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どこまで患者に近づけるか|鼎談連載「DXの向こう側」(2)

新型コロナウイルスの拡大で一気に加速すると言われているデジタルトランスフォーメーション(DX)。テレワークが進み、デジタルチャネルを通じた営業活動が広がるなど、デジタル化が遅れていると言われる製薬業界にも変化が見え始めました。製薬業界では今、DXに対してどのような動きがあり、その先にはどんな世界が待っているのか。デロイト トーマツ コンサルティングのコンサルタントと議論します。

 

医療機関の外にいる患者にも価値提供

前田雄樹(AnswersNews編集長):服薬支援や副作用管理など、近年、患者向けの治療支援サービスを提供する製薬企業が増えていますね。

 

眞砂和英(デロイト トーマツ コンサルティング・マネジャー):はい。われわれコンサルティングファームにも、製薬企業から「患者サポートプログラムを考えてくれないか」という依頼が多く寄せられています。

 

前田:どんな背景があるのでしょうか?

 

眞砂:医療の最大の問題としてあるのが、医療機関の外にいる患者さんのことは医療機関もわからないということです。患者さんの状態や服薬状況は、医療機関に来ない限り把握できない。これが介入の遅れや治療からの脱落を生み、医療のムダにもつながっていることは、社会的にも課題となっています。

それが近年、デジタル技術の進歩によって、医療機関の外にいる患者さんの状態を把握し、必要に応じて介入することができるようになってきました。製薬企業はこれまで、医療機関の外にいる患者さんや治療から脱落してしまった患者さんに価値を提供する手段を持っていなかったわけですが、デジタルの活用によってそうした手段を持てるということで、製薬各社の動きも活発化しています。

 

前田:お2人が特に注目している取り組みはありますか?

 

眞砂:1つは、武田薬品工業が今年5月から神奈川県と共同で行っている臨床研究。これは、パーキンソン病患者の症状をウェアラブルデバイスと専用のスマートフォンアプリを使ってモニタリングし、オンラインで診療や服薬指導を行うものです。パーキンソン病患者にとって通院は大きな負担で、症状の頻度や程度を医師に的確に伝えるのも難しい。こうした課題をデジタルで解決し、医療機関に行かなくても自宅で治療を継続できるようにすることを目指しています。

もう1つは、ノバルティスファーマが行っている慢性眼疾患患者に対する通院支援プログラムです。配車予約・送迎サービスによって、移動が困難な患者の通院をサポートし、治療継続率を向上させることを目指しています。こちらは、国土交通省の「日本版MaaS推進・支援事業」に採択されており、本格的な導入に向けた検証が行われる予定です。

 

増井慶太(デロイト トーマツ コンサルティング・執行役員):アストラゼネカ、アムジェン、グラクソ・スミスクラインなどの外資勢に加えて、テルモなどの医療機器メーカーが行っている、オンライン診療・オンライン服薬指導の活用に向けた検証プログラムに注目しています。新型コロナウイルスによってニーズが顕在化しており、受診したくてもできない患者にどう医療を提供するのか、どう治療を続けてもらうのかというところは、これから非常に重要なポイントになると考えています。

 

目指すべき患者サポートプログラムとは

前田:製薬企業の患者サポートというと、以前は「疾患情報を提供するサイトを作りました」とか「服薬支援のアプリを作りました」といったものが中心でしたが、最近はかなり幅が広がってきていますね。

 

眞砂:目指すべきは、さまざまなサービスをワンストップで提供できるような患者サポートプログラムです。「服薬支援だけ」「副作用管理だけ」ではなく、継続的に服薬を支援しながら重症化や副作用の予兆をとらえ、最適なタイミングで最適な医療機関につなげる。そうした包括的な支援が真の患者サポートプログラムだと考えています。最適なタイミングで介入できれば治療効果も最大化できますし、医療資源の効率的な活用にもつながります。

 

【包括的な患者サポートプログラムの図解】 服薬状況のモニタリングや遠隔診療による相談、医療機関への通院手段の提供まで、包括的に支援するサービスを提供 |(治療支援サービスを中心に) <通院支援の提供> ・必要に応じて配車予約 <患者> ・服薬状況の連携/打ち合わせ ・副作用などへの対処法のアドバイス ・副作用などの兆候の把握と医療機関への受診アラート <医療施設> ・重症化などの兆候の連携/医療機関への受診勧奨 <製薬企業> ・お役立ち情報の提供/相談窓口提供 <患者―医療施設間> ・遠隔治療の受診 ・治療・処方 |※デロイトの資料をもとに作成

 

顧客は誰?

前田:患者や社会にとっての意義はよくわかりますが、製薬企業がそこまでやる必要があるのかという指摘もあるかと思います。ビジネスにはどんなプラスの影響があるんでしょうか。

 

眞砂:患者サポートプログラムは、経営にも大きなインパクトがある取り組みです。慢性疾患の治療継続率が低いというのは皆さんよくご存知かと思いますが、例えば緑内障の場合、治療開始の1年後には4割の人が脱落してしまうというデータもあります。この4割が患者サポートプログラムによって治療を継続すれば、その売り上げは決して小さくありません。残った6割でシェアを奪い合うよりもよっぽど効率的で、製薬企業にとっては投資対効果の高い施策と言えます。

 

増井:ヘルスデータを取得し、それを新ビジネスの創出や既存ビジネスの価値向上につなげていくという点も重要です。どこまで使えるかは難しいところもありますが、得られたデータを研究開発に活用したり、医薬品の枠を超えた新しい事業を創出したり。患者を起点としたデータ駆動型のビジネスに展開していくことも狙いとしてはあります。

 

前田:患者にどこまで近づけるのか、ということが1つ大きなポイントになりそうです。

 

