医薬品を載せて西新宿の街を走行する配送ロボット
東京都が西新宿エリアで展開している「スマートシティサービス実証事業」。5Gを活用し、食品や医薬品の自動配送に向けたプラットフォームの構築を進めています。武田薬品工業は今年から、医薬品や医療廃棄物をロボットで自動配送・回収する仕組みづくりに加わりました。1月31日には実証実験が行われ、サービス提供を通じた運用面の課題分析が始まっています。
INDEX
重い薬、治療継続を困難に
東京都は1年前にも、5Gを使った遠隔監視で運行するロボットを公道で走らせ、食事や飲み物を自動配送する実証実験を行いました。今回はその第2弾で、事業面・運用面・技術面の課題を抽出し、西新宿エリアでのサービス継続や他地域への拡大について検討していきます。
今回のプロジェクトでは、川崎重工業、ティアフォー、損保ジャパン、KDDIの4社が自動配送のサービスパッケージを提供。ユースケースを提供する企業として、フードデリバリーのmenuとともに武田薬品が参加しました。配送するのは血友病の処方薬と医療廃棄物で、武田薬品は病院・薬局との連携を支援する役割も担いました。
血友病では、患者が受診時に2~3カ月分の医薬品の入った大きな保冷バッグを持ち帰らなければならないことが負担となっており、それが治療の継続を困難にすることもあるといいます。オンライン診療・服薬指導とロボットによる自動配送サービスを組み合わせることで、そうした負担を軽減し、治療の継続性を上げていこうというわけです。
医療廃棄物も回収
今回の実証実験には、血友病患者の男性と東京医科大病院の医師・薬剤師が協力。病院近くのホテルの一室を患者の自宅に見立て、オンライン診療・服薬指導を行ったあと、薬剤を積み込んだロボットが病院を出発し、患者から医療廃棄物を回収して再び病院に戻る、という流れで行われました。
医師「ここ1カ月の体調はいかがですか。関節の違和感などありませんか。自己注射はうまく使えていますか」
患者「はい。特に問題はありません」
オンライン診療が終わると、通常なら患者は薬剤を受け取りに病院に足を運ぶことになりますが、実験では本人に代わってその役割を自動配送ロボットの「FORRO」が担います。開発したのは川崎重工で、「Changing Forwarding Robot」を略して命名しました。
自宅に見立てたホテルの一室でオンライン診療を受ける患者
患者の悩み解決
配送は、男性患者が普段通っている東京医科大病院からスタート。薬剤師がスマートフォンのQRコードをかざして荷物を収納するカーゴルームを開け、薬剤を積み込みます。ロボットは基本的に自立走行で、速度は人が歩くのとほぼ同じ。安全確保のため、信号を渡る際には遠隔操作で停止を指示することもあります。
自動配送ロボットに医薬品を積み込む東京医科大病院のスタッフ
患者宅(に見立てたホテル)に到着すると、患者が薬剤を取り出し、かわりに医療廃棄物を積み込んで、ロボットは再び東京医科大病院に戻ります。血友病では、血液凝固因子製剤を定期的に注射する治療を自宅で行うことが多く、針や注射器といった医療廃棄物は医療機関が回収して処分するのが原則。量的にもかさばるため通院時に持参するのも大変で、ロボットが運んでくれれば患者にとって大きな負担軽減になります。
参加した患者は「薬の処方も2カ月分となると重く、帰りにほかの場所に立ち寄ることもできない。関節が弱いので、ロボット配送によって荷物がなくなるのはありがたい」と話しました。
ロボットに医療廃棄物を積み込む患者
武田幹部「2030年には患者宅に運ぶ時代になる」
武田薬品は今回のプロジェクトへの参加を通じて、患者のPain Point=抱えている悩みや問題に対する解決策を見いだしたいと考えています。この日の記者会見に出席した武田薬品ジャパンファーマビジネスユニットの古田未来乃プレジデントは「2030年には患者の自宅に医薬品を運ぶ時代になる」と指摘。労働人口の減少で配送の担い手が不足することもあって、自動配送サービスへのニーズは高まると見ています。
血友病以外の疾患については、「通院の負担が大きい疾患やアイテム数が多いケースではメリットがより高まる」と予想。協力した東京医科大病院の医師も、「(廃棄物回収などで)患者さんには負担感があったので、ロボットが代行するのはいいこと。温度管理など安全面も問題なさそう」と歓迎の意向です。
社会実装の時期はまだ明確になっていませんが、5Gの通信網としての環境整備がどこまで進むかといった点や、通信障害への対応などが今後の焦点になりそうです。参画企業が出資に見合ったリターンを得られるのかといった、事業性への見通しもか欠かすことができない視点です。
自動配送では患者の身体的負担の軽減や、廃棄物との非接触が保たれるとともに、薬剤や廃棄物の追跡も可能となります。こうした取り組みを通じて地域医療に貢献していくことも、製薬企業の存在価値の1つとなってくるでしょう。