2021年に日本と米国、欧州で承認された主な新薬などを領域別にまとめました。1回目は「がん(固形がん、血液がん)」「感染症」「ワクチン」「循環器・代謝・内分泌」「腎」の5領域です。(2回目〈神経、血液、皮膚、眼、その他〉はこちら)
固形がん
固形がんの領域では、非小細胞肺がんでファースト・イン・クラスとなる分子標的薬の承認が目立ちました。
中でも注目されたのは、米アムジェンのKRAS G12C阻害薬「ルマケラス」。21年5月に米国で承認を取得し、今年1月には日本と欧州でも承認。既存のEGFR阻害薬でほとんど効果が得られない「EGFRエクソン20挿入変異」に対しては、「Rybrevant」(米ヤンセン)と「Exkivity」(武田薬品工業)が米国で承認されました。
Rybrevantは、固形がんでは初のバイスペシフィック(二重特異性)抗体で、EGFRとMETを標的とした薬剤。武田が米アリアド買収で獲得したExkivityは経口のチロシンキナーゼ阻害薬です。同じくアリアドが創製したALK阻害薬「アルンブリグ」は、日本でも昨年、米国から4年遅れで承認されました。
婦人科系がんでは、新たに米シーゲンの子宮頸がん治療薬「Tivdak」(米国で承認)と英グラクソ・スミスクライン(GSK)の子宮内膜がん治療薬「Jemperli」(米欧で承認)が承認。Tivdakはシーゲンの微小管阻害薬とデンマーク・ジェンマブの組織因子を標的とする抗体との複合体で、日本ではジェンマブが臨床第3相(P3)試験を進めています。
このほか、小野薬品工業のグレリン様作用薬「エドルミズ」が、初のがん悪液質治療薬として日本で承認を取得。海外では、スイス・ヘルシンがP3試験を実施中です。日本では、第一三共が東京大医科学研究所と開発した腫瘍溶解性ウイルス「デリタクト」なども承認されました。
血液がん
MeijiSeikaファルマが日本で承認を取得した「ハイヤスタ」は、中国で創製されたヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬。エピジェネティックな作用を持ち、がんの増殖を防ぐほか、免疫調節作用が期待されています。同じく中国で創製されたBTK阻害薬「Brukinsa」は、欧州で承認されました。
日本では、同「カルケンス」(英アストラゼネカ)や多発性骨髄腫治療薬「ダラザレックス」の皮下注製剤「ダラキューロ」(米ヤンセン)、抗CD79b抗体薬物複合体(ADC)「ポライビー」(スイス・ロシュ)が発売されたほか、エーザイが「レミトロ」「タズベリク」の2剤の承認を取得。タズベリクは米エピザイムが創製したEZH2阻害薬で、米国では類上皮肉腫の適応も持っています。
CAR-T細胞療法では、第一三共が日本でCD19を標的とする「イエスカルタ」を発売しました。米ブリストル・マイヤーズスクイブは、19年のセルジーン買収で獲得した2つのCAR-T細胞療法の承認を取得。CD19を標的とする「ブレヤンジ」が日本と米国で、BCMA(B細胞成熟抗原)を標的とする「アベクマ」が日米欧でそれぞれ承認されています。
CD19を標的とした治療薬では、初のADCとなる「Zynlonta」が米国で承認。欧州でも申請中で、日本では今年1月、田辺三菱製薬が開発・販売権を取得しました。
感染症
いまだ終息が見えない新型コロナウイルス感染症では、期待の経口抗ウイルス薬「ラゲブリオ」(米メルク)が日本と米国で、同paxlovid(米ファイザー)が米国で承認。paxlovidは欧州でも今年1月に承認され、日本でも申請中です。中和抗体製剤では、GSKの「ゼピュディ」(日米欧で承認)、や韓国セルトリオンの「Regkirona」(欧州で承認)、ロシュ/米リジェネロンの抗体カクテル製剤「ロナプリーブ」(日欧で承認)が承認されました。
HIV感染症では、英ヴィーブヘルスケアが3つの新薬を投入。月1回投与の2剤レジメン「Cabenuva」(米国で承認)と、多剤耐性に対する「Rukobia」(欧州で承認)、予防(PrEP療法)に使用する「Apretude」(米国で承認)が承認されました。Cabenuvaは日本でもP3試験を実施中です。
このほか、日本では、米欧で長らく使われてきた持続性ペニシリン製剤「ステルイズ」(ファイザー)が承認を取得。梅毒の国内患者数は2010年から増加傾向にあり、早期梅毒に単回投与で効果を示す同薬は有効な治療選択肢として期待されています。米インスメッドは、難治性肺MAC(マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス)症治療薬「アリケイス」の承認を取得し、日本市場に本格参入しました。