増井:「顧客」の定義が、「医療従事者・医療施設」から「患者」へと変わってきているということだと思うんですよね。患者さんと直接タッチするポイントをつくらないと、患者サポートもできないし、患者さんのデータも公共的に活用できない。「ペイシェント・セントリシティ」という言葉もバズワードになっていますが、それがスローガンではなく、リアルなものとして出てきたのが最近の包括的な患者サポートプログラムだと見ています。

医師は処方の決定権者として重要なステークホルダーですが、最終的なユーザーは患者さん。「顧客って誰だっけ?」ということは、きちんと考えないといけないんだと思いますね。

 

【医療に対するニーズの広がり】(予防・セルフケア/診断・治療/予後・モニタリング) <医療機関・医師> ■高リスク群を見極め早期に介入することで、罹患リスクを低減したり、重症化リスクを抑制したい /■病気を早く・簡単に治したい■安全で最適な診断/治療を行いたい■利便性の高い医療を行いたい /■治療後の再発・重症化を防止したい■中長期的な治療効果を確認したい <保険者> ■高リスク群を見極め早期に介入を開始することで、将来の医療費を抑制したい /■経済性の高い治療法で治療費を抑えたい■最先端の医療、医療行為以外のサービスも提供し、加入者満足を高めたい/■再発・重症化の抑制、早期の発見・介入により、医療費を抑制したい <患者> ■正しい方法で予防したい■毎日を幸せに、長生きしたい■自分が将来病気になるかを知り、可能な範囲で備えたい /■自分の疾患について正しく知り、医師と相談のもと自分に適した治療を受けたい■医療費を安く抑えたい /■病気を再発させたくない■自分の望む療養場所/施設を選びたい■早く普通の生活に戻りたい |※デロイトの資料をもとに作成

 

規制がネックに

眞砂:ただ、そこでネックになるのが、プロモーションに関する規制です。規制を変えていかなければ、製薬企業が患者にとって本当に価値のあることを提供していくのは難しいと感じています。

 

増井:世の中に求められていることと、規制で許されていることの間に乖離があって、結局のところ患者のためになっていないという面は確かにあります。本来的に規制は患者を守るために存在すると考えていまして、プライバシーやセキュリティを担保しつつ、患者さんとインタラクトできる新しいスキームを作っていかないと、DXは進みません。

 

前田:ほかに課題として感じていることはありますか?

 

眞砂:これも規制の話なんですが、発症や重症化を予測するソフトウェアへの規制の整備が遅れているのは気がかりです。先ほどお話しした包括的な患者サポートプログラムでは、適時適切な介入を行う上で、精度高く発症や重症化の予兆をとらえることが肝になります。欧米はこうしたソフトウェアを明確に医療機器と位置付けて規制の対象にしていますが、日本はそうなっていません。

例えば、米国ではアルツハイマー型認知症の発症を予測するアプリが医療機器として扱われていますが、日本ではこうしたアプリが臨床試験を経ずに無料で配布されているケースもあります。質の低いアプリが出回れば、精度よく予兆を捉えることができなくなり、治療効果が高まるどころか害しかないということになりかねません。

 

製品と切り離すことが必要

前田:患者サポートプログラムの重要性は理解しますが、一方で乱立するのも考えものだと感じています。複数の製薬企業が協力してプログラムを構築し、どのメーカーの薬を飲んでいても同じサポートが受けられるようになると、患者にとっては理想的だと思うのですが、いかがでしょうか。「服薬支援アプリ多すぎ!」ってなってませんか?

 

増井:確かにそういう面はあると思いますし、複数の製薬企業や医療機器メーカーが協力してペイシェント・ジャーニーを支えていこうというプロジェクトも走っています。

 

眞砂:私は、患者サポートのソリューションでもお金をとっていけばいいと思っています。ほかのメーカーにとって使うメリットがあるなら、しっかりと使用料をとって、一緒になって患者サポートをしていけばいい。

 

増井:患者さんのことを考えると、「それぞれのメーカーがバラバラにやって意味あるんだっけ」というのはありますよね。患者が各社のアプリをいくつもスマホに入れて使うとは思えません。

 

眞砂:患者さんの話を聞くと、「日常生活が」とか「家族との関係性が」といったところが治療の継続にかなり影響してるんですが、そういったところへのサポートって製品に紐付けるとできないんですよね。製品に紐付けると「それうちの部署がやるんだっけ」とか「そのお金で講演会やったほうがいい」といった発想になりがちです。

だから、製品から切り離して患者さんのニーズをベースにサポートプログラムを検討できる部署をつくり、そこにきちんと予算と権限を与えることが必要になってくると思います。「ペイシェント・ファースト」を掲げながら、まだまだできていないのは、やる体制になっていないからです。

 

増井 慶太(ますい・けいた)=写真左。デロイト トーマツ コンサルティング合同会社執行役員/パートナー。米系戦略コンサルティングファーム、独系製薬企業(経営企画)を経て現職。「イノベーション」をキーワードに、事業ポートフォリオ/新規事業開発/研究開発/製造/M&A/営業/マーケティングなど、バリューチェーンを通貫して戦略立案から実行まで支援。東京大教養学部基礎科学科卒業。

眞砂 和英(まさご・かずひで)=写真右。デロイト トーマツ コンサルティング合同会社マネジャー。製薬企業で11年間、研究などに従事後、現職。医療業界を中心に、製品戦略策定や研究開発支援など幅広いプロジェクトを経験。最近は、異業種のライフサイエンス&ヘルスケア領域への参入や、製薬企業におけるデジタル技術を用いた患者支援プログラムの策定を中心に支援。大阪大大学院理学研究科修了、神戸大大学院経営学研究科修了(MBA)。

 

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