

レカネマブは抗アミロイドβ抗体の一種だが、同じアプローチを用いた新薬候補はこれまで、ほぼすべて失敗していた。アルツハイマー病創薬財団(Alzheimer’s Drug Discovery Foundation)の最高科学責任者、ハワード・フリット博士は「アルツハイマー病は人類が直面する最も複雑な病気だ。(レカネマブの迅速承認は)長年の研究が実を結んだ結果で、アルツハイマー病を治療するだけでなく、予防できるという希望を与えてくれる」と指摘。「このニュースは非常に重要だ」と強調した。

 

エーザイは、レケンビの米国での価格を年間2万6500ドル(約350万円)に設定したと発表した。同社は2022年度中に日本とEU(欧州連合)で申請する予定で、23年中に日本の当局から承認を得ることを期待している。

 

エーザイは、米国で同薬の投与を受ける患者は向こう3年で10万人に達し、そこから中長期的に増加していくと予想している。同社の内藤晴夫CEO(最高経営責任者)は1月7日、東京都内で記者会見し、「われわれの想定では、投与患者数は2030年ごろまでに世界で250万人ほどまで増加すると考えている」と語った。内藤氏は、具体的な数字は示さなかったものの、「発売直後は大きな利益を生まないかもしれないが、2年目の後半から3年目にかけて利益に貢献し始めるだろう」との見通しを示した。

 

米ワシントン大の神経科医でバーンズ・ジューイッシュ病院のエリック・ムシーク博士は、レケンビの価格設定に「嬉しい驚き」を覚えたといい、「ほかに良い疾患修飾薬がないことを考えると期待通りの価格だと思う」と話した。

 

正式承認なら保険適用拡大

ただし、レケンビへの患者アクセスは当面、制限されることになる。米国では、同薬の投与対象となり得る患者の9割以上が高齢者向け公的医療保険メディケアに加入しているが、メディケアは迅速承認された抗アミロイドβ抗体の保険償還を臨床試験の参加者に限定している。米アルツハイマー病協会はレケンビの承認を受けて声明を発表し、「保険適用がなければ、新薬の恩恵を受けることができるのは自己負担が可能な人に限られる」と指摘した。

 

レケンビはFDAの迅速承認プロセスで承認された。これは、臨床的有用性を予測できると考えられるバイオマーカーへの影響に基づいて新薬へのアクセスを早めるルートだ。FDAの神経科学担当者ビリー・ダン氏は「この治療法は、アルツハイマー病の症状だけを治療するのではなく、根本的な疾患のプロセスを標的にして影響を与える最新の治療法だ」と声明で述べた。

 

メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は1月5日、迅速承認された抗アミロイドβ抗体に対する現在の保険適用制限は、入手可能な情報の継続的なレビューに基づいて再検討される可能性があると指摘。FDAが正式承認した場合は、保険適用の範囲を広げることになると述べている。

 

CMSの決定は、バイオジェンとエーザイが21年に発売したアルツハイマー病治療薬に大きく反応したものだった。「アデュヘルム」の製品名で米国で販売されている抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブは、認知機能の低下を遅らせるというエビデンスがほとんどなく、外部の専門家で構成する諮問委員会が反対したにも関わらず、迅速承認された。

 

バイオジェンは当初、アデュヘルムの価格を年間5万6000ドルに設定していたが、その後、半額に引き下げた。保険適用が限定的なこともあり、22年1~9月期の売上高は450万ドルにとどまっている。

 

臨床試験では27%の進行抑制

レケンビの対象となるのは、軽度認知障害または初期のアルツハイマー病患者だ。医師らは、この集団はアルツハイマー病と付き合っている推定600万人の米国人のごく一部にすぎないと考えている。

 

この治療を受けるには、脳の画像診断や脊髄穿刺によって脳内にアミロイドβが沈着していることを確認する必要がある。加えて、この種の薬剤の重大な副作用である脳の膨張を監視するため、投与を受けている患者は定期的にMRI検査を受ける必要がある。

 

レケンビの添付文書には、患者が抗血栓薬の投与を受けている場合、医師は注意を払うべきだと記載されている。1月4日に発表された、脳卒中を起こして死亡したレカネマブ投与患者の剖検分析によると、抗血栓薬の投与は安全性上のリスクとなり得る。

 

レケンビは大規模臨床試験で、プラセボと比較して早期アルツハイマー病患者の認知機能の低下を27%遅らせた。この試験でレケンビを投与された患者の13%近くが脳の腫れを起こした。

 

米クリーブランド・クリニックの神経老年医学専門医、ババク・トゥシ博士は、今回の承認はバイオマーカーに基づいているため、この分野に「大きな違い」をもたらすだろうと指摘。「アルツハイマー病の診断をより正確に行うための手法を変えることになるだろう」と話している。

 

トゥシ博士は、この薬剤の効果はわずかなものであると認めているが、それでも「今回の承認以前には達成できなかった利益だ」と述べた。

 

(Deena Beasley/Bhanvi Satija/Jaiveer Shekhawat/Yuka Obayashi、編集:Bill Berkrot/David Gregorio/William Mallard/Tomasz Janowski、翻訳:AnswersNews)

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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