ワクチン
新型コロナウイルスでは、2020年にいち早く実用化にこぎつけたmRNAワクチン「スパイクバックス」(米モデルナ)と同「コミナティ」(ファイザー)が21年に日本でも承認されました。
さらに、21年にはウイルスベクターワクチン「バキスゼブリア」(英アストラゼネカ)が日欧で、米ヤンセンのウイルスベクターワクチンが米欧で使用可能になりました。年末には、組換えタンパクワクチンとして初めて米ノババックスの「Nuvaxovid」が欧州で承認。同ワクチンは日本と米国でも申請中です。
米メルクの「Vaxneuvance」は、侵襲性肺炎球菌感染症を予防する15価ワクチン。従来の13価ワクチンに、疾患負荷の大きい2つの型を加えており、新たな選択肢として期待されています。日本では昨年10月に申請しました。
循環器・代謝・内分泌
ライソゾーム病のムコ多糖症II型(ハンター病)に対して、中枢神経症状に有効性を示す「ヒュンタラーゼ」(英クリニジェン)と「イズカーゴ」(JCRファーマ)が日本で承認されました。
先駆け審査制定制度の対象であるイズカーゴは、JCR独自の血液脳関門通過技術を適用した静注剤。昨年10月にはグローバル展開で武田薬品工業と提携しました。今年、欧米でグローバルP3試験を開始する予定です。
同じくライソゾーム病のポンペ病には、酵素補充療法に使用される米ジェンザイム/仏サノフィの「ネクスビアザイム」が日本と米国で承認。乳児型ポンペ病や遅発型ポンペ病の新たな標準治療として期待されます。
米アルナイラムが開発した急性肝性ポルフィリン症に対するsiRNA核酸医薬「ギブラーリ」は、昨年8月に日本で承認を取得しました。同社創製の同「Leqvio」は、スイス・ノバルティスが米国で昨年末に承認。LDLコレステロールを低下させる作用を持っており、維持期には年2回の投与で済むのが特徴です。欧州でも承認済みで、日本ではノバルティスがP2試験を行っています。
肥満症では、デンマーク・ノボノルディスクのGLP-1受容体作動薬「Wegovy」が米国で、米リズムのMC4受容体アゴニスト「Imcivree」が欧州で承認されました。副腎からのコルチゾール分泌が過剰となることで中心性肥満などの症状を呈するクッシング症候群には、副腎皮質ホルモン合成阻害剤「イスツリサ」(伊レコルダティ)が日本で承認。合併症の内因性高コルチゾール血症には米ゼリスの「Recorlev」が米国で承認されました。
このほか、2型糖尿病治療薬として、大日本住友製薬が仏ポクセルから導入した「ツイミーグ」が世界に先駆けて日本で承認。同薬はミトコンドリアに作用し、インスリン分泌と血糖降下作用を示す新規の作用機序を持っており、欧米では2型糖尿病に伴う慢性腎臓病の適応でP3試験を実施中です。
腎
カナダ・オーリニアのカルシニューリン阻害薬「Lupkynis」は、全身性エリテマトーデスによって引き起こされるループス腎炎の治療薬。欧州では昨年、導出先の大塚製薬が申請を済ませており、日本でも同社が権利を持っています。
バイエルの「Kerendia」は、2型糖尿病に伴う慢性腎臓病(CKD)治療薬として米国で昨年7月に承認されました。同薬は、非ステロイド型の選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬。CKDの進行や心血管障害につながるとされるMRの過剰活性化を抑えると考えられています。日本と欧州でも今年承認される見通しで、糖尿病を合併していないCKDや心不全への適応拡大を目指し、それぞれ国際共同P3試験を進めています。
CKDの周辺では、透析下の皮膚そう痒に対する「Korsuva」(米カラ)が米国で、二次性副甲状腺機能亢進症に対する「ウパシタ」(三和化学研究所)が日本で承認を取得しました。Kerendiaはカラが創製したκオピオイド受容体作動薬。内因性オピオイドはかゆみの発現に関与するとされており、オピオイド受容体のサブタイプの一つを活性化させることでかゆみを抑える作用を持っています。欧州でも近く承認される見通しで、日本では今年1月、開発を行う丸石製薬とキッセイ薬品工業がP3試験の主要評価項目を達成したと発表しました。
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