平成が終わり、新たな元号が始まる2019年は、日本の製薬業界にとっても大きな節目の年となりそうです。
武田薬品工業は年明け早々、シャイアー買収を完了し、日本から初めて世界トップ10入りするメガファーマが誕生。CAR-T細胞療法や遺伝子治療など、新規モダリティも相次いで承認される見通しです。まさに新時代の訪れを実感する1年になるでしょう。
武田 買収後の成長戦略に注目
2019年、製薬業界で最も注目されるであろうトピックの1つとして挙げられるのが、武田薬品工業によるアイルランド・シャイアー買収です。買収は1月8日に完了する予定で、武田はメガファーマとしてグローバル競争のスタートラインに立つことになります。
買収により武田の売上高は単純合算で約3.5兆円に拡大し、日本の製薬会社として初めて世界トップ10入り。武田は買収のメリットとして▽希少疾患への事業拡大▽米国でのプレゼンス向上▽研究開発投資の拡大▽収益力の向上――を挙げ、クリストフ・ウェバー社長も「グローバルな研究開発型バイオ医薬品企業のリーディングカンパニーへの変革」を目指すと繰り返し強調してきました。
ただし、日本企業として過去最大規模のM&Aはリスクと背中合わせ。巨額減損への不安は拭えません。
武田は今後、両社の統合作業と債務削減に向けたノンコア資産の売却を加速。売却する資産は100億ドル(1.1兆円)に及ぶ可能性があり、OTC事業などがその候補としてささやかれています。2014年6月の社長就任以来、重点領域の絞り込みや研究開発体制の再編を主導してきたウェバー社長ですが、手腕が問われるのはこれから。まずは買収後の成長戦略を明確に示すことが求められます。
後発品業界で大きなM&A?
一方、国内では、収益環境の悪化を受けて事業構造を見直す動きが続きそう。一足先に再編の機運が高まる後発医薬品業界では、3月いっぱいで富士フイルムファーマが解散。4月には日医工がエーザイ子会社のエルメッドエーザイを完全子会社化します。後発品業界は21年度から始まる薬価の毎年改定で大きな影響を受けるとみられており、今年から来年にかけてより大規模なM&Aが起こるとの見方も少なくありません。
新薬メーカーでは、長期収載品を切り離す動きが続くでしょう。大正製薬ホールディングスは6月下旬までに米ブリストルの仏OTC子会社UPSAの買収を完了し、OTC事業で海外展開を加速させます。18年4月に行われた薬価制度の抜本改革が製薬企業の経営を直撃する中、自社の強みや立ち位置を明確化し、そこに経営資源を集中的に投入する取り組みが求められています。
10月には消費税10%への引き上げに伴う薬価改定が行われます。改定率は薬価ベースでマイナス2.4%(市場実勢価格に基づく引き下げ分マイナス4.35%、消費税率の引き上げ分プラス1.95%)。夏ごろからは20年度薬価制度改革に向けた検討も本格化します。製薬業界側は、抜本改革で厳格化された新薬創出・適応外薬解消等促進加算の要件見直しなどを求めており、年末にかけて激しい議論が行われることになります。
「キムリア」承認へ 遺伝子治療やsiRNAも
2019年も注目の新薬が続々と登場します。CAR-T細胞療法や遺伝子治療、核酸医薬など新たな治療手段の承認が相次ぐ見通しで、モダリティ多様化の波はいよいよ市場にも押し寄せてきます。
新たながん免疫療法として注目されるCAR-T細胞療法では、ノバルティスファーマが「CTL019」(一般名・チサゲンレクロイセル、海外製品名・キムリア)を昨年4月に申請。今年前半にも承認される見込みです。
対象となるのは、▽CD19陽性再発・難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(小児を含む25歳以下)▽CD19陽性再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(成人)――の2つの血液がん。米国で5000万円を超える価格がつくなど、超高額な治療としても話題です。厚労省は国内の投与患者数を250人程度、市場規模を100~200億円程度と見込んでいます。
遺伝子治療の国内初承認も予想されます。神経難病の脊髄性筋萎縮症を適応とする「AVXS-101」で、昨年秋にノバルティスが申請しました。先駆け審査指定制度の対象に指定されており、ノバルティスは今年上半期の承認を期待しています。
核酸医薬では、アルナイラム・ジャパンが国内初となるsiRNAパチシランを、トランスサイレチン型家族性アミロイドーシスの治療薬として昨年9月に申請。同社は今年半ばの承認を期待しています。日本新薬は18年度中にデュシェンヌ型筋ジストロフィー向けのアンチセンス核酸医薬ビルトラルセンを申請予定。先駆け審査指定制度の対象品目で、予定通り申請にこぎ着ければ年内に承認される可能性が濃厚です。
ゲノム医療本格化
がん領域では、ゲノム医療が本格化する年になりそうです。
免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)は昨年12月、「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)固形がん」への適応拡大が承認。中外製薬が昨年12月に申請したROS1/TRK阻害薬エヌトレクチニブは、「NTRK融合遺伝子陽性の固形がん」の適応で今年前半の承認が見込まれます。いずれも、バイオマーカーに基づく臓器横断的な適応で、がん治療は臓器別から変異別へと大きく変わっていくことになります。
こうした変化を後押しするのが、複数のがん関連遺伝子変異を一括して調べるパネル検査。シスメックスの「OncoGuide NCC オンコパネルシステム」と中外製薬の「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」が保険適用される見通しです。
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今年はこのほか、医薬品の虚偽・誇大広告や不正製造に対する課徴金制度の新設を盛り込んだ医薬品医療機器等法(薬機法)改正案が通常国会に提出される予定。日本製薬工業協会(製薬協)のコード・オブ・プラクティスは1月1日付で改定版が施行され、「葬儀時の香典」や「カレンダー、ペン、メモ帳などの物品」を医療機関・医療関係者に渡すことが禁じられました。製薬企業のコンプライアンスも注目される年になるかもしれません。
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