製薬企業でリストラが加速しています。今年に入り、協和発酵キリンと鳥居薬品が相次いで早期退職の募集を発表。エーザイが昨年募集した早期退職には想定の3倍の応募がありました。国内市場の停滞を背景に、各社とも事業構造の改革を迫られています。
協和キリンと鳥居薬品 希望退職の実施を発表
「製薬業界、しかも内資のメーカーでこれだけ早期退職が続いたことはかつてなかった。まさに異常事態だ」。ある製薬業界関係者が苦々しく語ります。
昨年以降、製薬業界にリストラの嵐が吹き荒れています。今年に入ってからも、すでに協和発酵キリンと鳥居薬品が希望退職者の募集を発表しました。
協和発酵キリンの希望退職は、今年4月1日現在で45歳以上かつ勤続年数5年以上の社員が対象(生産部門は除く)。同社の単体従業員数は4025人(2017年末時点)ですが、退職者の定員は定めていません。同社が希望退職者の募集を行うのは初めて。組織を効率化し、海外事業の加速と国内事業の基盤強化を図ります。
一方、鳥居薬品は、▽コーポレート部門・営業部門が今年4月1日付で勤続2年以上の社員▽製造・物流部門を除く技術部門が勤続2年以上かつ来年3月末時点で50歳以上の社員――が対象で、こちらも定員は定めていません(17年末時点の単体従業員数は1074人)。
鳥居薬品は、米ギリアド・サイエンシズとのライセンス契約解消により、売上高の3分の1を占める抗HIV薬の国内販売権を喪失。19年12月期は営業赤字を予想するなど、収益は大きく悪化する見通しです。希望退職者の募集に加え、来年4月の新卒採用を休止するなどして人員を適正化します。
新薬メーカーの従業員数 5年で4700人減少
製薬会社の人員は、ここ数年、減少の一途をたどっています。
AnswersNewsが東証1部上場製薬会社33社の有価証券報告書を集計したところ、17年度の単体従業員数は前年度から1214人(1.8%)減少。5年前の12年度と比べると1946人(2.8%)減っており、特に新薬メーカーでは5年で4686人(7.1%)減少しました。安定していると言われてきた製薬業界の雇用は大きく揺らいでいます。
エーザイは18~20年度に3年連続で希望退職を行う予定で、昨年12月の1回目の募集(退職日は今年3月末)には単体従業員数の1割弱にあたる300人が応募。当初想定していた100人を大きく上回りました。
特許切れによる抗菌薬の売り上げ減で医薬事業の業績が低迷している大正製薬ホールディングスも昨年、40歳以上を対象に定員を定めず早期退職を実施。連結従業員数の15%にあたる948人が昨年12月までに会社を去りました。アステラス製薬も今年度、600人規模の早期退職を行う方針を明らかにしています。
薬価制度改革 中小メーカーに厳しく
東京商工リサーチのまとめによると、18年に希望・早期退職者の募集を行った上場企業(全業種)は12社で、2000年の調査開始以来最低となった一方、100人を超える募集を行った企業数を業種別に見ると、医薬品が3社で最も多かったといいます。
各社がリストラを断行するのは、薬価の引き下げや後発医薬品の普及などにより国内の事業環境が厳しくなってきているからです。特に、昨年4月の薬価制度改革では、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象が大きく減少。長期収載品の薬価を中長期的に後発品と同じか近い水準まで引き下げる新ルールが導入され、21年度からは薬価の毎年改定がスタートします。
収益性の低下が各社の人員体制を直撃する中、最近の特徴として挙げられるのが、リストラの波が内資の中堅企業にまで及んできたことです。製薬業界では13年ごろから毎年のように早期退職が行われていますが、その中心は外資系企業や内資の大手・準大手クラスの企業でした。
昨年4月の薬価制度改革は、新薬創出加算の適用要件に国内での臨床試験実施数や新薬の薬価収載実績が盛り込まれるなど中小企業に厳しく、今後は国内の中堅メーカーでも人員削減に踏み切るところが増えてきそうです。
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