ウイルスを使ってがんを治療する「腫瘍溶解性ウイルス」が、国内でも今年から来年にかけて相次いで承認される見通しとなってきました。タカラバイオは今年3月、「C-REV」をメラノーマの適応で申請。第一三共は、先駆け審査指定制度の対象品目である「G47Δ」を5月にも申請する予定で、年内の承認が見込まれています。
国内では第一三共やタカラバイオが開発中
腫瘍溶解性ウイルス(Oncolytic Virus)とは、がん細胞だけで増殖し、これを破壊するウイルスのことです。使われるウイルスは、風邪を引き起こす「アデノウイルス」や口唇ヘルペスの原因となる「単純ヘルペスウイルス」など。正常細胞では増殖しないよう遺伝子改変が施されており、正常細胞を傷つけることはありません。高い有効性と安全性を兼ね備える治療法として期待されています。
ウイルスを使ってがんを治療するというアイデア自体は古くからありましたが、近年、遺伝子工学技術の進歩に伴って腫瘍溶解性ウイルスの開発が活発化しています。2015年には米アムジェンの「IMLYGIC」(一般名・talimogene laherparepvec)が欧米で承認。米メルクは、18年のビラリティクス(オーストラリア)買収で「CAVATAK 」(coxsackievirus)を獲得し、悪性黒色腫を対象に臨床第2相(P2)試験を進めています。
国内では、アステラス・アムジェン・バイオファーマがIMLYGICの開発を進めているほか、タカラバイオや第一三共、オンコリスバイオファーマが臨床試験を実施中。アステラス製薬は18年3月、鳥取大から免疫を活性化する遺伝子を搭載した腫瘍溶解性ウイルスを導入しました。
G47Δは年内承認の可能性 C-REVも申請中
タカラバイオは今年3月、開発を進めていた腫瘍溶解性ウイルス「C-REV」(一般名・canerpaturev、旧称・HF10)を再生医療等製品として日本で申請しました。適応は悪性黒色腫(メラノーマ)で、腫瘍溶解性ウイルスの申請は国内初。第一三共は東京大などの研究チームが開発した「G47Δ」を今年5~6月に申請する予定です。
G47Δは、世界に先駆けて日本で承認取得を目指す画期的新薬を承認審査で優遇する「先駆け審査指定制度」の対象品目。予定通り申請されれば、年内に承認されるとみられます。
タカラバイオのC-REVは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の弱毒化株。自然変異型ウイルスで、遺伝子改変は加えられていません。
切除不能または転移性の悪性黒色腫患者28人を対象に行った国内P2試験では、免疫チェックポイント阻害薬の抗CTLA-4抗体「ヤーボイ」(イピリムマブ)との併用で、24週最良総合効果が7%、病勢コントロール率が56%。この試験では、対象患者の89%が抗PD-1抗体単剤での治療歴があり、C-REVは抗PD-1抗体による治療で効果が得られなかった悪性黒色腫患者に対する選択肢となる可能性があります。
タカラバイオはC-REVの日本国内での開発・商業化で大塚製薬とライセンス契約を結んでおり、承認取得後はタカラバイオが製造、大塚が販売を行います。
一方、第一三共が近く申請を予定しているG47Δ(第一三共の開発コードは「DS-1647」)は、遺伝子改変を加えたHSV-1。東大の藤堂具紀教授(脳腫瘍外科)らの研究グループが膠芽腫を対象に行った医師主導治験(P2)では、中間解析の結果、治療開始してから1年間生存した患者の割合が92.3%と既存治療(15%)を大きく上回りました。申請は悪性神経膠腫の適応で行う予定で、G47Δは国内初の腫瘍溶解性ウイルスとなる見通しです。
C-REVは膵臓がんでも国内P1試験を行っており、G47Δも前立腺がんや嗅神経芽細胞腫、悪性胸膜中皮腫で臨床試験を実施。オンコリスバイオファーマは、アデノウイルス5型を使った「テロメライシン」(開発コード「OBP-301」)を、食道がんなどの適応で開発しています。
(前田雄樹)
製薬業界 企業研究 |
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