米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、骨粗鬆症。新薬開発が停滞する中、最近、新薬につながりそうな発見が話題となっていますが、有望な新薬が出てくるのは10~20年先となりそうです。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
停滞する新薬開発 専門家が危惧
2010年の「プラリア」発売以降、医師から大きな期待を集めた骨粗鬆症治療薬の新薬候補が3つある。メルクのodanacatib、アムジェン/ UCBのロモソズマブ、そして米ラディウスヘルスabaloparatideだ。
3剤とも骨折リスク低下のデータは良好だったが、odanacatibは2016年に安全性の懸念から開発が中止され、ロモソズマブも心血管系の安全性で承認審査が保留状態にある。これまでのところ、販売にこぎ着けたのは唯一、abaloparatideだけだ。
Decision Resources Groupでは、キーオピニオンリーダーにインタビューを行い、骨粗鬆症治療薬の開発状況について意見を求めた。結果は、枯渇するパイプラインを危惧する声が圧倒的だった。
「この分野には、ロモソズマブとabaloparatide以外に有力なパイプラインが見当たらない。これは困ったことだ。私が知っている企業はすべて、この領域から撤退してしまった。これは、骨粗鬆症にはすでに薬剤が十分あると彼らが考えているからだと思う。企業はおそらく、承認を得るには多額の投資をしなければならないと考えているだろう。だから、パイプラインは枯渇してしまっている」(米国の医師)
莫大な開発費用 開発リスク「割に合わない」
新薬候補がこれほど不足しているのはなぜか。
その一つの原因が、臨床試験にかかるコストだ。有効性・安全性の面から承認に高い壁が立ちはだかっていることも要因となっている。
臨床試験で一般的に用いられる低リスクの患者集団では、骨折の発生が比較的まれだ。このため、多くの患者を試験に組み入れる必要があり、これが研究開発費を押し上げている。さらに、いくつもの新薬候補が安全性の面から承認を得られておらず、規制当局が許容する安全性の“幅”も狭い。
骨粗鬆症では、安価で有効性も高いビスホスホネート製剤が広く使われており、大手製薬会社の多くは、開発失敗のリスクを考え、莫大な開発費用は割に合わないと結論付けているようだ。
とはいえ、イーライリリーの「フォルテオ」やアムジェンの「プラリア」は、臨床的に大きなベネフィットを示せば、十分なリターンを得られることを証明している。これらはいずれもブロックバスターとなっており、ラディウスヘルスの「Tymlos」(一般名・abaloparatide)と、承認されればアムジェン/UCBの「Evenity」(ロモソズマブ)がその仲間入りを果たすだろう。
将来の新薬候補は?
将来、ブロックバスターとなる骨粗鬆症治療薬は、まだあるのだろうか?
abaloparatideとロモソズマブを除けば、後期のパイプラインに新薬候補はない。この状況は、この先5年は変わらない見通しだ。しかし、骨粗鬆症の分野では最近、いくつかの発見が話題となっており、次世代の治療法につながると専門家も期待を寄せている。
【抗卵胞刺激ホルモン(FSH)療法】
閉経周辺期の後期にはFSHが高くなり、これが骨量の減少に関係している。マウント・サイナイ・アイカーン医科大の研究者らは、FSHを阻害することで脂肪量が減少し、同時に骨量が増加することを明らかにした。(Liu P、2017)
【老化細胞を除去する化合物】
メイヨー・クリニックの研究者らは、分裂しなくなった細胞だけを選択的に死滅させる化合物を投与することで、骨量と骨強度が上昇し、骨の微小構造も改善することを明らかにした。老化細胞は、インスリン感受性、虚弱、心血管機能といった加齢が影響する疾患とか関わっていることが分かっており、老化細胞を除去する化合物には幅広い有用性があると考えられる。(Farr JN、2017)
【骨形成に関係する遺伝子の特定】
ゲノムとの関係性を調べた研究者らが、低骨密度と密接に関わる203の遺伝子座を特定した。このうち153は、これまで骨密度との関連が報告されていなかったものだ。製薬各社はおそらく、これらのデータをもとに新薬候補を探索することになるだろう。(Kemp JM、2017)
新薬の波 次は10~20年後
骨粗鬆症の新薬開発は、これから活況を呈することになるのだろうか?
今のところその気配はない。有望な新薬候補が次の波としてやってくるのは、おそらく10~20年後になるだろう。今の状況では、骨粗鬆症領域は新規参入もなく、競合も激しくないため、新薬がヒットするチャンスは十分と言えるだろう。
abaloparatideとロモソズマブは、このチャンスを生かして大きな売り上げをあげることができるのだろうか。ラディウスヘルスとアムジェン/UCBは、間違いなくそれを期待している。
(原文公開日:2017年11月22日)
【AnswersNews編集長の目】日本の骨粗鬆症治療薬市場は活況を呈しています。民間調査会社の富士経済が2016年末に発表したレポートによると、市場規模は2024年に3745億円に達し、15年と比べて45.3%増加すると予測。第一三共の抗LANKL抗体「プラリア」やアステラス・アムジェン・バイオファーマの抗スクレロスチン抗体ロモソズマブが市場拡大を牽引する見通しです。
国内市場は従来、ビスホスホネート製剤を中心に形成されてきましたが、2010年から11年にかけて発売されたPTH製剤「フォルテオ」(日本イーライリリー)と「テリボン」(旭化成ファーマ)が爆発的に売り上げを拡大。活性型ビタミンD3製剤「エディロール」(中外製薬/大正製薬HD)も好調で、10年以降相次いで発売された新薬が売り上げを伸ばしています。
一方、国内で申請あるいは臨床開発の後期段階にあるのは、海外同様、ロモソズマブとabaloparatideのみ。abaloparatideは日本では帝人ファーマが開発しており、臨床第3相試験が行われています。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。Decision Resources Groupは、向こう10年の骨粗鬆症治療薬市場予測レポート(Disease Landscape and Forecast – Osteoporosis)を発行しています。レポートに関するお問い合わせはこちら。