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“患者視点の創薬”に製薬4社結集…広がる「ペイシェント・エンゲージメント」の概念

更新日

穴迫励ニ

製薬4社が共催したヘルスケア・カフェの様子(武田薬品提供)

 

製薬企業が創薬活動全般にわたって患者と深い関係を構築する動きが顕在化しています。9月28日には国内4社が共催する「Healthcare Café」(ヘルスケア・カフェ)が発足。研究開発の初期段階から患者との交流を通じて真のニーズを掘り起こし、新薬開発のヒントを得ようという試みをスタートさせました。その背景と期待する成果とはどのようなものでしょうか。

 

 

研究段階に焦点

ヘルスケア・カフェを立ち上げたのは、臨床試験への患者参画についてかねてから情報交換してきた武田薬品工業、第一三共、協和キリン、参天製薬の4社。病気や障害を抱える患者と製薬企業の社員が膝詰めの対話を通じて相互理解を深めることで、革新的な医薬品開発につなげるのが最終的なゴールです。

 

こうした取り組みの源流は英国のPPI(Patient Public Involvement)*にあり、日本ではAMED(日本医療研究開発機構)が「医学研究・臨床試験における患者・市民参画」と定義しています。「ペイシェント・セントリシティ」(患者中心)や「ペイシェント・アドボカシー」(患者支援)などといった表現もよく見られますが、ヘルスケア・カフェでは「患者と協働する」という観点から「ペイシェント・エンゲージメント」を掲げています。

 

創薬における患者との協働は欧米が先行していて、日本ではまだ緒についたばかり。試行錯誤しながら進んでいるのが現状です。これまでは臨床試験への患者参画を志向したものがほとんどでしたが、ヘルスケア・カフェは臨床開発前の研究段階に焦点を当てているのが特徴。世界的にもあまり例がないとみられ、活動自体が黎明期にある中でユニークかつ一歩踏み込んだものとなっています。

 

【Healthcare Caféの枠組み】最終ゴール:早期研究段階から患者のニーズを知り、患者にとって価値が大きい薬を創出し、届ける←研究者のWin モチベーション アンメットニーズ、気付き ノウハウの蓄積、創薬への還元|←患者・家族のWin 経験を役立てる 創薬を知る、創薬への希望|※第1回Healthcare Café(2022年9月28日)資料をもとに作成

 

ヘルスケア・カフェの運営は4社による持ち回りで、初年度は3カ月に1回のペースで開催する予定。取り上げるテーマ(疾患)は担当する企業に任されていて、回を重ねることで患者参画のノウハウを蓄積し、ベストプラクティスを見いだしていきたい考えです。

 

第1回のテーマは「聴覚障害」

武田薬品が運営を担当した9月28日の第1回で取り上げたのは聴覚障害。人口の5%が罹患しているといわれますが、共催4社も含めて新薬開発のターゲットとする企業が極めて少ない領域です。それでもこの疾患を取り上げた理由について武田薬品は、「原因の追究が進み、製薬業界として社会実装に取り組むべきタイミングに来ている」と説明。当事者や家族の話を聞くことで、研究者の創薬アプローチに一考を投じたいという思いがあったようです。

 

この日はまず、順天堂大医学部耳鼻咽喉科学講座の神谷和作准教授が「iPS細胞で難聴の医薬品をつくる」をテーマに講演。耳の構造や難聴の種類、治療薬開発のコンセプトなどを説明しました。その後のパネルディスカッションでは、開催に先立って実施された座談会を振り返り、聴覚障害の当事者(患者)と企業の研究開発担当者が意見や感想を述べ合いました。

 

9月28日に開かれたヘルスケア・カフェの様子(武田薬品提供)

 

当事者からは「現在は補聴器しかなく、依然として治療薬へのニーズがある」「(手術ができない)内耳への注射は侵襲性を心配するが、治療効果や通院頻度との兼ね合い次第では受け入れられる」「(企業は当事者の現状を)熱心に知ろうとしてくれた」「治療薬への期待を感じた。医薬品だけでなく医療機器や検査方法も含め横断的に考えるべき」といった声が聞かれました。

 

ディスカッションには講演した神谷准教授と、同大の池田勝久名誉教授(同大医学部付属江東高齢者医療センター特任教授)も参加。神谷氏は、創薬には産学連携が必要にもかかわらず、双方のニーズが合わないなどがハードルになっている一方で、疾患の現状を知ることで互いの距離を縮めることが可能だとの見方を示しました。池田氏は「難聴という創薬には向かない疾患が、ようやく日の目を見て社会実装へと進んでいくことを望む」と述べています。

 

当事者の真のニーズに触れる

医師たちのこうした感想は、医薬品開発の初期段階から患者の声に耳を傾けることの重要性を浮き彫りにしています。製薬企業の研究者・開発担当者は、患者との対話によって専門家の話や文献では知り得なかった疾患の実態や真のニーズに触れることができます。

 

患者との協働が創薬に新たな発想をもたらし、画期的新薬の誕生という成果を生むまでには時間がかかるかもしれません。ただ、新薬開発はマーケット・インの視点なくしては成り立たない時代に入っており、そうした中で「患者のために」から「患者とともに」へと舵が切られています。

 

第一三共が担当する第2回は、がんを取り上げる予定です。がんは死因のトップで、新薬開発が最も活発な分野。新たなモダリティの活用も進んでおり、第一三共は抗体薬物複合体(ADC)に力を入れています。社会的なニーズも大きい重篤な疾患に対し、開発初期から患者とどう関わることができるのか注目です。

 

*PPI(Patient Public Involvement)=「患者・市民のために、または患者・市民について研究が行われることではなく、患者・市民とともに、または患者・市民によって研究が行われること」

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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