国内主要製薬会社12社の2019年度の海外売上高比率は、前年度から6.4ポイント上昇して60.1%に達しました。シャイアー買収で海外売上高が急増した武田薬品工業は80%を超え、中外製薬や小野薬品工業は初めて3割を突破。各社とも主力製品が好調で、近年力を入れる中国での売り上げも拡大しています。
武田は 売り上げの8割が海外に
AnswersNewsが国内の主要製薬会社12社の業績を集計したところ、2019年度の海外売上高は12社の合計で前年度から29.8%増加しました。スイス・ノバルティスと多発性硬化症治療薬「ジレニア」のロイヤリティ支払いをめぐって係争中の田辺三菱製薬や、スイス・ロシュからの抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」のロイヤリティが減少した塩野義製薬を除く10社が前年度から海外での売り上げを伸ばし、うち7社は2ケタ増収。売上高に占める海外の比率は前年度から6.4ポイント上昇して60.1%に達しました。
海外売上高トップの武田薬品工業は、昨年1月に完了したシャイアー買収が通期で寄与し、海外売上高は2兆6984億円で前年度から76.8%増加。海外売上高比率は前年度比9.2ポイント増の82.0%まで上昇し、国内の比率は2割を切りました。
19年度、主要12社の海外売上高が3割近く伸びたのも武田が要因です。武田を除く11社で見てみると、海外売上高は7.9%増、海外売上高比率は50.0%(前年度比2.1ポイント増)となります。
アステラスも7割突破
海外売上高で武田に次いで2位のアステラス製薬は、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」が好調で2.0%の増収。海外売上高比率は3.8ポイント上昇して73.4%となりました。抗精神病薬「ラツーダ」の販売が拡大する大日本住友製薬も海外売上高比率が6割を超えています。
海外売上高を前年度から大きく伸ばしたのは、武田のほか、中外製薬(53.0%増)や協和キリン(35.9%増)、参天製薬(31.7%増)など。中外は、関節リウマチ治療薬「アクテムラ」や抗がん剤「アレセンサ」のスイス・ロシュ向けの輸出や、血友病治療薬「ヘムライブラ」のロイヤリティが増加。協和キリンは低リン血症治療薬「クリースビータ」が好調です。抗がん剤「レンビマ」がブロックバスターとなったエーザイも20.2%の増収で、10年度以来9年ぶりに海外売上高比率が50%を超えました。
「レンビマ」「サムスカ/ジンアーク」など1000億円突破
好調な海外事業を支えるのが、各社のグローバル製品です。
武田は主力の潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」が29.0%増の3472億円に達しました。同薬の潰瘍性大腸炎での患者シェアは米国で30.6%(19年12月時点)、欧州・カナダで24.7%(20年3月時点)を占め、18年11月に発売した日本でも19年9月時点で12.3%まで上昇。多発性骨髄腫治療薬「ニンラーロ」や抗うつ薬「トリンテリックス」も好調で、2割を超える売り上げ増となっています。
アステラスは、イクスタンジが20.1%増で4000億円に到達。早期ステージでの使用が広がり、会社の計画を上回る売り上げ拡大となりました。白血病治療薬「ゾスパタ」も上々の滑り出しで、20年度は新たに発売となった欧州でも売り上げへの貢献を期待しています。
協和キリンはクリースビータが好調
大塚HDはグローバル4製品が軒並み伸び、抗精神病薬「エビリファイメンテナ」(1018億円、15.7%増)と利尿薬「サムスカ/ジンアーク」(1490億円、65.2%増)が1000億円の大台を突破。20年度は抗精神病薬「レキサルティ」も1000億円を超える見通しです。エーザイは抗がん剤「レンビマ」(1119億円、78.9%増)がブロックバスターとなり、第一三共は抗凝固薬エドキサバン(国内製品名・リクシアナ)が好調を維持。協和キリンは初のブロックバスター候補「クリースビータ」が322.1%増の325億円を売り上げました。
中外製薬は、いずれも自社創製の▽関節リウマチ治療薬「アクテムラ」▽抗がん剤「アレセンサ」▽血友病治療薬「ヘムライブラ」――が好調。スイス・ロシュの決算によると、3製品の19年の世界売上高は、アクテムラが約2588億円、アレセンサが約981億円、ヘムライブラが約1546億円に達しました。
中国が2割増
グローバル製品の動向とともに注目したいのが、各社の中国事業です。経済成長や高齢化に伴う医薬品需要の増大と、薬事規制の緩和を背景に、近年、投資を拡大する企業が増加。連結売上高に占める割合が1割を超えた企業もあり、存在感は増しています。
主要12社のうち中国での売上高が把握できた6社を集計したところ、中国売上高は合計で前年度から20.1%増加しました。
売り上げが最も大きかったのは770億円(16.1%増)のエーザイ。レンビマが大きく伸び、売上高全体に占める中国の割合は11.1%となりました。武田はニンラーロなどの貢献で68.8%の増収。第一三共も19.6%増と高成長を記録しました。
各社は今後も中国事業を強化していく方針で、武田は向こう5年で15品目以上の新製品を発売予定です。アステラスは今年3月にイクスタンジを発売し、ゾスパタも同月に申請。ほかにも複数の新薬を開発しており、2020年代後半に中国事業で2000億円規模まで拡大させることを目指しています。塩野義は、中国最大の保険会社である中国平安保険グループとの協業で中国市場を攻める構えです。
(前田雄樹)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・アステラス製薬
・協和キリン
・武田薬品工業
・参天製薬
・エーザイ
・小野薬品工業
・中外製薬
・大日本住友製薬
・第一三共
・大塚ホールディングス(大塚製薬/大鵬薬品工業)
・田辺三菱製薬
・塩野義製薬